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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第4章 高校の定期考査とダンジョン攻略

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中間試験の影

 大型連休明けの登校はだるい。どの生徒も程度の差はあれこのような感覚だ。


 ご多分に漏れず正木祥吾(まさきしょうご)もそうである。やはり面白くはない。ずっと休みだったら良いのにと最初は思うものの、そうなるとひたすらダンジョン攻略の日々になりそうなので再び否定する。朝からなかなか忙しい。


 自転車登校の祥吾は家を出ると途中でクリュス・ウィンザーと落ち合う。横に並んで自転車を走らせ、雑談をするのが日課だ。


 この日は祥吾からクリュスへと最初に話しかける。


「だるいけれど、やっと登校だな」


「言い方がおかしくない?」


「学校自体はだるいんだけれど、ゴールデンウィークはほとんどダンジョン攻略ばっかりだったから、あんまり休んだって気がしないんだ」


「なるほど。でも、7日間のうち、ダンジョンに行ったのは3日間よね?」


「行った翌日も無関係じゃないだろう。朝の間寝る原因はダンジョンにあったんだから。それに、休みをあんなぶつ切りにされたら何もできないじゃないか」


「悪かったわ。でも、しばらくはこんな感じになりそうなのよね」


「さすがに学校を休むっていうことはできないぞ。父さんと母さんの態度も微妙だし」


「おじ様とおば様に何か言われたの?」


「昨日な。小言みたいなのは覚悟していたから驚きはなかったが、あの様子だと何かあったら強く言ってきそうなんだよ」


「それは困るわね。私にできることがあればいいんだけれども」


「直接説得しようとはするなよ。これは俺自身が何とかしないといけないことだからな。でないとどっちも納得しないだろうし」


「わかったわ。そっか、祥吾は祥吾で問題があるのね」


「その言い方だと、お前にも何かあるのか? 親の問題とか」


「そっちは大丈夫よ。私の場合は学校なの。クラスでの付き合いは最低限にしようとしているんだけれど、何かと構ってくる人がいてね」


「クラス内で男子が迫ってくるのか。それは厄介だな」


「そうじゃないのよ。女子の方なの。私を自分のグループに入れたがる人がいて」


「おお、めんどくさそうだな」


「それで今女の子だけで勉強会を開くことになったの」


「ん? いいこと何じゃないのか?」


「自分のグループへ引っ張り込むための方便よ」


 真面目な集まりだと思っていたものが途端に胡散臭く思えるようになったことに祥吾は嫌そうな顔をした。自分とは違う厄介事を抱えているクリュスに少し同情する。


 話をしているうちに2人は校門を通り過ぎた。他の自転車の流れに沿って校内の駐輪場へと向かう。自転車置き場の手前で自転車から降りると手押しで進んだ。


 空いている場所に自転車を置いた祥吾は前籠からスポーツバッグを取り出す。それを肩にかけて何気なく周囲を見た。すると、何人かが自分たちを見ていることに気付く。


「あれ、俺たちを見ている奴がいるな。いや、お前か?」


「どちらもよ。先月から見られていたけれど、気付かなかったの?」


「いちいち周りなんて気にしないだろう。ダンジョンじゃあるまいし」


「私もそれでいいと思うわ」


「あーそうか。でも、こういうのが噂になっていくのか」


「ひとつ賢くなったじゃない。しょせんゴシップの類いよ。行きましょう」


 周囲の様子などまったく気にもとめないクリュスが自分の鞄を持って歩き始めた。それを見た祥吾は感心と共におののく。常に注目されている者の風格を目の当たりにした。改めて自分が小市民だということを思い知る。


 支配者に使える従僕のような面持ちで祥吾はクリュスの後に続いた。




 昼休みになった。大型連休後初めての授業群をとりあえず乗り切ったという雰囲気が校舎全体に広がる。


 祥吾のいる教室内も同じだった。どの生徒も明るく元気に振る舞っているが、気だるそうな感じがそこはかとなく見え隠れしている。


 昼食のためにそれぞれの生徒が仲間と集まって輪になっていた。祥吾も、木田祐介(きだゆうすけ)多湖敦(たこあつし)香川徳秋(かがわとくあき)正名香奈(まさなかな)林睦美(はやしむつみ)と一緒に食べている。クラス内では最も大きな輪である。


「祥吾くんのお弁当って、いつみても大きいよねー」


「育ち盛りだからな」


「あたしのお弁当の何人分になるんだろー。運動部でもないのにすごいよねー」


 弁当箱2つ分にぎっしりと詰まった白米とおかずを見た睦美が感心していた。祥吾から見ても大人と子供以上の差があるように見える。


「それでいて全然太ってねーんだもんな。それどころか筋肉質だし。学校の外で格闘技とかでもやってんのか?」


「いや別にやっていないぞ。体は鍛えているが」


「なんでまた?」


「中学生の頃にちょっと太りかけたことがあるんだ。それでまずいと思って初めたんだよ」


 人並みサイズの弁当を(つつ)きながら尋ねてきた敦に祥吾は返答した。正しくはないが嘘でもないという回答である。やっていることからして、いくら食べても太らない自信があると内心で付け加えていた。


 そんな祥吾に今度は徳秋が話しかける。


「これで勉強もできたらスゲーよな。実際のところはどうなの?」


「どうって言われても、普通としか。中学のときの成績だって飛び抜けて良かったことなんて1度もないぞ」


「そうなんだ。なら、今度の中間試験でマジか見てみよう!」


「お前、イヤなこと思い出させんなよなぁ」


 それまで黙って話を聞きながらパンを食べていた祐介が声を上げた。かなり渋い表情を顔に浮かべている。高校最初の定期考査は5月の最後の週に実施される予定なのだ。今から2週間後と、まだ先のように思えて気付けばすぐそこになりそうな期間である。


 徳秋に非難めいた目を向けた香奈がため息をつく。


「もーマジ最悪。せっかく忘れてたのに」


「で、でも、どうせその日は来るじゃないの」


「そーなんだけどぉ、何も今言わなくてもいいじゃん。ああそれとも、あんたはそんなに勉強が得意なわけ?」


「徳秋はオレと同じくらいだから大したことないぜ」


「敦!?」


 横から刺されるような発言をされた徳秋が目を見開きながら敦へと顔を向けた。事実を指摘した本人はマイペースで自分の弁当を食べている。それを見た徳秋の顔が悲しそうに変化した。


 会話が一旦途切れたグループ内では静かに食事をする音が広がったが、その状況は突然興奮した香奈によって打ち破られる。


「そうだ! 祥吾、あんたクリュスとイイ感じの友達なんだったよね?」


「いい感じというのがどういう感じなのかは知らないが、友達なのは確かだな」


「あんたの言い分も認めてあげてるんだからいいでしょ。それより、クリュスに勉強を教えてもらえるように頼めない? すっごく頭がイイんだよね」


「えー、いいなー」


「それじゃ睦美も一緒に教えてもらおうよ」


「やったー!」


「何それ!? オレも教えてもらいたいんだけど!」


 のんきそうに喜ぶ睦美を見ていた徳秋が前のめりに参加を希望してきた。事態が次第にややこしくなってくる。


 目の前の状況を見た祥吾はどうしたものかと悩んだ。自分たちで直接頼みに行くというのならば祥吾は何も言えないが、自分を経由してとなると果たしてそのまま話を持って行ってもよいのか迷う。朝の登校時の話では似たような話を嫌そうに話していたことを思い出したからだ。しかし、ここで祥吾がせき止めるというのもおかしな話だ。ただの友人に過ぎないのにと問われると言葉に詰まる。


「ねぇ、祥吾からクリュスに頼んでみてよ」


「オレも勉強を教えてほしいって頼んでくれ!」


「あーわかった。今聞いてみるからちょっと待ってくれ」


 香奈と徳秋に押された祥吾は頼むことにした。どのみち最終的な判断はクリュスがするわけだから、最低1回は話を通しておく必要がある。


 スマートフォンを取り出した祥吾はすぐさまメールで簡単な問い合わせ文を書いて送信した。多少不便だが、SNSのアカウントを持っていないのだから仕方ない。


 返信はすぐだった。クリュスからの回答を見た祥吾はその内容に納得する。


「今週末の日曜日だったら教えても構わないらしいぞ。土曜日は自分のクラスの女子に教えるらしい」


「マジで! やったぁ! 聞いてみるもんだね! でも、進学クラスの子にも教えるのかぁ。マジで頭イイんだね、クリュスって」


「そんな人に教えてもらえるなんてラッキーだねー」


「待て、まだ続きがある。ただし、女子だけで男子はご遠慮くださいだとさ」


「えー、なんで!?」


「他クラスの男子も一緒にやると、他の男子生徒も言ってきて面倒だかららしい」


「あーわかるわぁ」


「絶対言ってくるよねー」


 最後まで文面を読んだ祥吾は徳秋に微妙な表情を向けた。クリュスの断る理由としては真っ当なものである。勉強会を口実に近づこうとする男子を防ぎたいのは明白だ。香奈と睦美の態度から女子にはその辺りが想像できるらしい。


 悔しがる徳秋を見ながら祥吾は小さくため息をついた。

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