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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第3章 高校入学とダンジョン攻略

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偵察の結果─横田ダンジョン─

 祥吾とクリュスは番人の部屋を突破した後、地下4層を探索した。ほとんど階下へ続く階段を目指していただけなのだが、それでも何度か魔物と交戦する。この階層でもやはり魔物は凶暴化しているようで容赦なく突っ込んできた。


 その末に目指す階段まで到達したわけだが、ここで時間切れとなる。あくまでも今回は偵察であり、横田ダンジョンの感触を掴むための探索だったからだ。


 地下4層から引き返した2人は往路よりもやや短い時間をかけて地上に戻る。そうして、買取店でドロップアイテムを売却すると、朱い空の下帰宅した。ちなみに、今回はあまり戦っていないので換金額は前回よりも大幅に少ない。探索者らしい不安定な収入額だった。




 翌日、昼下がりに祥吾が家でごろごろとしていると母の春子に呼ばれる。玄関へと向かうとワンピース姿のクリュスがいた。


 にやにやした春子が立ち去ると祥吾がクリュスに声をかける。


「俺の部屋に行こう。ここでしゃべっていると何を言われるかわからないからな」


「そうね。昨日のことで話したいこともあるから、そうしましょう」


 靴を脱いで家に上がったクリュスを先導するように祥吾は2回に上がって自室に入った。座布団を引っぱり出してきてクリュスのために用意する。人を入れる準備が終わると自分は椅子を反対にして座った。


 差し出された座布団に座ったクリュスが先に口を開く。


「昨日はお疲れ様」


「あんまり戦っていなかったからそこまでかな。青村多摩川ダンジョンの方がよっぽど戦っていたし」


「祥吾の場合、その方が元気になるのよね」


「まぁな。ああいう数を捌くときが俺の能力(チート)の見せ場だからな」


「それで、実際に横田ダンジョンに入ってみた感想はどうだった?」


「普通のダンジョンっていう感じだったな。ダンジョンの造りそのものは石造りのやつだったし、罠も魔物も意表を突かられたものがなかったから」


「その魔物が凶暴化した状態だったけれど、それでも?」


「意見は変わらないな。確かに凶暴化したのは厄介だったよ。攻撃を受け流すときは勢いが強くて目測と違うこともあったしな。でも、慣れてしまえば怖くない。同士討ちも平気でするっていうその気性を利用できるならもっと楽に戦えるだろう」


「ということは、先に進むのに大きな影響はないということなのね」


「そうだな。昨日は豚鬼(オーク)と戦っていないから断言はできないが、今のところ異世界で遭ったことのある魔物と同じ感じだったから、いけるんじゃないかな」


 昨日のことを思い出しながら祥吾は話した。下層に行くほど難易度が高くなるのは当然として、その度合いが極端に変化しなければ何とかなると考えている。少なくとも、異世界で最後に探索した迷宮よりも難しくないことは確実なので、踏破出来ない可能性はない。


 満足そうに祥吾の話を聞いていたクリュスが口を開こうとしたとき、祥吾の部屋の扉をノックする音が2人の耳に入った。そして、祥吾が返事をするよりも早く扉が開く。


「飲み物とお茶菓子を持ってきたわよ」


「俺が返事をしてから入ってくれよ」


「まぁまぁいいじゃない。別にやましいことなんてしていないんでしょ?」


「そういう問題じゃないだろう」


 呆れ顔の祥吾を気にすることもなく、母親の春子が室内に入ってきた。2人分のお茶とお茶請けが乗っている大きめのお盆をクリュスの前に置く。


「クリュスちゃん、何かあったら大声を出すのよ。私、下からすぐに飛んでくるから」


「ありがとうございます、おば様。でも、大丈夫ですから」


「自分でなんとかできるっていうこと? まぁすごいわねぇ、最近の子は」


「祥吾のことはもっと信じてあげてくださいね」


「まぁ! お友達にこんなことを言われるなんて」


「そうだぞ。母さんはもっと俺を信じるべきなんだ」


「何を言っているの。産んで育てたから信じられないことだってあるのよ」


「俺が何をしたっていうんだ」


「あなたもお父さんの子だっていうことよ」


「え?」


 意味深な言葉を聞いた祥吾が言葉に詰まっていると、春子はにやにやしながら立ち上がった。そうしてそのまま部屋を出て行く。


 静かになった室内で2人はしばらく扉へと目を向けた。やがてお互いに顔を向け合う。


「おじ様、一体何をなさったの?」


「知らん。あの父さんが何かするとも思えないんだが。いや、若い頃はもしかしてやんちゃをしていたのか?」


「人は見かけによらないっていうやつかしら」


「そうなるのか。でも、父さんに聞いても教えてくれないだろうなぁ」


 それが過去のやらかしであればあるほど話してくれると祥吾は思えなかった。自分だって恥ずかしい過去や情けない事情を進んで人に話したいとは思わない。それが自分の息子であれば尚更だということは容易に想像できた。


 少しの間2人は黙ってお茶をすする。祥吾はそれで気持ちを落ち着けた。いい加減本題に戻らないといけない。


「クリュス、話を戻そう。先週の青村多摩川ダンジョンに続いて昨日横田ダンジョンに出向いたわけだが、あとひとつ、神様から言われている奥多摩3号ダンジョンがあっただろう。あれの偵察についてなんだが、今やるべきだと思うか?」


「正直微妙よね。青村多摩川ダンジョンで、大量放出前のダンジョン内が大変だってことがわかったから。奥多摩3号ダンジョンの地形を実感するっていう意味でならあるかもしれないけれども」


「そうなんだよな。青村多摩川ダンジョンは間引きが終わってから行くって決めたから、そうなると奥多摩3号ダンジョンも同じ結論になるんだよな。偵察するにしても間引き後の方が楽だし。あそこはまだ核が変調したわけじゃないんだろう?」


「ええ、今のところは。それなら急いで行く必要はなさそうね」


 必要な苦労だとしても可能な限り減らす努力をするべきならば、避けられる苦労は積極的に避けるべきだと祥吾は考えた。自分の命がかかっているのだから尚更である。


「ということは、青村多摩川ダンジョンと横田ダンジョンのどっちから行くかだな」


「祥吾、青村多摩川ダンジョンの方は今、魔物の間引きをしている最中だそうよ。エクスプローラーズのお知らせ欄にあるわよ」


「お、本当だ。ということはこれが終わってからだからだな。5月の最初に終わる予定っと。連休の後半にはいけそうなのか。あれ? つまりどっちからでもいいわけか」


「明日にダンジョンへ入るんだったら横田ダンジョンになるわよ」


「明日かぁ」


 指摘を受けた祥吾は難しい顔をした。今年の大型連休は、4月の終わりに3日間と5月3日からの4日間だ。連休と連休の間は平日なので登校することになっている。現在は大型連休の前半2日目だ。明日の休みが終わると学校へ登校である。


「クリュス、ダンジョン2つの攻略は来月にしよう」


「構わないけれど、どうして?」


「青村多摩川ダンジョンは間引きが終わってからだからなんだが、横田ダンジョンの方は1日で攻略するにしてもかなりきついぞ。1層あたり1時間かかると計算して、12層だから最低12時間はかかることになる。何かあれば更に時間は延びるわけだが、その翌日に学校へ登校したいと思うか? 前の青村多摩川ダンジョンのときのことを思い出せ。守護者の部屋から転移できるとしても、あれに近い状態になるのは間違いない」


「あーそうね。翌日は午前中はゆっくりしていたことを思い出したわ」


「そうだろう。となると、大型連休の後半にまとめて攻略するしかない」


「わかったわ。そういうことなら納得できる」


 祥吾としても可能なら早めに攻略して大型連休の後半はゆっくりとしたかった。しかし、色々な都合を勘案すると思うような予定を組めない。難しいところである。


「ということで、後は青村多摩川ダンジョンと横田ダンジョンのどちらを先にするかだな」


「私としてはどちらでもいいように思えるんだけれど、難しいわね」


「青村多摩川は後半の湿地帯が厄介で、横田は12層という階層そのものだな」


「どちらもあまり変わらないような気がするわ。でも、番人の部屋の数は全然違うわよね」


「攻略するときはタッルスを連れていかないといけないんだよな」


「そうね」


「となると、湿地帯の方が厄介だな。あいつ、あそこじゃ床、っていうより地面に降りられないだろう」


「泥だらけになっちゃうわ」


「だったら、先に青村多摩川の方を攻略してしまうか? 間引きが予定通り終わっているっていう前提で話をしているが」


「まだましな方を後回しにするわけね」


「先に面倒な方を片付けて後で楽をしよう」


 冗談めかして言った祥吾を見たクリュスがくすりと笑った。反対意見は出てこない。この瞬間、大型連休の後半の予定が決まる。


 2人は更に細かいダンジョンの攻略について話し合った。

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