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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第3章 高校入学とダンジョン攻略

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大型連休後半の活動1─青村多摩川ダンジョン─(2)

 地下4層の番人の部屋を突破した祥吾とクリュスは地下5層へと降り立った。その瞬間、泥や草木の匂いを含んだ湿り気のある空気に包まれる。踏み入れた足には程よく水分を含んだ泥が絡み付き、歩くだけでも厄介だ。


 自分の足元に目を向けた祥吾が口を開く。


「防水のブーツ、ちゃんと機能しているようだな」


「良かったわね。それでも歩きにくさは変わらないけれど」


「このダンジョンはここからが本番だよな。くそ、上と違って頭上は一面曇り空か」


「雰囲気も盛り上げてくれるなんて大したダンジョンね」


「クリュス、タッルスは大丈夫なのか?」


「確認してくれる? リュックサックの中を1度見てちょうだい」


 頼まれた祥吾はクリュスの背後に回ってそのリュックサックの口を開けた。すると、黒猫が顔を出す。


「にゃぁ」


「おお、元気そうだな。良かった。ここからは地面が泥だらけだから、もうしばらく我慢してくれ」


 頭を撫でる祥吾の手のひらに顔をすり寄せたタッルスは再びリュックサックの中に引っ込んだ。すべてを理解しているかのような行動である。


 リュックサックの口を閉めた祥吾は改めて周囲を見た。そうして顔をしかめる。


「視界は悪くないんだが、やっぱり足を取られるのが厄介だな」


「座って休憩できないのも嫌らしいわよね。川と土手に挟まれた場所は湿地、土手の部分さえも湿り気が強くて座れないなんて」


「魔物を殺す度に疲労回復する俺の能力はこういった所でも役立つわけだ。異世界にいたときはこういう場所で活動していなかったから、気付かなかったなぁ」


「そうなると私の休憩が問題になるのね。どうしたものかしら」


「うーん、そうだなぁ。あ、階段で休めばいいんじゃないか? あそこは石畳だから座れるぞ。どうせ不人気ダンジョンで人も来ないから使いたい放題だ」


「いい考えね。今まで思い付かなかったのが不思議なくらいだわ」


「思い付いたんだし、いいじゃないか。よし、行こう」


 厄介な問題に頭を悩ませていた2人は思わぬ解決方法に目を見開いた。これでどうにか行けそうだと判断できると前に進む。泥の中での行動なので一歩一歩の足取りが重い。


 地下5層での魔物の遭遇にはあまり時間はかからなかった。最初に出会ったのは巨大蛇(ジャイアントスネーク)だ。成長すると20メートル以上あるこの魔物は麻痺毒を口から出すことが知られている。また、皮膚は柔軟性があって刃物が通りにくい。


「いきなり厄介なのが来たな! こういうときに盾がほしくなる」


「祥吾、前に出るのは待って」


 いつも通り動こうとした祥吾は背後からの声に足を止めた。何をするのか様子を窺っていると呪文を唱える声が耳に入る。それが終わると、周囲が急速に冷えていくのを肌で感じた。


 滑るように2人へと近づいて来ていた巨大蛇(ジャイアントスネーク)も異変に気付いたらしく、冷気から逃れようと動く。しかし、冷える方が早い。湿地の表面は急速に霜に覆われ、巨大蛇(ジャイアントスネーク)の巨体が凍り付いた湿地に張り付いた。


 ほとんど動けなくなった蛇の魔物を見て祥吾がつぶやく。


(フロスト)か。強烈な威力だな」


「あれなら仕留められるでしょう。後はお願いするわ」


 頼まれた祥吾はうなずくと剣を持って巨大蛇(ジャイアントスネーク)に近づいた。霜の降りた湿地は脚が沈むことがないので動きやすい。魔法が発動した中心地に近づくほど寒くなる。ここだけ真冬のようだ。


 巨大蛇(ジャイアントスネーク)は完全には凍り付いていない。頭と尻尾の先はまだ動いている。だが、それでもかなり鈍っていた。


 その頭の部分に迫った祥吾は剣で目を刺す。奥まで差し込んで引き抜くと蛇の魔物は痙攣してから動かなくなった。湿地帯では討ち取るのに苦労するはずの魔物をこうしてあっさりと倒す。


 白い息を吐きながら祥吾は振り向いた。それから近づいて来るクリュスに声をかける。


「終わったぞ。これもあっさりだったな」


「楽が出来て良かったじゃない。ドロップアイテムは蛇皮ね。結構値が張るものよ」


「防具や財布だったか? 高級品に化けるんだよな」


「そうよ。今日は結構な収入になりそうね」


「これで人が来ないのが不思議なんだよなぁって、クリュスの魔法あってこそだったか。自分1人で戦うとなると面倒だな。足場が悪いだけに」


「毎回出てくる魔物が何かはっきりとわかったら金策として有効かもしれないわね」


 クリュスの言葉に祥吾は力なく笑った。次にどんな魔物と遭遇するかなどそのときなってみないとわからない。それは倒した後のドロップアイテムが何かということも含めてである。


 後処理も終えた2人は先へと進んだ。地下4層までよりも時間をかけて湿地帯を歩き続けると、ようやく階下へと続く階段を発見する。


「あーやっと着いたぁ。やっぱり泥の中は歩きにくいな」


「そうね。これでやっと休憩できるわ。タッルスも出してあげないと」


 泥の中から足を引っぱりだして階段にたどり着いた2人は大きく息を吐き出した。石だらけの河原に比べて5割増しの時間がかかっている。地味な疲労が2人の体を覆っていた。


 ブーツにまとわりついた泥の塊を階段の角でそぎ落とし、クリュスの水属性の魔法である程度洗い流す。どうせ次の階層でまた汚れるので足が軽くなる程度で良い。


 リュックサックを下ろして階段に座った2人は遅めの昼食を始めた。クリュスはタッルスを外に出してやる。自由になった黒猫は背伸びをすると2人の周辺を歩き回った。


 携行食を取り出して囓った祥吾が食べながらしゃべる。


「次は地下6層か。あとどのくらいかかるんだか」


「今の調子だと4時間半ね。休憩が終わってから出発するとなると、日が暮れてから守護者の部屋にたどり着くことになるわ」


「家に帰れるのは夜中か。思ったよりも遅いな」


「今日中に帰宅できるので良しとしましょう」


「仕方ないな。それより、湿地帯に入って地味に嫌なことがもうひとつわかったよな」


「何のこと?」


「ドロップアイテムが泥だらけになるってことだよ。地面に現われるんだから当然なんだが、クリュスの水の魔法で泥を洗い落とせなかったら袋の中が大変なことになっていたぞ」


「これは偵察のときには気付かなかったことよね」


「そもそもあのときは湿地帯で戦っていなかったしな」


 次々と携行食を囓っては飲み込んでいく祥吾は難しい顔をした。事前調査をするのは良いにしても、何を調べるのかという観点で抜けがあると意味がない。今回はそれを思い知った。


 30分ほど休憩した後、祥吾とクリュスはタッルスをリュックサックに入れると階段を降りた。地下6層も相変わらずの湿地帯である。わかっていたがいざその光景を目にすると気分が沈む。


 それでも進まないわけにはいかない。2人は気を取り直して湿地帯へと足を踏み入れた。途端に足を取られて歩速が落ちる。


 不満を顔に表しながらも2人が湿地を歩いていると、先頭を進む祥吾は何となく違和感を抱いた。1度立ち止まって周囲に目を向けるが今までと変わりない。


「祥吾、どうしたの?」


「何となく嫌な予感がしたんだが、それが何なのかまでわからないんだ」


「勘が働いたのね」


「そういうことになるんだが、何もないように見えるんだよな。とりあえず先に進んでみるか?」


「いいえ、私が周りを探してみるから少し待っていてちょうだい」


 ぼんやりとした危険について聞いたクリュスはその場で魔法の呪文を唱えた。そうして自分たちよりも前方に目を向ける。


「いたわ。右斜め前、8メートル。湿地帯に半分体を埋めている。結構大きいわ。10メートルくらい?」


「なんだそのでかぶつは。一体どんな魔物がいるんだ?」


「蛇か鰐なんじゃないかな。たぶん鰐?」


「それにしても8メートルか。結構近いな。もしかして待ち伏せでもしていたのか」


「祥吾、どうする? ここから魔法で攻撃してみる?」


「川の方にはあんまり近づきたくないんだよな。クリュス、やってくれ」


 今の2人の右側が土手で左側が川だった。湿地帯と川の境は曖昧なので、あまり川に近寄りすぎると凶暴な魚の魔物に食い付かれる可能性がある。祥吾はそれを嫌ったのだ。


 要請を受けたクリュスは捜索(サーチ)の魔法であぶり出した魔物に魔法の攻撃を仕掛ける。


「我が下に集いし魔力よ、硬き石となり、鋭き槍となれ」


 呪文の詠唱が終わると、クリュスが指摘した場所に先端を尖らせた太い石が突然湿地帯から突き出てきた。その瞬間、何かがぶつかる低い音がしたかと思うと、鰐らしき魔物が暴れ出す。しかし、胴体を2ヵ所も貫かれたその魔物の動きはすぐに弱まり、動かなくなった。


「お見事」


「どういたしまして」


 結局1人で隠れていた魔物を片付けてしまったクリュスに対して祥吾は賞賛の言葉を贈った。奇襲を受けていた可能性が高いだけに素直に褒める。


 ドロップアイテムを拾った2人は再びダンジョンの奥へと進んだ。

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