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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第3章 高校入学とダンジョン攻略

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横田ダンジョンへの偵察(前)

 いよいよゴールデンウィークがやって来た。何日もの休日が連なるこの時期は休める人ならば大喜びだ。


 祥吾とクリュスも休める側である。真ん中の平日は登校しないといけないが、その前後にはまとまった休みがあるので楽しみにしている生徒は多い。


 その初日、祥吾は早朝に目を覚ました。前日は早めに寝たので眠いということはない。体調は万全である。先週と同じだ。


 リュックサックとスポーツバッグの中を確認した祥吾は朝食を済ませてから自転車で自宅を出た。途中、待ち合わせ場所でクリュスと合流する。


「クリュス、おはよう。今日は少し離れたところだな」


「自転車で通える範囲なんだから大したことはないわ」


「まぁな。それじゃ行くか」


 苦笑いした祥吾はクリュスと共に自転車のペダルを漕ぎ出した。向かうは横田ダンジョンである。


 2人は多摩川を最初は南東側、次いで南側へと進んでいった。途中までは青村多摩川ダンジョンに通じる前回の道を通り、以後もひたすら直進する。約30分そのまま進んだ後、東側へと曲がってできるだけ大きな道をたどった。


 やがて午前8時前には探索者協会の横田支部に到着する。かつてこの辺りにはアメリカ軍の基地があったらしいが、今はダンジョンを中心とした広大な警戒区域と探索者協会の施設があるのみだ。


 駐輪場に自転車を止めた2人は荷物を持って本部施設の建物へと入る。ロビーには往来する探索者が多数いた。ここは先週入ったダンジョンとは違って活気がある。


 ロビーを突っ切った奥にある通路に入った2人は更衣室へと入った。男性更衣室では祥吾がスポーツバッグからインナーやエクスプローラースーツを取り出して身につけてゆく。最後にプロテクターと剣を装備して完了だ。ロッカーにスポーツバッグをしまい、リュックサックを背負って廊下に出た。ほぼ同時にクリュスも姿を現す。


「祥吾、ここのデータはダウンロードした?」


「したぞ。そっちはダウンロードして確認中か?」


「そうよ。受付カウンターで話を聞いておいて。祥吾の後ろでチェックの続きをするわ」


 直近のやるべきことを理解した祥吾はすぐにロビーへと向かった。クリュスがついて来るのを感じながら受付カウンターまで歩いて受付嬢に話しかける。


「おはようございます。これからここのダンジョンに入るんですけれど、何か大切な情報はありますか? ここのデータはさっきダウンロードしたんで、それ以外で何かあれば」


「恐らくアプリのエクスプローラーズにも出ているはずですが、最近魔物が前よりも好戦的になって探索者の被害が少し増えてきています。それ以外に特別な情報は今のところありません」


 速報性のある情報はないと聞いた祥吾は振り返った。タブレットから顔を上げたクリュスに声をかける。


「新しい情報は特にないようだぞ」


「魔物の凶暴性がどの程度かは、直接見るしかないみたいね」


「温厚な魔物だったら良かったんだけれどなぁ」


「魔物はいつだって凶暴なんだから諦めましょう」


 クリュスに慰められた祥吾はうなずいた。愚痴っていても仕方がないのは確かだ。


 踵を返して建物から出た2人はダンジョンへと足を向けた。




 探索者協会の横田支部がある場所は他と比べて特殊な造りになっていた。ダンジョンを中心に半径200メートルは通常の壁で囲われており、正門から本部施設周辺に関しては一般的な支部と同じ造りである。しかし、旧アメリカ軍横田基地の残りの敷地は探索庁監視隊と自衛隊の基地となっていた。


 つまり、アメリカが基地を放棄するときに敷地も丸々返還されたわけだが、それをそのままダンジョン対策に転用したわけだ。これに関してどこからも文句が出なかったのは、ひとえに危険なダンジョンのすぐ側だったからである。


 そんな少々ややこしい事情を抱えた横田支部だが、ダンジョンの中に関しては人間の都合などまったく関係なかった。正門を抜けて警戒地区をつっきり階段を降りると、そこには黒岡ダンジョンと同じ風景が広がっている。典型的な石造りの構造をした通路だ。


 正面玄関(エントランス)にはいくつもの探索者パーティが点在している。


「クリュス、用意はいいぞ」


「正面の通路をまっすぐ進んでちょうだい。突き当たりまで」


 タブレットを片手に持ったクリュスの前に立っていた祥吾は歩き始めた。この辺りはまだ人も多いので魔物が現われることもなく、罠もこれといってない。なのでさっさと進む。


 全部で12層ある横田ダンジョンは一般型と呼ばれるダンジョンだ。青村多摩川ダンジョンのように通路が河原や湿地になっていることはない。どこも石畳である。罠もよく知られているものばかりなので新人でなければ初見ということもほぼない。


 そうはいっても決して油断できるダンジョンではなかった。魔物は集団になって襲いかかってくる上に、近辺に罠があると平気で発動させてくる。それに、通路では挟み撃ちにされることもあるのだ。一般というのは平凡を意味することはあっても、それは絶対に安全を意味しない。だから油断はできなかった。


 地下2層に続く階段を目指して2人は先を進むが、探索者の姿はまだ同じ通路上で目にする。より多くの魔物を仕留めるために人気(ひとけ)のない場所を求めるとなると下層に向かうのが一番だからだ。


 周囲へと顔を向ける祥吾が独りごちる。


「罠も魔物も相手にしなくてもいいのは楽なんだが、これじゃ偵察にならないな」


「限られた時間じゃ下に降りられる階層も限られているものね」


「ああでも、あれは」


 階下へと続く階段までの最短経路から枝分かれしている通路のひとつから祥吾は戦闘音を聞きつけた。そちらを覗いてみると、3人の探索者パーティが2匹の小鬼(ゴブリン)と戦っている。


「黒岡ダンジョンの同種と比べると、確かに凶暴になったように見えるな」


「あの3人、2匹相手にちょっと苦戦しているみたいね」


「探索者側の技量がどの程度かわからないと何とも言えないな。お、1匹倒した」


「参考にならないんだったら先を急ぎましょう」


 興味をなくしたらしいクリュスから促された祥吾は小さくうなずいてその場を離れた。とりあえず魔物が凶暴化していることだけは確認できたので良しとする。


 結局、地下1層では魔物と戦う機会に恵まれなかった2人はそのまま地下2層へと降りた。更に階下を目指すべく、地下3階を目指してクリュスが最短経路を指示してゆく。その通路に探索者パーティの姿がちらほらと見えた。


 ここに至ってもまだ魔物と戦っていない祥吾は多少呆れる。


「さすがに人気のダンジョンは違うな。全然魔物と遭遇できないぞ」


「ここが人気というよりは、前のダンジョンが不人気過ぎたのよ。それに大量放出直前だったし」


「でもこのままじゃ、3層の中ボスの部屋まで戦わないってこともあり得るんじゃないか? 地下3層までは楽に進めるっていうことがわかったのは悪くないが、知りたいのはそれだけじゃないからな」


「それなら、地下3層で一旦最短経路から外れてみる?」


「魔物を求めて回るわけか。そうだな。何回かは戦ってみたい」


 あまりに平穏すぎる探索に不満を感じていた祥吾はクリュスの提案に賛成した。そうなとると、早く階下へと降りるべく地下2層を進む脚に力を入れる。


 予定通りに階段へとたどり着いた2人は地下3階へと足を運んだ。そうして、この階層にある番人の部屋をまっすぐに目指さずに寄り道を始める。すぐに周囲から他の探索者の気配が消えた。


 油断なく周囲を確認しながら祥吾が背後のクリュスへ声をかける。


「この辺りに罠はあるのか?」


「ないわ。だからもっと早く先に進んでもいいわよ」


「了解。お、やっと来たな。小鬼(ゴブリン)5匹だ」


 足を速めようとした祥吾は奥の脇道から姿を現した魔物の集団に気付いて立ち止まった。相手も祥吾たちに気付いたようで叫びながら走り寄ってくる。その様子を見ている限りはいつもよりも騒がしいと思えるくらいだ。


 あと少しで接敵というときに走る小鬼(ゴブリン)のうち3匹が突然倒れて床を転がる。クリュスが魔法で何かしたことに祥吾はすぐ気付いた。


 周囲を気にする必要がなくなった祥吾は突っ込んでくる小鬼(ゴブリン)2匹に集中した。どちらも非常に興奮した状態で手にする粗末な武器を振り回している。先を走る相手の武器をはじくと首筋を抉った。しかし、勢い余って尚も突っ込んでくる。


「うおっ!?」


「ギギッ!」


 突っ込んで来た小鬼(ゴブリン)を祥吾は思わず横に避けた。通り抜ける直前で床に倒れたが、いつもより勢いがあるのは間違いない。


 続いて次の小鬼(ゴブリン)と相対する。というよりもやはりまっすぐ突っ込んできた。こちらは最初から武器をはじきながら体を横にずらして相手の喉を切り裂く。


 自分の横で倒れる小鬼(ゴブリン)の様子を見た祥吾は難しい顔をした。

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