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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第3章 高校入学とダンジョン攻略

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横田ダンジョンへの偵察(後)

 クリュスが魔法で拘束した小鬼(ゴブリン)もまとめて始末した後、祥吾はドロップアイテムを回収しながら考え込んだ。襲ってきた小鬼(ゴブリン)の強さは黒岡ダンジョンの同種と対して変わらない。特別強くなったような感じはしなかった。


 では、同じように戦えたのかというとそうでもない。後先考えずに突っ込んできた分だけ勢いがあった。そのせいで致命傷を与えてからも意識を外せない。相手の体は尚も動いているからだ。小鬼(ゴブリン)程度ならどうということはないが、より下層の魔物も同じだとしたら難易度は確実に上がっている。


「祥吾、どうだった?」


「微妙に面倒だな。この辺りだとまだいつもより暴れているだけっていう程度で済んでいるが、下の階層のもっと強い魔物だとそれだけで脅威になることもあるだろう」


「ということは、凶暴化していることは確かなのね」


「それは間違いない。ああ、正しく狂化(バーサーク)しているな」


 自分の口から出てきた言葉に祥吾は妙に納得した。単に興奮して暴れているのではなくて狂っているのだ。これがダンジョンの核の変化によるものだとしたら、初めて実感できたことになる。


「クリュス、あと1回か2回戦ったら中ボスの部屋へ行こう」


「それで感触は掴めるわけね」


「ああ。そっちはどうなんだ?」


「魔法の効きは今まで通りみたいだから、私のことは気にかけなくてもいいわ」


 問題がないことを確認した祥吾は通路を歩き始めた。最短経路を外れて番人の部屋へ向かったことにより、2人はその後も何度か小鬼(ゴブリン)と遭遇する。そのいずれもが他のダンジョンの同種よりも興奮状態であった。


 凶暴化した魔物との戦いに慣れた祥吾はもう戸惑うことがなくなる。後は魔物の強さに対処できれば良いだけだ。


 そのことを実感した2人はやがて番人の部屋の前にたどり着いた。しかし、すぐに中には入れない。その部屋の扉の前には別の探索者たちがパーティ単位で立っているからだ。


 何事かと祥吾が近くの探索者に声をかけてみる。


「みんなここで何をしているんです?」


「中ボスの部屋に入る順番待ちだよ。このダンジョンだと地下4層以下で活動してる連中も多いからな。かく言うオレたちもそうなんだが」


「扉の前で待っている人たち全員ですか」


「そうなるな。オレのところを含めて3パーティが待ってる状態だから、まだしばらくかかるぞ」


 目の前の事情について聞いた祥吾はクリュスと共に最後尾へと並んだ。時間に限りはあるものの、別に急いでいるわけでもない。前の青村多摩川ダンジョンに比べれば時間の余裕はかなりある。休憩がてらぼんやりと待つことにした。


 横田ダンジョンに限らず、余程階層が浅いダンジョンでなければ一定の階層ごとに番人の部屋がある。一般的には中ボスの部屋と呼ばれているこの部屋にはそれまでの階層よりも強い魔物が探索者を待ち構えていた。そして、この特別な魔物を倒して初めてより下層へと脚を踏み込めるのだ。一種の区切りである。


 この番人の部屋に入れるのは1度に1パーティまでだ。どんな方法で確認しているのかは不明だが、2パーティ以上は入れないようになっている。どうやら先着順になっているらしく、とあるパーティメンバーが1歩でも脚を踏み入れたら他のパーティメンバーはもう入れないのだ。


 また、この部屋から階下へと進んだ場合、何らかの事情があって引き替えそうとしても引き返せない。一方通行なのだ。ではどうやって上の階層へ登るのかといえば、部屋の外側の脇に上層階へ戻る通路があるのでそこから登るようにできている。こちらも途中で階段と扉があり、その扉は一方通行だ。


 先週入った青村多摩川ダンジョンの番人の部屋も同じ造りだったことを祥吾は思い出す。そのせいで地下5層の湿地帯を少し徘徊する羽目になってしまったのだ。


 そんなことを祥吾が考えていると前の方で動きがあった。最先頭で待っている探索者パーティの1人が扉を開けようと試みたのだ。もし先人の戦闘が終わっているのならば開くはずである。


 どうなるのか祥吾とクリュスが注目していると、扉が開いた。先に入った探索者たちは既に先へと進んだらしい。ようやく自分たちの順番がやって来たという様子の先頭で待っていた探索者パーティが番人の部屋へと入っていく。


「まだ先は長そうだな」


「この間に色々と確認をしておくからちょうどいいわ。長い休憩だと思って祥吾も休んでおきなさいよ」


 タブレットを持って作業をしていたクリュスに声をかけた祥吾は微妙な顔をしつつ小さくうなずいた。今回はまだほとんど歩いただけなので大して疲れていないのだ。


 しばらく待っていると、次の探索者パーティの1人が扉を開けた。あっさりと空いたことに少し驚いていた面々だが、それでも自分たちの順番がやって来たということで中に入ってゆく。


 思わぬところで足止めをされたと祥吾が思っていると、ある程度時間が過ぎたところで扉が内側から開けられたのを目にした。そうして、先程入った探索者たちが傷だらけになって出てくるのを見て驚く。


「え、負けたんだ」


「経験の浅い連中だったんだろ。自分たちの実力を測り損ねて返り討ちに遭うヤツなんて珍しくないからな。ま、ここの中ボスにやられるってことは、新人だったんだろうさ」


 そのまま逃げてゆく探索者パーティを眺めながら祥吾はひとつ前で待つ探索者の言葉を聞いていた。しゃべっている人物は仕方がないという様子だったが、祥吾としては逃げた探索者たちを馬鹿にする気はない。勝てないと判断したのならば逃げることは当然だからだ。余程のことがない限り、全滅まで戦うなど普通はしない。


 先のパーティが番人の部屋に入ったことで、待っているのは祥吾とクリュスのみになった。どうやら下層へと向かう探索者たちは既に軒並み先に進んでいるようだ。


 待機が自分たちだけになった直後、タブレットをしまったクリュスが祥吾に声をかける。


「この間にお昼にしましょう。今の時間は昼過ぎだからちょうどいいわ」


「もうそんな時間か。誰も来なさそうだし、先に済ませておくのもいいな」


 提案に乗った祥吾はリュックサックから携行食を取り出して食べ始めた。適度に水分があるので食べやすい。つい異世界の保存食と比べてしまうが、その度に文明のありがたみを強く感じる。


 昼食を終えた祥吾は試しに扉を開けようとした。すると、大した抵抗もなく開く。既に前の戦闘は終わっていたらしい。


 腹も満たしたところで元気いっぱいの祥吾はクリュスと共に部屋の中へと入る。


小鬼長(ホブゴブリン)か。10匹くらいだな」


 部屋の奥に小鬼(ゴブリン)よりも二回り程度大きく、薄汚れた緑色の肌をした2本脚の魔物が集まっていた。がりがりの小人みたいな姿をしており、その上に粗末な服を着ている。また、その手には錆びた剣や穂先の欠けた槍などを持っていた。


 そんな魔物が一斉に奇声を上げて2人に突っ込んで来る。慣れていなければ結構な威圧感で足がすくむこともありそうだ。しかし、2人はその程度で怯みはしない。


 クリュスが呪文を唱え終わると、部屋の半ばまで走ってきた小鬼長(ホブゴブリン)の5匹が突然体を強ばらせて床に倒れた。次いで祥吾が前に出て先頭の小鬼長(ホブゴブリン)の首筋を切って一撃で倒す。これで動けるのは4匹になった。


 ここで小鬼長(ホブゴブリン)は二手に分かれる。2匹は祥吾へと向かい、残り2匹はその脇を通ってクリュスへと走った。


 そんな魔物の動きに一切動じることなく祥吾は目の前の小鬼長(ホブゴブリン)と戦う。左右から襲ってきた相手に対し、右横へ飛んでその錆びた剣を自分の剣で左へと受け流した。凶暴化によって常に全力で攻撃していた小鬼長(ホブゴブリン)は前のめりとなり体を泳がせる。これで反対側の1匹も何も出来なくなったと思ったが、その1匹は攻撃を途中で止めることなく仲間の頭に棍棒を叩き込んだ。


 予想以上に容赦がない魔物に驚く祥吾だったが、戦場で自分に都合の良い結果は積極的に利用するべきだと考えている。床に倒れた小鬼長(ホブゴブリン)を無視してまだ立っている方の右手を剣先で抉った。これで棍棒を落としたところで首筋を切る。


 まだ息のある倒れた1匹を倒した祥吾はクリュスへと顔を向けた。あちらも襲ってきた2匹を魔法で倒したようである。


「1匹は風の魔法で切って、もう1匹は土の魔法で串刺しにしたのか」


「さすがにこのくらいじゃ遅れは取らないわよ。それより、あの倒れている5匹を始末してちょうだい」


 頼まれた祥吾は床に転がったまま未だにもがいている小鬼長(ホブゴブリン)へと近づいた。抵抗できない5匹が盛んに騒ぎ立てるが関係なく剣で首を切り裂いてゆく。すべて殺すのに大した時間はかからなかった。


 こうして2人は番人の部屋での戦闘を終わらせる。ドロップアイテムを拾った後、部屋の奥から地下4層へと降りる階段を下っていった。

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