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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第4章 高校の定期考査とダンジョン攻略

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男子たちの勉強会

 クリュスによる女子のための勉強会があった週末が終わり、中間試験までの残り日数が1週間を切った。校内は一見するといつも通りだが、よく見るとそこかしこに試験への緊張感が漂っている。特に1年生は高校で初めての定期考査なのでその傾向が高い。


 平日には他の生徒と同じように高校へと通う祥吾もその中の1人だ。ダンジョンの攻略で週末が潰れることが確定しているだけに危機感は強い。学校の授業はいつもよりも真面目に受け、帰宅後は予習と復習と試験勉強をしっかりとする。


 そんなある日の昼休み、祥吾は祐介に誘われて昼食を友人と食べることになった。いつもの場所に弁当を持って向かって空いている席に座る。ところが、今日は集まった面子がいつもと違った。祐介、敦、徳秋の3人は変わらないが、香奈と睦美がいない。更に珍しいことに今日は中岡良樹(なかおかよしき)が同席している。


 状況がまったくわからない祥吾は困惑していた。思わず祐介に尋ねる。


「祐介、今日はいつもと違うな。香奈と睦美はどうしたんだ?」


「あの2人は他のクラスの知り合いのところに行ったよ。今週は毎日だな」


「急にか?」


「一緒に試験勉強するらしいぜ。ほら、この前クリュスに教えてもらったってのは知ってるだろ? あれで勉強の調子が上向きになったらしいんだ。それで、それを聞きつけた友達に教えてくれって頼まれまくってるそうなんだ」


 この前の日曜日のやり取りを祥吾は思い出した。クリュスはあの2人のことを頭は悪くないと評価していたが、どうやらそれは本当のことだったらしい。


 弁当の蓋を開けて食べ始めた祥吾は祐介の話に感心する。


「すごいな。あの2人、一皮むけたって感じになったのか」


「らしいぞ。今じゃ友達の中で引っ張りだこだって喜んでたからな」


「いいなぁ、オレもクリュスちゃんに教えてほしかったよぉ」


 弁当に箸を付けるのが遅い徳秋が悲しそうにつぶやいた。クリュスが教えたのは女子だけなので男子はその恩恵に(あずか)れていないのだ。これは男女間の交遊に関する問題が絡むので仕方がないのだが、それでも徳秋は悔しがっていた。


 そんな徳秋を敦が慰める。


「それはもうしょうがないだろう。それよりも、自分たちで何とかする方法考えないと本当にまずいぞ」


「敦、お前と徳秋ってそんなにまずい状況なのか?」


「絶体絶命っていうほど追い込まれているわけじゃないけど、勉強しないとヤバいなっていう感じかな。余裕がないのは確かだぜ」


 力のない笑顔を向けられた祥吾は何とも言えない表情を浮かべた。自分とこの2人のどちらがより追い詰められているのかとつい比べてしまう。意味のない比較だ。


 思わずため息が出そうな祥吾だったが、そこで今回最もその存在に違和感がある良樹のことを思い出す。


「良樹は何でここにいるんだ? いつもなら映像研究会の部屋に行っているだろう」


「試験前の期間は活動停止になるんだ。どこの部活動でも同じだよ」


「そういえばそうだったな。で、こっちに流れてきたわけだ」


「うん。祐介君が誘ってくれたんだ」


「気が利くじゃないか、祐介」


「はっはっは、当然だろう。俺たちは友達だぜ? と言いたいところなんだが、実を言うとちょっと頼みごとがあって連れてきたっていうのもあるんだ」


 祐介の話を聞いた祥吾と良樹は顔を見合わせた。何を頼むのか皆目見当が付かない。


 そんな2人に微妙な笑顔を向ける祐介が話を続ける。


「今見てた通り、敦と徳秋の試験の準備状態が悪いのはわかっただろ。それを何とかしてやりたいと思ってるんだ」


「つまり、僕が敦君と徳秋君の2人に勉強を教えるのかい?」


「オレと祥吾も含めて3人でな。本当は香奈と睦美がいたら良かったんだが、あの2人は無理そうだし」


「おお、祐介! お前、俺たちのことを心配してくれたのか!」


「うう~、嬉しいよぉ!」


「はっはっは、助け合ってこその友達だろ!」


 感動する敦と徳秋に対して祐介は鷹揚に答えてみせた。確かにそんな気遣いができる友人は少ない。助けてもらう2人が感動するのも無理はなかった。


 話を聞いていた祥吾は中学校時代のことを思い出す。確かに祐介はあまり勉強していないように見えて学内試験の成績は悪くなかった。周りから飛び抜けるほどではなかったが、常に中の上程度だった記憶がある。一方、良樹も実は勉強はそこそこできる方だ。今の時点で不安を抱える敦と徳秋にとっては心強い味方に違いない。


 ただ、問題がひとつだけあった。その点は全員に伝えておく必要がある。


「祐介、俺についてだが、実はちょっと勉強に不安を抱えていてな。どちらかというと、俺も教えてもらう方かもしれないんだ」


「お、そうだったのか?」


「そういえば、祥吾君の中学の成績は真ん中くらいだったっけ?」


「おお、祥吾!お前も俺たちの仲間だったのか!」


「うう~、嬉しいよぉ!」


「どうして喜んでいるんだよ」


 もはや何にでも感動しそうな徳秋に祥吾は嫌そうな顔を向けた。どれだけ勉強しても不安と安心の間を往来する状態は正直言って苦しい。


 混沌としかけた場で、祐介が宣言する。


「それじゃ、今日から金曜日まで、毎日図書館で勉強会を開こうぜ。この間に先生が試験に出るって言ってたところや勉強するコツを教えてやるから。わからないところもどんどん聞いてくれ。教えられるところは教える」


「毎日か。なかなかきつそうだな」


「1回だけじゃダメなのかなぁ?」


「中間試験までもう間もないからそれまでは我慢しなって。どうせやっても3回くらいなんだから。それに、土日は自分たちで勉強するんだぜ。直前は1人でする方がいいからな」


 以後の昼休みはそれまでとは打って変わっていつも通りの明るい集まりとなった。やはり中間試験のことが重くのしかかっていたのだ。


 祥吾も幾分か気が楽になって弁当を食べる速度が速くなった。




 男子5人で勉強会を開くことが決まったその日の放課後、祥吾たちは図書館に向かった。いずれもわずかに面倒そうだが同時に笑顔でもある。


 図書室に入ると早速5人は教科書とノートを開けた。祥吾、敦、徳秋の3人は自分の勉強に集中し、祐介と良樹は他の3人を気にかける。


 3人のうち祥吾は今日の復習から手を付けた。日々の予習復習は今までも一応やってきたので、わからないところだけを後で教えてもらう予定である。


「祐介、ちょっとこの訳を教えてほしいんだけど」


「あーこれかぁ。面倒だよな」


「だよな! 訓読文なんてわけわかんねーよ」


 耳に入る言葉によると、敦は漢文でつまずいているようだった。それを祐介が一緒に読み解いている。祥吾は今日の漢文でわからないところは幸いなかった。


 次いで声を上げたのは徳秋だ。こちらは良樹を呼ぶ。


「これ、教科書を読んでもわからないんだけど、どうやって解けばいいの?」


「先生が解き方を板書してたけど、ノートには書いていないの?」


「あはは、そのときはちょっと寝かかっちゃっててぇ」


「だったら、僕のノートから書き写したらいいよ。ここからここまでだよ」


「ありがとう! あ、ここも書き写していいかな?」


 数学でノートへの書き漏らしがあったらしい徳秋が良樹のノートを見ながら解答を書き写し始めた。あの様子だと前の授業の板書をほとんど書き写すようだ。


 一方、祥吾は今日の復習を終えると、他の不明点に関して祐介と良樹に尋ね始める。


「祐介、この英語の一文なんだが、どうやって訳したらいいんだ?」


「その単語の手前に省略されてる単語があるんだよ。それがわからなかったら、マジ意味がわかんなくなるぜ」


「全部書いてくれてもいいのにな」


「そりゃ言えてる。まぁでも、文句は教科書を作った会社に言ってくれ」


 肩をすくめて言い返してきた祐介に対して祥吾は小さくうなずいた。確かに一高校生にそんな文句をぶつけても得られるものはない。


 こうして祥吾たち5人は夕方遅くまで勉強を続けた。そうして、時刻が午後17時頃になって一区切り付く。


「あ~、今日はこんなもんかな」


「だよね~。オレもう疲れたよぉ」


 集中力が切れたらしい敦と徳秋が声を上げて背もたれに体を預けた。それに合わせて祐介と良樹がペンを置く。


「今日はこれで終わりにしようか。いっぺんに詰め込もうとしても無理だろうからな」


「僕もそう思う。まだ明日もあるから今日はこれまでにしよう」


「それにしても、マジで助かったよ。これオレ1人でやってたら絶対詰まってたぜ」


「オレも~。わからないところだらけなんだよねぇ」


「これを繰り返していけば、後は何とかなりそうだな」


 ペンを置いた祥吾がつぶやいた。まだ完全な自信には繋がっていないが、勉強会を開いた手応えは掴んでいる。後は試験日に活かせるかだ。


 しばらく雑談をした後、5人は勉強会を解散した。

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