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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第3章 高校入学とダンジョン攻略

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友人への相談

 朝、祥吾とクリュスは並んで自転車通学をしている。学校に近づくにつれて同じく通学する生徒の数は増えてゆき、校門辺りで最もその密度が高くなった。


 高校の敷地に入った2人は裏側に回って駐輪場に入る。登校してきた他の生徒が往来する中、自転車から降りて自分たちも自転車を置いた。


 前籠から鞄を取り出したクリュスが祥吾に笑顔を向ける。


「それじゃ、例の話、進めておいてね」


「いいけれど、本当にいいのか?」


「極端な話、条件が合うならどこでもいいの。だからお願いね」


 言い切ったクリュスが先に校舎へと向かった。スポーツバッグを肩からかけた祥吾はその背中を見ながら戸惑いの表情を顔に浮かべる。請け負った以上はもちろんやるが、本当に話を進めても良いものかまだ迷いがあった。


 自分も校舎に入った祥吾は教室へと向かう。室内へ入ると既に登校していた知り合いから挨拶の声をかけられた。


 目的の人物はまだ来ていないようなので、祥吾は先に自分の席の脇にスポーツバッグをかけて席に座る。こういうときは待つという行為が苦しく思えた。


 数分後、ようやく目的の人物が教室に入ってきたのを目にした祥吾は席を立つ。そうしてすぐにその人物へと近づいた。あちら側もすぐに気付いて逆に声をかけてくる。


「おはよう。今朝は祥吾君からやって来るなんて珍しいじゃない」


「俺もそう思う。実は、ちょっと相談があるんだ。外に出ないか?」


「いいけど。なんだか怖いね」


 おどけて見せた良樹はすぐに祥吾へと返事をした。そのまま校舎を出て、人の少ない裏側へと回る。


「おお~、なんだか不良に呼び出されるような場所だね。それで、相談って何かな?」


「映像研究会なんだけれどな、俺以外にも幽霊会員っていうのは入れるのか?」


「もちろん入れるよ。書類上の人数はある程度いた方がいいからね。何しろ10人以上だと部として認められるんだから。もしかして、入会希望者がいるのかい?」


「幽霊会員希望だけれどな。それでよければ1年の女子が1人」


「女子!? それは本当かな? うちは男ばっかりだよ? ちゃんと説明した?」


「いきなり早口になったな。もちろん説明したぞ。もっとも幽霊会員だったらほとんど関係ないだろうって返されたが」


「それはそうだけど」


「だったら、今日の昼に会長に相談してくれないか? 可能なら放課後には入会しておきたいらしいんだ」


「随分と急な話だね」


「俺もそう言ったんだが、しつこく部活の勧誘をされているらしいんだ」


「それはダメだね。無理矢理は良くない。わかった、石倉会長に相談するよ。ところで、その女子の名前はなんて言うのかな?」


「クリュスだ」


 祥吾が名前を告げた途端に良樹が固まった。




 放課後、祥吾は校舎の外側の端に向かった。あらかじめクリュスと連絡を取って示し合わせた場所である。同時にあまり目立たない場所でもあった。


 先にやって来た祥吾が待っていると少し遅れてクリュスがやって来る。


「お待たせ。あれ、良樹っていう会員の人はどうしたの?」


「先に部屋に行くって言っていたな。他の会員を落ち着かせないといけないからだとか」


「落ち着かせる? 興奮するようなことでもあったの?」


「それはこれからだ。とりあえず、行くぞ」


 無自覚な震源地の発言にこれ以上の解説は無理だと判断した祥吾は歩き始めた。不思議そうにしつつもその後をクリュスが追う。


 入会届を出したときに行ったとき以来の祥吾だったが、映像研究会の部屋の場所はどこだかはっきりと覚えていた。3年生の教室がある校舎の3階まで登るとその部屋の前に立つ。そして、ノックをして許可を得てからスライド式の扉を開けた。


 部屋の中は前と何も変わっていない。漫画や小説、それに映像ソフトのパッケージが所狭しと棚に詰め込まれている棚が並べられている他に、年季の入った映像機材が部屋の片隅に置かれている。


 中に入ると会員全員が揃っていた。真面目そうな石倉会長、眼鏡をかけた丸木副会長、オタクっぽい風貌の森川会員、そして友人の良樹。皆が一様に緊張していた。


 4人の様子がおかしい原因を察した祥吾はどうしたものかと思いつつも石倉に声をかける。


「石倉会長、入会希望者のクリュスを連れてきました」


「う、うん。ヘロー、ナイスチュミーチュー、ウィンザーさん」


「会長、そこはミス・ウィンザーでしょう」


「日本語で話せますよ」


 祥吾が紹介すると、石倉が挨拶をし、丸木が訂正をし、そして当人が突っ込んだ。流れるように会話にオチが付いて室内に沈黙に包まれる。進学クラスにいるということは伝えられているはずだが、もしかしたら石倉は失念したのかもしれない。


 しばらくの沈黙の後、クリュスが何事もなかったかのように再び口を開く。


「1年のクリュス・ウィンザーです。幽霊会員でもいいということでしたので入会を希望しに来ましたが、間違っていないでしょうか?」


「え、ああ。間違いないよ。中岡君から話は聞いている。しかし、あの噂の女子が入部を希望するなんて半信半疑だったが、本当だったんだね」


「こちらにも色々とありまして。何もお力になれなくて申し訳ないですが」


「いや、入会してくれるだけでも嬉しいよ。僕たちのような研究会はどこも会員不足に悩んでいるからね。数は力なんだよ、ウィンザーさん」


「そう言ってもらえて嬉しいです。でしたら、入会します」


「ありがとう。これが入部届の用紙だ。ペンもあるからこの場で書いてもらいたい。そのまま受け取るよ」


 笑顔で差し出されたペンと用紙を受け取ったクリュスはその場で入部届を記入して提出した。これで晴れて映像研究会の幽霊会員となったわけだ。


 その様子を横から眺めていた祥吾は石倉へと話しかける。


「さっき、あの噂の女子と言っていましたが、3年生にもクリュスの噂が広まっているんですか?」


「とても優秀で美人な外国人女子がいるという噂はな。具体的なことは僕の耳には届いていないけれど、もしかしたら色々と知っている3年の生徒はいるかもしれないね」


「ぼくが聞いた話だと、上級生からも告白されて断ったそうですが、本当なんですか?」


 会長に訂正を入れた丸木が窺うようにクリュスへと疑問を投げかけた。すると、苦笑いした当人が答える。


「何人かの方から告白されて断ったのは確かですけれど、それが何年生なのかまでは知らないです。お話しするようなことでもないですし」


「そ、そうですよね! すみません」


「でも、どうして映像研究会なんですか? 幽霊会員っていうだけだったらどこでもいいでしょうし、どの部でもクリュスさんなら大歓迎だと思うんだけど」


 失敗したとうめく丸木を尻目に次いで森川が質問を発した。確かにこれは気になるだろうなと祥吾も思う。事情を知らなければ当然沸いて出てくる疑問だ。


 それに対してクリュスが回答する。


「本当に幽霊会員として扱ってくれるかわからないからです。入会した後になってやっぱり活動してほしいと言われてもできませんし、下手に名前を使われても困りますから」


「あーなるほど。それは確かに嫌だなぁ」


「横から口を挟むが、ここなら俺の友達の良樹が会員として活動しているから安心できるっていうのが決め手だったんだ。それに、俺も幽霊会員だしな」


 回答を聞いた森川が納得の様子を見せたのに対して祥吾は更に説明を補足した。知り合いが実際に活動してその内情を知っているからこそ頼めたわけだ。


 理由を聞いた石倉がうなずく。


「ウィンザーさんなら引く手数多なんだろうけれど、話からすると別に打ち込みたいことがあるから幽霊会員になったってところなんだろう。詮索しているわけじゃないから答えなくてもいいよ」


「ありがとうございます。でも、私の無理を聞いてもらったんで理由だけでもお話しておきますね。実は私、こちらの祥吾と一緒に探索者として活動しているんです。それで、学校の部活動などには参加できないんですよ」


「え、探索者!? それはまた珍しいね。あれって確か15歳からでないとなれないから、最近なったばかりということ?」


「色々と経験してみたくて」


「それはまた何と言うか。いやしかし、正木君もか。なるほど、君が幽霊会員なのも納得がいったよ」


「それは良かったです。ただ、知っての通り探索者の評判は良くないので、できれば黙っていていただきたいのです。私の場合は特に噂になりやすいので」


 ここで幽霊会員になりたがる理由を話したクリュスに祥吾は驚いた。しかし、映像研究会として活動している良樹には既に説明している以上、何時かは漏れ伝わることは確実だ。それに気付いてからは先手を打ったクリュスに感心する。


 その後、祥吾とクリュスは他の会員たちとしばらく談笑してから部屋を出た。

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