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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第3章 高校入学とダンジョン攻略

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学校での居場所

 黒岡高等学校に祥吾が入学して1週間が過ぎた。授業も一通り受けて高校というものがどんなものなのかをある程度再確認したところだ。


 教室内人間関係は早くも固まりつつある。1クラスに20人で、更に中学校からの友人関係を軸に輪を広げる者が多いからだ。


 この中にあって、祥吾の友人である祐介は社交的な性格もあってクラス内にすっかり溶け込んでいた。その明るいお調子者という態度が受け入れられ、数日の間にクラスの全員と知り合いになっていたのだ。今はその輪を更に外へと広げているらしい。


 一方、もう1人の友人である良樹は教室内での活動には積極的でなかった。そのため、クラスでは祥吾や祐介以外とあまり関わっていない。代わりに、映像研究会に入会したという。実質漫画やアニメの同好会らしく、今後はこちらに通うようだ。


 友人2人は早々に自分の居場所を確保しつつあるのに対して、祥吾は中途半端である。あの2人とは今まで通りなのだが、その他ではクラスの内外どちらでも消極的にしか関わっていないからだ。


 原因は探索者としての活動にある。春休み中に祐介と良樹の2人と遊んでいる最中に話の流れで探索者になったことを伝えると、祥吾は微妙な表情を返されたのだ。何しろ世間の印象が良くない職業なので友人たちの反応も無理はない。始めた理由を聞かれたのでクリュスに誘われたと返事をすると大層驚かれた。しかし、中学校での2人の仲を知っていた友人たちにはあまり追及されずに済む。


 割と親しい友人でこの反応となると、高校で出会ったクラスメイトがどんな反応を示すのか祥吾は不安だった。無関心であればまだ良いが、悪い感情を抱かれるとこれからの高校生活に支障をきたす。それは避けたかった。


 そのため、祥吾は問われたときに素直に伝えるかどうかは未だ迷っている。いっそのこと良樹のようにクラス内での付き合いは本当に最低限にしようかとも考えたが、実は今、それも難しくなっていた。原因は体育の時間の着替えだ。体操服に着替えるために一旦上半身裸になったところを周囲の男子に見られ、その筋肉質な体で注目されたのである。このときは鍛えるのが趣味などと適当に躱したが、いずれ進退窮まるのは時間の問題だ。


 何とも胃が痛くなるような状況だが、それでも一応今までは小康状態を保っていた。そんな中、ある日の放課後に祥吾は祐介から声をかけられる。


「祥吾、カラオケに行こうぜ」


「良樹は、もう研究会の方に行ったか。ということは、2人でか?」


「いや、実は昼休みに敦や徳秋たちと約束したんだよ。それでお前も誘おうってことなってな」


「俺はあの2人のことはほとんど知らないが、よく認めてもらえたな」


「何しろクラス一のボディビルダーだからな、お前は!」


「そこまで筋肉質じゃないだろう、俺は」


 体育の着替えのときに騒がれて以来、たまに茶化されるようになった祥吾は渋い表情をした。異世界から戻って来てからずっと鍛えてきたのでそれなりの体格になっている自負はあるものの、他人から冷やかされるとさすがに恥ずかしい。


「で、どうする?」


「行くよ。何て呼ばれているのか気になって来た」


「はは、決まりだな!」


 嬉しそうに踵を返した祐介の背中を見ながら祥吾はスポーツバッグを担いでその後を追った。大した距離ではないのですぐに祐介が案内してくれた集団にたどり着く。


「お、ビルダー来たか! ほら見ろ徳秋、来たじゃんか」


「あれぇ、おかしいなぁ。なんだか来ない雰囲気だったように思ったのに」


「ビルダーってなんだ、多湖(たこ)


「お前のあだ名だよ。祐介が付けたんだぜ。それと、俺のことは敦でいいぞ」


「オレは徳秋な!」


 祐介と似た雰囲気のある多湖敦(たこあつし)と少しのんびりとした感じのする香川徳秋(かがわとくあき)が祥吾に声をかけてきた。どちらも社交的な雰囲気がする。


「アタシは香奈ね。こっちは睦美。それより、なんか体がムッキムキで腹筋も割れてるって聞いたけど、マジなの?」


「えー、あたしも見たーい!」


「さすがに見せるのはちょっと」


 敦と徳秋の隣には正名香奈(まさなかな)林睦美(はやしむつみ)の2人が椅子に座っていた。香奈の方は茶髪で薄らと化粧をしており、睦美はおとなしそうに見えるが発言はなかなか積極的だ。


 名前と顔は先週の時点で知っていたので困ることはなかった祥吾だが、どうにも勢いのある雰囲気に少々気圧されていた。周りで眺めているのと実際にやり取りするのとでは感じ方が全然違うことを実感する。


 気後れしていることを隠すために祥吾は祐介へと顔を向けた。そして、わずかに口元を引きつらせながら問いかける。


「祐介、ビルダーってあだ名付けたの、お前なのか?」


「い、いやぁ、別にオレが付けたわけじゃないぞ」


「まるでボディビルダーみたいな体だって言ったの祐介じゃん」


「敦!?」


「よし、それじゃ今からお前にはこの筋肉を堪能してもらおうか」


「落ち着け祥吾! 早くカラオケに行こうぜ!?」


 にじり寄る祥吾は焦りながら叫ぶ祐介の声を聞きながら不敵に笑った。放っておくと再びおかしなあだ名を付けられかねない。ここはしっかりと教育すべきところだ。


 そんな2人を見た敦たち4人は2人を囃し立てた。どうやらこのやり取りは受けたらしい。祐介がどこまで考えていたかわからないが、このグループにはすんなりと受け入れてもらえたようである。


 探索者の件という不安要素はまだ残るものの、クラス内での立場が少し確立したことに祥吾は安心した。祐介には感謝である。それはそれとして制裁は加えたが。


 頭を押さえる祐介と共に祥吾は敦たちと黒岡小町商店街へと向かった。




 また別の日の放課後、祥吾は騒がしい教室で帰る準備をしていた。高校入学後は帰宅後に軽く体を鍛える日々を過ごしている。より筋力を付けるためにもこの日課は欠かせなかった。


 そんな祥吾に良樹が近づいて来る。


「祥吾君、今から帰るのかい?」


「そのつもりだぞ。珍しいな。いつもなら同好会にすぐ向かっているっていうのに」


「映像研究会だよ。それで、その研究会関係でちょっと頼みたいことがあるんだ」


「研究会関係で? 俺が何かできることなのか?」


「簡単なことだよ。実はね、映像研究会に入会してほしいんだ」


「そっちに? 一応俺だって漫画やアニメは見るが、そこまで好きだってわけじゃないぞ」


「実際に活動してほしいわけじゃないんだ。いわゆる幽霊会員として参加してほしいんだ」


「会員数がそんなに少ないのか?」


「今は僕を入れて4人なんだけど、研究会を維持するためには最低5人は必要なんだ」


「ぎりぎりじゃないか。で、俺が入ると研究会が維持できるわけか」


「そうなんだ。僕たちは今年入学したばかりだろう? ここで祥吾君が入ってくれたら、3年間は勧誘が楽になるんだよ」


「どういうことだ?」


「今は3年生の会長、2年生の副会長、そして1年の会員が2人なんだけど、ここで祥吾君が入ってくれたら僕が卒業するまで毎年1人ずつ勧誘するだけで済むだろう?」


「なかなかせこいことを考えているな。まぁでも、とりあえず今年をどうにかしないといけないわけだ」


 苦笑いする祥吾はその間にもどうするか考えた。とはいっても、幽霊会員であれば在籍するだけで良いわけだから困ることはない。幸い、探索者活動のためにも部活に入るつもりはないので良い隠れ蓑になると考えた。


 入会することを承知した祥吾は良樹の案内で映像研究会の部屋へと向かう。3年生の教室がある校舎に移って3階へと上がるとその中の一室に入った。そこには、漫画や小説、それに映像ソフトのパッケージが所狭しと棚に詰め込まれた部屋である。


「会長、幽霊会員になってくれる友達を連れてきました!」


「良樹君、でかした! これで我が研究会は今年1年存続できるよ」


「1年の正木祥吾です。良樹とは同じクラスです」


「これはご丁寧に。私は3年の石倉尚久(いしくらなおひさ)だ。映像研究会の会長をしている。そっちにいる眼鏡をかけているのが2年の丸木智雄(まるきともお)君、そして反対側にいるのは君と同じ1年の森川健介(もりかわけんすけ)君だ」


 会員たちが紹介される度に祥吾は軽く会釈した。同じ反応が全員から返ってきたところで石倉会長へと向き直る。


「改めて聞きますが、幽霊会員でいいんですよね? 俺の方はちょっと他にやることがあるんで実際に活動できないんですが」


「構わないよ。無理強いしても意味はないからね」


「良かった。でしたら、入会します」


「ありがとう。これが入部届の用紙だ。ペンもあるからこの場で書いてもらいたい。そのまま受け取るよ」


 笑顔で差し出されたペンと用紙を受け取った祥吾はその場で入部届を記入して提出した。これで晴れて映像研究会所属となったわけだ。


 その後、祥吾は他の会員たちとしばらく談笑してから部屋を出た。

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