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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第3章 高校入学とダンジョン攻略

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対応するべきダンジョン

 入学して最初の週末を祥吾は迎えた。春休みである先週は入学準備とダンジョン攻略で忙しかったが、この日は朝から特に予定もなく自宅でのんびりとしている。


 昼食を済ませて自室に戻った祥吾は畳の上に寝転がった。満腹感もあって油断すると眠ってしまいそうになる。


 睡魔に敗れつつあった祥吾であったが、階下の玄関から来客の電子音が鳴るのを耳にした。そのまま放っていると母親の春子が応対したことに気付く。興味はなかったので意識を外した。しかし、しばらくすると春子に名前を呼ばれる。


「祥吾ぉ、クリュスちゃんよぉ!」


 母親の声に反応した祥吾は起き上がった。事前に約束をしないままやって来るのは今に始まったことではない。ただ、何をしに来たのかわからなかった。


 出迎えようと自室の扉を開けたところで祥吾はクリュスと鉢合わせる。


「こんにちは。おば様に上げてもらったわ」


「まぁいいけれど。入れよ」


 2階に上がってきたクリュスを自室に入れた祥吾は座布団を1枚畳の上に敷いた。自分は学習机の椅子を反対にして座る。


「今日はどうしたんだ? 学校の授業でまだ宿題は出てないから困っていないぞ」


「あら羨ましいわね。私のクラスなんて早速出たわよ」


「さすが進学クラスだな。一般クラスで良かったと心底思う」


「宿題は大したことなかったからすぐに終わらせたわ」


「相変わらず優等生だなぁ。悩みなんてなさそうに見えるぞ」


「そうでもないわよ。結構面倒なことになっているから」


「トラブルか?」


「そこまでじゃないけれど、やっぱり目立っちゃって」


 ため息をついたクリュスの発言に祥吾は納得した。中学2年の途中から日本に引っ越してきて以来、クリュスは何かと注目されることが多かったのだ。その理由が容姿の端麗さと頭脳の明晰さである。特に同年代の男子生徒からの注目は大したもので、外国人という垣根をあっさりと越えてよく告白されていた。これはクリュスが日本語に堪能だったのも影響しているだろう。


 これで女子生徒からの嫉妬をほとんど買わなかったのだから、その対人能力も大したものだと祥吾は今でも感心していた。他校生からも告白されていたことも有名だったので、さすがに自分たちとは違いすぎて嫉妬する気にもなれなかったというのも間違いなくあるだろう。


 そして、高校生になってもそう言った悩みからは解放されなかったらしい。祥吾からすると中学校時代の積み重ねが一旦リセットされたのだから仕方ないと思っているが、それは他人事ならではの感想である。


「美人過ぎるっていうのも厄介だよな」


「のんきねぇ。これからまた祥吾にも協力してもらうつもりなのよ?」


「え、俺?」


「去年あたりからは公認の仲みたいな感じになっていたでしょう? あれをもう1度再現するのよ」


「あれはお前がなし崩し的にやっただけで俺は協力していたわけじゃないだろう」


「いいじゃない。私たちお友達でしょう? 助け合わないとね♪」


「あれって最初の方は俺にも色々と話がきて大変だったんだぞ」


「苦労を共に背負ってくれる人って頼りになるわ」


「勘弁してくれよ」


「私と一緒に登校しているんだから、どうせ噂は嫌でも広がるわよ」


「登校時間をずらさないか?」


「ひどいわね。こんな美人と一緒に通学できるのに何が不満なのよ」


「盾にされるところかな。あと、死なば諸共みたいな感じなのも」


 中学生の後半の日々を思い出しながら祥吾は感想を返した。クリュスへの羨望や憧憬の何割かが嫉妬として自分に向けられるのだからたまったものではない。さすがに異世界絡みの関係でなければ断っていただろう。


「それで、本題はなんだ?」


「神様から私に連絡があったから、それについて話しに来たの」


「ついにかぁ」


 どんな話しなのかを知った祥吾は椅子の背もたれを抱えるようにして肩を落とした。やると決めていたので驚きはないが、あまり気が進まない話なので面白くはない。


「今回、神様からは3つのダンジョンについて話を聞いたわ」


「いきなり3ヵ所か。北海道や沖縄なんて言われるとかなりきついな」


「場所はどこも近場だから安心して。相談しながら場所を選んだんだから」


「ということは、他にもたくさんあるのか」


「ええ。今は私たちが出来る範囲のものだけを頼んでもらうようにしたわよ」


「今後も出来ない範囲のダンジョンは勘弁してほしいな。で、その3ヵ所っていうのは?」


「奥多摩3号ダンジョン、青村多摩川ダンジョン、横田ダンジョンよ」


 頭の中で描いた地図で場所を確認した祥吾がつぶやいた。奥多摩などは少し遠いが、そこまで言うほどでもない。クリュスが選んだというのは嘘ではないらしい。


「青村多摩川ダンジョンって、ここからそんなに遠くなかったよな。あんまり人が入らないらしいが」


「河川系ダンジョンで戦いにくいからだわ。特に湿地帯が厄介だもの」


「泥の中で動き回るのか。確かにそれは嫌だな」


「それに、魚の魔物も嫌われているわね。ただでさえ水の中なんて人間じゃほとんど動けないのに、そこへ自在に動ける魔魚が襲いかかってくるんですから」


「よし、俺は川には絶対に入らないぞ」


「その川に探索者を引きずり込もうとする魔物がいるけれどね」


「最悪だ。行きたくないな。ところで、どうしてこのダンジョンが神様に指定されたんだ?」


「最近このダンジョンの核が異常に活性化しているらしいからよ。元々魔物の間引きが間に合っていないところへそんなことになったものだから、次の魔物の大量放出は普段以上になる見込みだって聞いたわ」


「それで核をすり替えてダンジョンを落ち着かせるわけか」


 青村多摩川ダンジョンはその名前が示すとおり、多摩川沿いにある。しかも川と町に挟まれた場所にだ。そのため、ここで魔物が溢れて壁の外に出てくると被害はかなりのものになる。自宅から遠くない場所ということもあって無視できなかった。


 黙った祥吾に対してクリュスが話を続ける。


「次に横田ダンジョンなんだけれども、ここのダンジョンの核に変化があったみたいで、前よりも魔物が凶暴化し始めているらしいわ」


「核に変化があったっていうのは青村多摩川のところみたいに異常が発生したということなのか?」


「神様がいうには変質してしまったらしいわ。青村多摩川ダンジョンの核とどう違うのかまでは私にもわからないけれど」


「まぁとにかくおかしくなったわけか。そうだ、その凶暴化というのは、強くなったっていうことか? それとも単にやたらと暴れるようになったということか?」


「暴れる方みたいよ。力の加減なしに、自滅してでも攻撃してくるんだとか」


 魔物が強くなるというのも当然嫌なものだが、ひたすら暴れられるのもやりにくい。これを集団でやられると危険が増す。横田ダンジョンもやりにくそうだった。


 困った表情の祥吾に対してクリュスが更に説明する。


「最後に奥多摩3号ダンジョンなんだけれど、これはちょっと微妙らしいのよね。ダンジョンの核に変調がある兆しがあるみたいなの」


「兆し? ということは、まだおかしくなっていないということなのか?」


「今はね。ただ、このダンジョンも魔物の間引きが進んでいないらしいわ」


「なんだそれ。どうして間引きが進んでいないんだ?」


「不人気だからよ。青村多摩川ダンジョンとは違って、ダンジョンそのものが嫌われているというよりも、ダンジョンのある場所が山奥で人が通いにくい場所だかららしいけれど」


「ということは、ここも魔物があふれ出す可能性があるわけか」


「ええ。幸い、奥多摩3号ダンジョンから魔物があふれるのはある意味いつものことらしいから、そのときの対応は問題ないらしいけれどね」


「今すぐどうこうなるわけじゃないけれど、早めに核を取り替えておくべきだから神様から指定されたんだな」


 説明を聞いた祥吾は目をつむった。いずれにしても対処する必要があるように思えるダンジョンばかりである。それが自宅から遠くない場所に割と点在していることに内心驚いた。


 しばらく黙って考えた後、祥吾が口を開く。


「まずは青村多摩川ダンジョンと横田ダンジョンの様子を見て考えよう。ネットで情報を集めるのはもちろん、週末に1度現地のダンジョンに入って確認するんだ。それで、対策を立ててゴールデンウィークに攻略しないか?」


「私もそれがいいと思うわ。平日は学校があるから動けないし、やるなら週末よね。奥多摩3号ダンジョンはどうするの?」


「後回しだな。今の俺たちはこの2つだけで精一杯だよ」


 学校もある身としてはあまりダンジョンに集中しすぎるわけにもいかなかった。こちらをおろそかにすると今度は身が破滅してしまう。


 どうにか学業と均衡が取れるように祥吾とクリュスは調整した。

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