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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第3章 高校入学とダンジョン攻略

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青村多摩川ダンジョンへの偵察

 高校に入学して2回目の週末がやって来た。暦の上では春真っ盛りだが、実際の気候は寒いか暑いかの2択である。油断をすると風邪を引いてしまいそうだ。


 週末最初の日、祥吾は早朝に目を覚ました。前日は早めに寝たので眠いということはない。体調は万全である。


 リュックサックとスポーツバッグの中を確認した祥吾は朝食を済ませてから自転車で自宅を出た。途中、待ち合わせ場所でクリュスと合流する。


「クリュス、おはよう。今日は寒いな」


「冷えると天気予報にあったものね。それより、用意はできているかしら?」


「ばっちりだ。行こう」


 自信満々に答えた祥吾はクリュスと共に自転車のペダルを漕ぎ出した。向かうは青村多摩川ダンジョンである。


 2人は多摩川を最初は南東側、次いで南側へと進んでいった。スマートフォンで確認しながらできるだけ大きな道をたどってゆく。探索する前に迷子になるという情けない事態は是非とも避けたい。


 やがて午前8時前には探索者協会の青村多摩川支部に到着する。かつてこの辺りは畑と住宅があったらしいが、今はダンジョンを中心とした広大な警戒区域と探索者協会の施設があるのみだ。


 駐輪場に自転車を止めた2人は荷物を持って本部施設の建物へと入る。ロビーは閑散としていた。事前に調べたとおり不人気ダンジョンであるということを実感する。


 ロビーを突っ切った奥にある通路に入った2人は更衣室へと入った。男性更衣室では祥吾がスポーツバッグからインナーやエクスプローラースーツを取り出して身につけてゆく。最後にプロテクターと剣を装備して完了だ。ロッカーにスポーツバッグをしまい、リュックサックを背負って廊下に出た。ほぼ同時にクリュスも姿を現す。


「祥吾、データはダウンロードした?」


「やった。地図のデータだけな。そっちは?」


「今ダウンロードしたデータを確認中よ。受付カウンターで話を聞いてくれるかしら。祥吾の後ろでチェックの続きをするわ」


 直近のやるべきことを理解した祥吾はすぐにロビーへと向かった。クリュスがついて来るのを感じながら受付カウンターまで歩いて受付嬢に話しかける。


「おはようございます。これから青村多摩川ダンジョンに入りたいんですけれど、何か大切な情報はありますか? ここのデータはさっきダウンロードしたんで、それ以外でお願いします」


「そうですね、最近はダンジョン内の魔物の数が増えてきているので、探索庁監視隊が近日間引きする予定があります」


「つまり、今ダンジョンの中は魔物が多いというわけですか?」


「そうなります。特に5層以下は気を付けてください」


「他には何かありますか?」


「いえ、特にありません」


 間引きの話も専用アプリで知っていた話なので実質受付嬢から新しい話はないも同然だった。しかし、重ねて伝えてくるということはそれだけ危ないということだ。


 受付カウンターを離れた祥吾はクリュスに声をかける。


「クリュス、どうだった?」


「問題は魔物の多さがどの程度かね。場合によっては1層目で引き上げないといけないかもしれないわ」


「そうなると、間引きが終わってからもう1回挑戦だな」


「そうならないように祈りましょう」


 タブレットから顔を上げたクリュスに祥吾はうなずいた。二度手間は面白くない。


 建物から出た2人はダンジョンへと足を向けた。




 正門から壁の向こうへと入った祥吾とクリュスは青村多摩川ダンジョンの入口から階段を降りた。地下1層に降り立つと、そこは河原だ。左手には川が流れ、右手には急斜面な土手があり、そして上には青空が広がっている。


 ダンジョン内にもかかわらず屋外にいるような感じがする場所だが、目を凝らすと青い空と思えたものは半円形の筒状の天井であることがわかった。どうやら川を模したダンジョンらしい。


「まるで外にいるみたいなのが不思議な感じだな」


「ダンジョンには変わりないから気を付けましょう。川には魚系、河原には動物系の魔物がいるわよ」


「噂をすれば早速来たな。事前情報通り数が多いぞ」


 しゃべりながらも鞘から剣を抜いた祥吾は前に出た。やって来たのは黒妖犬(ブラックドッグ)が5匹、突撃猪(チャージボア)が2匹、敏捷鼠(ラピッドラット)が多数だ。こうしてまとめてやって来られると、連係されなくても厄介である。


 祥吾はまだ相手をしやすい黒妖犬(ブラックドッグ)突撃猪(チャージボア)の2種類に集中した。数の多い敏捷鼠(ラピッドラット)は素早く小さいので相手取りにくいのでクリュスに頼る。


 脚にまとわりつこうとする鼠の魔物を蹴飛ばしながら祥吾は犬や猪の魔物を相手にした。直前で変則的な動きをして噛みつこうとする黒い犬に剣を叩き込みながら、ほぼ同時に突っ込んでくる大きな猪を躱す。一瞬も気が抜けない攻防が疲労を加速させた。


 ところが、祥吾は能力(チート)のおかげで魔物を殺す度に疲労が軽減されてゆく。これにより肉体的な疲れは常にあまり感じない。睡眠不足さえも補えるので、こういった数を頼みに襲いかかってくる相手とは相性が良かった。


 一方、クリュスは早速魔法で近寄ってくる魔物たちを倒してる。こちらは攻撃魔法ではなく、睡眠(スリープ)拘束(バインディング)、その他にも麻痺(パラライズ)といった魔法を使っていた。ダンジョンの入口近くなので他の探索者に注目されないようにという配慮ではなく、一定の範囲内の魔物にまとめて仕掛けられるからだ。さすがにすばしっこくうろちょろする鼠を1匹ずつ狙うのは現実的ではない。


 役割分担をした2人は自分の担当した魔物に意識を集中する。多少時間はかかったものの、襲いかかって来た魔物を全滅させることができた。


 魔石、牙、毛皮といったドロップアイテムを拾いながら祥吾がため息をつく。


「入口近くでいきなりこれか。この先どうなるんだろう」


「せめて湿地帯の広がる地下5層に行きたいけれど、帰りのことも考えるとね」


「俺は魔物を殺していれば疲れないからいいけれど、お前は疲れるもんな」


 予想以上に数が多い魔物の集団に祥吾は顔をしかめた。青村多摩川ダンジョンは全8層あるが、毎回数十匹単位で魔物に襲われるとなると突破するのは困難だ。祥吾だけなら疲労を無視できるので何とかなると思えそうだが、一斉に襲いかかられて同時に対処できる数には限りがある。なので、単独突破は現実的ではなかった。


 タブレットを取り出したクリュスが地図を見ながら口を開く。


「罠のないダンジョンだから魔物に集中できるのは幸いね。土手寄りに進みましょうか」


「川はもっと面倒だから近づかないようにしないとな」


 事前に調べた情報で川の厄介さを理解している祥吾は土手に近寄った。多数の魚に一斉に噛みつかれるなど想像するだけで震え上がってしまう。


 その後、祥吾とクリュスはダンジョン内で何度も魔物の集団に襲われた。数の多さはもちろん、その頻度の多さに辟易する。時にはドロップアイテムを拾っている最中に次の魔物の集団がやって来ることもあった。このため、地下2層へと降りるのに予定の倍以上の時間がかかってしまう。


「次でやっと地下3層か。クリュス、充分に休めていないはずだが、まだいけそうか?」


「平気よ。戦っているときでもそんなに動いていないから。むしろ歩いているときの方がつらいわね。こんな石ばっかりの場所は歩きにくいもの」


「体力は問題なしか。しかしそうなると、後は時間が問題だな。この調子で進んだとして、地下4層を突破するのが夕方頃になる。そうなると、帰りは真夜中だな。明日は横田ダンジョンを偵察するつもりだったが、これを諦めたらいけるか?」


「そうね。来週末、ゴールデンウィークの前半に横田ダンジョンの偵察を回しましょう」


「なら、今回は地下4層まで降りるんだな? 予定通りに」


「そうしましょう。でもそうなると、家路は真っ暗になっているわね」


「あー、そのときは家まで送るよ」


 疲れた笑いを見せた祥吾はクリュスの言葉に提案を返した。そのためにはダンジョンから無事に出ないといけない。


 その後、2人はダンジョンを下層へと進んで行った。相変わらず魔物の数は多いが、幸い出てくる魔物の種類は変わらない。戦う相手の特性に変化がないというのには連戦の2人にとってかなり助かった。


 そうしてついにたどり着いた地下4層にある番人の部屋、一般的には中ボスの部屋と呼ばれる場所に入る。ここの魔物は巨大水蜘蛛ジャイアントウォータースパイダーだ。大きさが3メートル程度の全身が黒く毛深い蜘蛛の魔物である。糸を使って獲物の行動を制限し、水中に引きずり込むという厄介な戦法を使ってきた。


 これに対し、クリュスの火属性の魔法で遠距離攻撃に徹する。祥吾のような近距離での戦闘中心をする者にとって分が悪いからだ。このため、厄介そうな魔物だった割には比較的短時間で戦いが終わる。


 しかし、帰りにかかる時間を思い出した祥吾は気が重たくなった。

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