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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第3章 高校入学とダンジョン攻略

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大型連休後半の活動2─横田ダンジョン─(1)

 大型連休の後半も終わりに近づいてきた。休日は残すところ2日となり、そろそろ平日の影がちらつく頃である。


 そんな貴重な休日の早朝に祥吾は目を覚ました。前日は早めに寝たので眠いということはない。疲労がないのは能力(チート)のおかげもあるだろう。


 リュックサックとスポーツバッグの中を確認した祥吾は朝食を済ませてから自転車で自宅を出た。途中、待ち合わせ場所でクリュスと合流する。


「クリュス、おはよう。一昨日の疲れは残っていないか?」


「平気よ。昨日ゆっくり休んだから」


「それは良かった。なら行くか」


 安心した祥吾はクリュスと共に自転車のペダルを漕ぎ出した。向かうは横田ダンジョンである。


 2人は多摩川を最初は南東側、次いで南側へと進んでいった。途中までは青村多摩川ダンジョンに通じる前回の道を通り、以後もひたすら直進する。約30分そのまま進んだ後、東側へと曲がってできるだけ大きな道をたどった。


 やがて午前7時前には探索者協会の横田支部に到着する。旧アメリカ軍基地から探索庁監視隊と自衛隊が引き継いだ施設に囲まれた場所だ。


 駐輪場に自転車を止めた2人は荷物を持って本部施設の建物へと入る。ロビーには往来する探索者が多数いた。まだ大型連休中とあって活気がある。


 ロビーを突っ切った奥にある通路に入った2人は更衣室へと入った。男性更衣室では祥吾がスポーツバッグからインナーやエクスプローラースーツを取り出して身につけてゆく。最後にプロテクターと剣を装備して完了だ。ロッカーにスポーツバッグをしまい、リュックサックを背負って廊下に出た。ほぼ同時にクリュスも姿を現す。


「祥吾、用意はできた?」


「できているぞ。今日は前回よりも更に長丁場だからな。いつもより念入りに確認した」


「だったら、後は受付カウンターで情報を確認するだけね」


 互いにやるべきことを済ませていることを知った2人はすぐにロビーへと向かった。そうして速報性の高い情報がないか確認する。その結果、今のところ専用アプリに表示されている情報がすべてであることがわかった。


 受付カウンターで振り返った祥吾がクリュスに話しかける。


「新しい情報はないらしい」


「つまり、前のままということね。結構なことだわ」


「俺としてはおとなしくなっていてほしかったんだけれどな」


 状況に変化がないことを肯定したクリュスに対して祥吾は肩をすくめた。あくまでも軽口なので落胆はしていない。


 すべての用意が整った2人は建物から出てダンジョンへと足を向けた。




 2人が正門を抜けて警戒地区をつっきり階段を降りると、そこには石造りの人工的な風景が広がっていた。正面玄関(エントランス)にはいくつもの探索者パーティが点在していて騒がしい。


「クリュス、いつでもいいぞ」


「正面の通路をまっすぐ進んでちょうだい。突き当たりまで」


 タブレットを片手に持ったクリュスの前に立っていた祥吾は歩き始めた。この辺りはまだ人も多いので魔物が現われることもなく、罠もこれといってない。


 今回の2人は全12層の横田ダンジョンを攻略する予定である。前回の偵察の結果と集めた情報からやれると判断したわけだが、1階層あたりにかかる時間を考えると1日でぎりぎり攻略できるかどうかの階層数だった。そのため、寄り道はもちろん、道中の戦闘も可能な限り回避する予定である。


 地下2層に続く階段を目指して2人は先を進むが、探索者の姿はまだ同じ通路上で目にする。より多くの魔物を仕留めるために人気(ひとけ)のない場所を求めて下層に向かうのだ。その分戦闘が減るので収入も落ちるが、先に進む分には都合が良い。


 たまに分岐路の先から聞こえる戦闘音を耳にしながら2人は先に進む。そうして地下1層と地下2層では戦うことなく階下の階段へと到達した。前回はそのあまりに平穏すぎる探索に不満を抱いた祥吾だったが、今は逆に喜んでいる。


「最後までこうだと楽なんだけれどなぁ」


「馬鹿なことを言っていないで、そこを曲がってちょうだい」


「それにしても本当に全然魔物と遭わないな」


「ゴールデンウィークでダンジョンに入る探索者が増えたからでしょう。浅い階層だと魔物の取り合いになっているんだと思うわよ」


「休みの日に来たのは正解だったということか」


 意外な連休効果に祥吾は少し目を丸くした。結果的に周囲の探索者たちが自分たちの露払いをしてくれているわけだから嬉しい限りだ。


 地下3階に降りた後も祥吾はクリュスの指示で最短経路を進む。この辺りになると前後に他の探索者の姿は見えなくなったが、同時に相変わらず魔物の影も見当たらなかった。


 そうしてついに2人は魔物と出会うことなく地下3層の番人の部屋の前にたどり着く。前回はここで部屋に入るため順番待ちをしたが、果たして今回も同様だった。しかも、順番待ちしているパーティの数が多い。


「前の倍くらいか。連休の効果はこんなところにも現われるのか」


「いいことばかりじゃないっていうことね」


「今は、10時半か。ここまでは順調だったんだけれどな」


「前の待ち時間を考えると、30分から1時間待ちってところかしら」


「長いな。ちょっと早いが昼休憩にするか」


「だったら、大きな休憩は番人の部屋の手前ごとで取りましょう」


「その分他の休憩を削るわけだな」


 予想外の状況に遭遇した祥吾は頭を抱えたが、クリュスと相談して休憩の時期を調整することで時間の損失を回収することにした。下層に行くほど待ち時間は減るはずだが、待たずに済む可能性は低いと予想したのだ。


 今後のことについて祥吾がクリュスと話をしていると、ひとつ前で待つ探索者パーティのひとりが話しかけてくる。


「随分と若いな。しかもかなりかわいい子と一緒じゃないか。お前らも中ボスの部屋に行くのか?」


「はい、そうです。結構待たないといけないみたいですが」


「今はゴールデンウィークだからな。学生がわんさか押し寄せてくるんだよ。ああ、お前ら2人もだったな、はは」


 年配の探索者は自分の言葉に笑ったが、祥吾は返答に困った。大型連休に狙ってダンジョンに入ったのは確かだからだ。しかし、ここで怒っても仕方ないと気持ちを切り替えて気になることを尋ねてみる。


「この休みの日に人が多いのはそうだと思いますが、みんなどの辺りの階層まで行くんですか?」


「そうだなぁ。体感だと地下6層辺りまでか。学生連中はそのくらいだ。でもその先、地下7層以下も少なくないぞ。あのバカ力どもを相手にするのは少し厄介だが、実入りは悪くないしな」


「地下9層辺りまでということですか」


「そうそう、そんなもんだ。そこより下となると今度は数が多くてきつくなるから、よっぽど腕に自信がないと行かないね」


 つまり、地下6層の番人の部屋ではまだ待つ可能性があり、地下9層では待たずに入れそうなわけだ。これは地味だが良い話を聞けたと祥吾は内心で喜ぶ。


 そうやって話をしている間にも、順番待ちの探索者パーティは順次部屋へと入っていった。その後にも列に並ぶ探索者パーティが現われるので、順番待ちのパーティ数は一向に減らないが。


 今回は戻ってくる探索者パーティもなく、順調に先へと進んでいるようだった。その間に祥吾とクリュスは少し早い昼食を携行食で済ませる。食べる量は半分にして動きを阻害しないように気を付けた。残りの半分は次の番人の部屋の手前で食べる予定である。


 昼食を終えた2人は試しに扉を開けようとした。すると、大した抵抗もなく開く。既に前の戦闘は終わっていたようだ。


 ある程度腹も満たしたところで元気いっぱいの2人は部屋の中へと入る。


「前と同じか」


 部屋の奥に群れている小鬼長(ホブゴブリン)を目にした祥吾がつぶやいた。本日初めての戦いだということに今更気付いたが、前回倒せた魔物相手なので気負うことはない。前と同じように戦えば良いだけだ。


 戦いは予想通りの展開となった。最初にクリュスが魔法で小鬼長(ホブゴブリン)の大半を拘束し、残りの多くを祥吾が引き受け、後衛にまで突っ込んで来た個体をクリュスが仕留める。小鬼(ゴブリン)系の魔物であればこんなものだ。


 魔法で拘束されていた小鬼長(ホブゴブリン)にとどめを刺した祥吾が振り返る。


「ここまでは順調だな」


「というより、ほとんど何もなかったでしょう。これで何かあったら一番下の階層まで行けないわ」


 わずかに呆れた表情のクリュスに言い返された祥吾は苦笑いした。罠も大してない場所を歩くだけで問題が発生してはこの先が思いやられるのは確かだ。


 出てきたドロップアイテムを2人は回収する。少額でも先立つものの足しが今はほしいのだ。特に祥吾はこれからも武具や道具の消耗が激しい予感がするので1円でも手に入れておきたい。


 やることを済ませると2人は地下4層への階段を下っていった。

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