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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第3章 高校入学とダンジョン攻略

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大型連休後半の活動2─横田ダンジョン─(5)

 クリュスに話しかけてきた探索者の主張はそう間違ったものではない。2人や4人よりも6人の方が魔物に対抗しやすいし、たくさん魔物を倒せるのならばそれだけ稼げるという理屈も合っている。しかし、求めてもいない協力を押しつけようとするのはどう考えても間違いだと祥吾は強く感じた。そもそも目的が相手と異なるので一緒にいる意味がない。


 しかも、相手の態度からナンパしにきている可能性が高かった。本気でクリュスを心配しているようにも見えるのでややこしいが、少なくとも祥吾は相手にしていないのでやはりナンパ主体だろう。それでいて6人で力を合わせてなんて言っていることから、まずは一緒に行動するための懐柔策なのか、それとも後で男だけ排除する打算でもあるのかもしれない。


 目の前のやり取りを見ながら色々と考えていた祥吾だったが、クリュスがこれほどはっきりと断っているのに諦めない相手に少し驚いていた。普通はここまで言えば諦めるか逆に怒って実力行使に出るものだが、この4人はそのどちらでもない。粘着されているようで実にいやらしかった。


 いっそさっさと番人の部屋へと入れたらと祥吾は思い、扉の取っ手を握って引っぱってみる。すると、大した抵抗もなく開いた。これには当の本人も驚く。


「あら、開いたの?」


「みたいだな。先の戦闘はもう終わっていたらしい」


「それじゃ入りましょう。ここで待っている理由はないですから」


 あっさりと言ったクリュスが祥吾に微笑みかけた。厄介者の4人と別れる良い機会と判断したことは祥吾にも理解できる。


 開いた扉の向こうへ珍しく先にクリュスが入ると祥吾がそれに続いた。後は扉が閉まってすぐに戦闘開始だ。


 ところが、ここで2人が予想外の事態が発生する。扉が閉まりきる前に例の4人が再び扉を開けて中に入ってきたのだ。


 予想外の事態に祥吾は愕然とする。パーティ単位でしか部屋に入れないはずなのになぜ男たち4人が入室できたのか。ちらりとクリュスを見ると目を見開いている。やはり予想外のことだったらしい。


「オレたちが役に立つところを見てもらおう! そうすれば考えを変えてくれるに違いない!」


 正面からは凶暴化した上位豚鬼(ハイオーク)10体が突っ込んできた。言い争っている暇はもうない。


 足の引っ張り合いをするのではなく、単純に一緒に戦うだけなら確かに6人の方が勝ちやすい。今の状況であっても恐らく勝てるだろうと祥吾は考えた。しかし、ここでクリュスの実力をあの4人に見せるのは良くないとも同時に思う。美しい花においしい実も付いていると知ればより強く執着するのは目に見えているからだ。問題は、この番人の部屋での戦いで手を抜くようなマネをしてどこまで戦えるかである。


「クリュス、こっちだ!」


「え?」


 魔法を使おうとしていたクリュスに対して祥吾は手を掴んで引っぱった。向かうは部屋の隅だ。勝手に入ってきた例の4人は取り残された形になる。


「俺に身体強化の魔法をかけたら後はその杖で攻撃をしのげ。あいつらに魔法を見せるな」


「わかったわ」


 小声で意図を伝えた祥吾は迫ってくる上位豚鬼(ハイオーク)3体を見ながら剣を鞘から抜いた。直後に全身に力がみなぎるのを感じる。


 豚鬼(オーク)よりも更に一回り体が大きい上位豚鬼(ハイオーク)に祥吾は自分から突っ込んで行った。豚の顔が一気に迫る。


 中央の個体が振りかぶって力任せに振り下ろしてきた斧を祥吾は半身になって躱した。そして、そのまま相手の右脇を通り抜け、向かって左側の個体が斜め下に振り下ろしてくる棍棒を剣で受け流す。相手の腕力が強いので相当厳しいが、魔法で強化された体はその衝撃に耐えてくれた。


 棍棒を床に叩きつけた状態で体を止めた上位豚鬼(ハイオーク)の前に立っていた祥吾は、その棍棒を持った相手の右手首を切断し、跳ね上げた剣先で首を切り裂く。倒れる巨体の奥へと目を向けると斧を持った個体が立ち直り、自分に振り向いてきたのを目にした。更に奥ではクリュスが3体目を相手に逃げ回っている。狭い空間でよくやっていた。


 死んだ個体が完全に倒れると、祥吾と斧を持った上位豚鬼(ハイオーク)が互いに前へと進んだ。雄叫びを上げながらその個体は斧を大きく振りかぶる。同時に祥吾はナイフを取り出してその頭部に投げつけた。上位豚鬼(ハイオーク)はかろうじてそのナイフを避ける。しかし、そのせいで体勢をわずかに崩して体が硬直した。その機を逃さず、祥吾は更に前へと出て剣先で相手の喉元を切り裂く。最後まで斧を振り下ろせなかったその個体はゆっくりと倒れた。


 連続して2体を倒した祥吾だが、まだ勝利の余韻にひたれる状況ではない。クリュスへと目を向けると魔法を使わずに上位豚鬼(ハイオーク)の攻撃を躱し続けていた。しかし、さすがに素の身体能力で凶暴化したあの魔物の攻撃を躱し続けられるとは考えにくい。恐らく自分にも身体強化の魔法をかけているのだろうと推測する。


 何にせよ急ぐ必要があった祥吾はクリュスへと近づく。すると、そのクリュスが祥吾の背後へとすぐに退いた。すれ違いざまに声をかけられる。


「あとよろしくね!」


「わかった」


 3体目の上位豚鬼(ハイオーク)と対峙した祥吾はすぐに動いた。凶暴化した個体は待つということを忘れたかのように突っ込んでくるからだ。突き出された剣をしゃがんで躱すと、そのまま前に出て剣を持った右手を切り裂く。絶叫を上げて尚も向かって来る個体から一旦離れ、突っ込んでくる相手の勢いを利用してその喉を切り裂いた。絶命しながらも抱きつこうとするように向かって来る上位豚鬼(ハイオーク)を避ける。


「とりあえずこっちの分は終わったな」


「あっちはまだ全員が戦っているわね」


「魔法で身体強化していないからそれはわかるが、あれはまずいな。あ、逃げた」


 例の4人は7体の上位豚鬼(ハイオーク)と戦っていたが、さすがに凶暴化した状態の個体を相手取るのは厳しすぎたようだ。1体は倒せたがそこまでで、4人とも入ってきた扉から出て行く。1人は負傷したのか、ふらつきながら仲間に支えられていた。


 こうなると残る6体の目標は祥吾とクリュスとなる。


「来たぞ!」


「我が下に集いし魔力よ、彼の者を絡め取れ」


 2人だけ残った番人の部屋で祥吾が叫ぶと同時にクリュスが魔法の呪文を唱えた。すると、上位豚鬼(ハイオーク)4体が体を硬直させて床に倒れる。


 後は先程と似たような展開だ。祥吾が興奮しながら襲ってくる個体2体を迎え撃つ。腕力の強さに多少手間取ったが、それだけだった。


 自分の担当分を倒した祥吾は動けない上位豚鬼(ハイオーク)にとどめを刺す。これで番人の部屋の戦いは終わった。ドロップアイテムがあちこちに現われる。


「やっと終わったぁ」


「大変だったわね。まさか、あの人たちが一緒に入ってくるなんて思わなかったわ」


「それで上位豚鬼(ハイオーク)を倒してくれたらまだ良かったんだが、結局逃げ帰ったしな。普段から地下10層で活動している連中じゃなかったのか」


「それとも、凶暴化したせいでいつもと勝手が違ったのかもしれないわ」


「あー、その可能性もあるのか」


 倒した数こそ1体だけだったが、例の4人は途中まで上位豚鬼(ハイオーク)と戦えていたことを祥吾は思い出した。そうなると、クリュスの推測が正しく思えてくる。


「何にせよ、これで他人から余計な干渉を受けずに進めるわね」


「そうだな。とりあえずドロップアイテムを拾っておこうか。やっぱり豚肉はないのか」


「祥吾ったらそんなに食べたいの?」


「いや、そういうわけではないんだが、どうしても連想してしまうんだよ」


 呆れた表情を浮かべるクリュスに対して祥吾は肩をすくめた。豚を見るとつい肉と自動的に連想してしまうわけだ。これはもう仕方ない。


 ドロップアイテムを取り終えたクリュスが祥吾に話しかける。


「これに懲りて、あの4人にはもうああいうことを止めてもらいたいわね」


「どうだろうな。今回は駄目だったのは仕方ない。次! って思っているかもしれないぞ」


「それじゃいつまで経っても進歩しないじゃない」


「常にみんなが前に進むわけじゃないからな。足踏みしたり後ろに戻ったりすることもある」


「また寄って来られると思うと憂鬱ね」


「ダンジョンで鉢合わせるのはそうそうないだろうから、たぶんもう会わないんじゃないかな」


「だといいんだけれどね」


 若干面倒そうに答えるクリュスに対して祥吾はあまり気にした様子はなかった。名前も知らない相手とばったり出くわす可能性は非常に低い。そう信じているのである。


「ところで、タッルスは大丈夫なのか? すっかり忘れていたけれど」


「ちょっと見てみましょうか」


「にゃぁ」


 リュックサックを下ろしたクリュスがその口を開けると黒猫が飛び出してきた。背伸びをすると祥吾にすり寄る。


 再びリュックサックに入れるのはかわいそうに思えた2人はそのまま歩かせることにした。

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