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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第3章 高校入学とダンジョン攻略

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大型連休後半の活動2─横田ダンジョン─(2)

 地下4層へと降りた祥吾とクリュスはすぐに次の階段を目指して歩き始めた。最短経路をたどって進んでゆく。


 この階層から地下6層までは犬鬼(コボルト)が出現する。成人男性の半分くらいの大きさで2本脚で立つ痩身の犬のような姿の魔物だ。小鬼(ゴブリン)とは違って武器は持っていないが、その代わり鋭い牙と爪により攻撃してくる。また、犬のような風貌の通りなかなかすばしっこい。


 こうして紹介すると面倒そうな魔物だが、パーティを組んで当たればそう難しい相手ではなかった。牙と爪は要注意だが腕力は体格通りにしかないので、体をある程度鍛えていれば人間の方が強い。後は落ち着いて戦えるかだ。


 そのため、横田ダンジョンに入る探索者の多くがこの地下4層から地下6層を目指す。小鬼(ゴブリン)よりも少しドロップアイテムが良いからだ。特に今回のような大型連休になると学生探索者が大勢押し寄せてくる。世間体の良くない探索者ではあるが、ある程度安全に稼げるのならば手を出す者は意外にいるのだ。


 2人が通路を進んでいるとそういう探索者パーティとたまに出会う。見た目が若い大学生らしき者たちが多く、中年のような年配の者は滅多に見かけない。


「みんな楽しそうだな」


「お小遣い稼ぎを楽しんでいるみたいね。実力が見合っているのならいいんじゃないかしら」


「仕事で入っている身としては複雑な気持ちになるんだよな。どうして高校に入ったばかりの俺たちが働いているのに、年上の大学生が遊んでいるのかって」


「私はそれについては何とも言えないわ。神様と直接話してみる?」


「どうやって?」


「あの小さい水晶があるでしょう? あれならお話できるわよ。それか、タッルスが水晶になったときもいけるわよ」


「そんな簡単に人間が話していいものなのか」


「いたずらはまずいけれど、真剣なお話だったら構わないと思うわ」


 随分と気軽に神々との会話を勧めてくるクリュスに祥吾は呆れた。本当に何かあったときに話ができるのは心強いが、こんな愚痴を訴えかけるというのはさすがに気が引ける。何より天罰など下されたら目も当てられない。


 色々と考えた結果、神々への直訴をしないことに決めた祥吾は前方の警戒に集中した。


 それが功を奏したのだろうか、祥吾は前方から魔物がやって来るのに気付く。


「クリュス、犬鬼(コボルト)が3匹だ。前に出るぞ」


「支援は必要かしら?」


「いらない。1匹そっちにいくかもしれないから構えておいてくれ」


 3匹すべてを相手にしても勝てる自信のある祥吾はクリュスに言い切った。少なくとも2匹は仕留めないと前衛の意味がないと張り切る。


 横一列で迫って来る犬鬼(コボルト)を迎え撃つべく祥吾は前進した。最初は真ん中の個体へと近づき、近づいて3匹の標的が自分になったのを肌で感じてから向かって右の個体へと急に進路を変える。その結果、中央と向かって左の2匹が祥吾に引きつけられるように進路を曲げる。


 真正面から飛び込んできた右の個体に対して、祥吾は更に右へと体をずらした。それと同時に剣を水平に薙ぎ払い、口を開けて噛みつこうとした犬鬼(コボルト)の頭部を上顎と下顎を境に切断する。切られた個体はそのまま慣性の法則に従って前に倒れていった。


 残る犬鬼(コボルト)2匹のうち、祥吾に近いのは中央の個体だ。もちろんすぐさま攻撃しようとする。死にゆく仲間の死体が前を横切るかのように倒れるのも邪魔とばかりに爪を突き出してきた。左の個体の立ち位置はその奥なので祥吾へと殺意を向けるだけである。


 祥吾はその様子を冷静に見極め、急停止するとまず突き出された左腕を肘から切断した。通常ならば魔物といえどもここで悲鳴を上げてためらうものだが、凶暴化している今は怒りの咆哮を上げて更に突っ込んでくるばかりだ。それを承知していた祥吾はそのまま右手から左手へと剣を持ち替えつつ犬鬼(コボルト)の喉元を切り裂いた。


 それまで完全に何も出来ないでいた残る1匹に祥吾は意識を向けると、倒れつつある中央の個体の背中を踏み台にして飛びかかってくるのを目の当たりにした。涎を垂らしながら大口を開けて迫ってくる個体から1歩下がって時間を稼ぎつつ、左手に持ち替えた剣を下顎から脳天へと思いきり突き刺す。強制的に口を閉じさせられた残る1匹だったが、それでも勢いは止まらない。のしかかろうとしてくるその死体を躱すため、祥吾は体を沈めて後転するように床へと転がり、右脚で死体の腹を押し上げて後方へと投げる。


 床に死体がが叩きつけられる音を聞きながら祥吾は立ち上がった。すぐに振り向いて犬鬼(コボルト)に突き刺した剣を引き抜く。


「お疲れ様」


「買ったばかりの剣が駄目にならなくて良かったよ」


 声をかけてきたクリュスに対して祥吾は笑顔を向けた。これくらいならばいつものことなのでどうということはない。


 ドロップアイテムの小さな魔石を拾う祥吾にクリュスが話す。


「次の階段までもうすぐよ。着いたらそのまま降りましょう」


「横田ダンジョンだとここから先は未知になるな」


「行ったことがないという意味ではね。でも地下6層までならここと大して変わらないわよ」


「それでも罠が面倒になったり、魔物の数が増えたりするんだろう。気を付けないとな」


「そう思っているうちは大丈夫ね」


 軽やかに笑いながらクリュスはタブレットを取り出した。祥吾が出発できると見ると経路を指示する。


 再び先へと進み始めた2人はしばらく歩いて階下へと続く階段にたどり着き、そのまま地下5層へと降りた。そこから先も最短経路で進む。途中、避けた方が良い罠があったので迂回することがあったものの、他は何事もなく歩き続けた。


 地下5層でも魔物と1度戦うだけで済み、階下へと続く階段に到着する。ためらう理由もないのですぐに階段を降りると地下6層を進んだ。この階層では地下4層の倍の魔物が出てくる。通常ならば最低4人、可能なら6人のパーティが望ましいとされている場所だ。しかし、それを祥吾の能力(チート)とクリュスの魔法で乗り切る。


 そうしてついに地下6層の番人の部屋の手前にたどり着いた。扉の前にはいくつかの探索者パーティが並んでいる。


「午後2時20分か。悪くないな」


「そうね。これなら今日中にやれそうね」


 スマートフォンで時間を確認していた祥吾の手元をクリュスが覗き込んだ。このまま何事もなければ日付が変わる前に帰宅できるという意味である。ちなみに、この地下6層の番人の部屋を突破してようやく折り返しだ。まだ先は長い。


 今回は他の探索者パーティと話すこともなく2人は待った。前に取り決めたように休憩も兼ねているので昼食の残り半分を取り出して口にする。それを見た手前のパーティの探索者たちがちらりと見ていたが何も言ってこなかった。クリュスへと視線が集中するのは相手が男ばかりなので仕方がない。


 時間の経過と共に探索者パーティは扉の向こうに消えていった。1度番人の部屋から逃げ出してきたパーティがいるが、目立つことと言えばそのくらいである。


「開いたぞ。入ろうか」


「いいわよ」


 自分たちの番が回ってきた祥吾とクリュスは扉を開けて部屋の中へと入った。反対側の奥には犬鬼(コボルト)を二回り大きくした魔物が群れている。上位犬鬼(ハイコボルト)だ。


 2人に気付いた相手が猛然と襲いかかってきた。やはり凶暴化している。室内は30メートル程度なので全力疾走されるとすぐに間合いは無きに等しい。


 しかし、クリュスは部屋に入る前から呪文を唱えていた。そして、部屋の半分辺りに火壁(ファイアウォール)を展開する。


「ギャウン!?」


 実に犬らしい悲鳴が上位犬鬼(ハイコボルト)の口から次々と上がった。ためらいもなく全力疾走していたために立ち止まれず、10匹すべてが次々と火壁(ファイアウォール)に突っ込んだのだ。


 しかしこれでお終いというわけにはいかない。中には燃えながらも尚向かって来る個体がいたからだ。全部で2匹、祥吾が前に出る。


 先に噛みつこうとした個体に対して、祥吾は剣を水平にして切りつけた。前に犬鬼(コボルト)にしたように頭部を上顎と下顎を境に切断する。


 次の個体は間に合わないので自分から仰向けに倒れた。そうして祥吾を飛び越えようとした上位犬鬼(ハイコボルト)の腹を右脚で思いきり蹴り上げる。呻いたその個体がひっくり返ったのと同時に祥吾が起き上がり、突っ込む。次いでまだ戦意を失わない個体も跳ね起きたがわずかに祥吾が早かった。その口へと剣を突っ込んで絶命させる。


 これで勝負はついた。残る8匹は祥吾が戦っている間にクリュスが魔法で拘束して身動きが取れなくなっていたからだ。後はとどめを刺していくだけである。


 戦いが終わった後、2人は現われたドロップアイテムを回収した。魔石の他に牙と爪が手に入る。小鬼長(ホブゴブリン)のときと同じく普通の犬鬼(コボルト)と内容がほとんど変わらない。


 やることを終えた2人は地下7層への階段を下っていった。

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