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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第8章 1学年の終わり

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正月の過ごし方(後)

 正月2日目、祥吾は元旦と同じ時間に起きた。相変わらず体が温かいので寒くても起きるのには困らない。昨日は遠慮なく食べたので胃もたれしたままかもしれないと考えていたが、思いの外消化器官は強いようでまったく平気だった。


 日課の筋肉トレーニングをした後、祥吾はまたスマートフォンでウェブ小説を読みあさる。しかし、いささか飽きてきたので動画も見るようになった。


 朝の10時になると食卓で1日2度の食事が始まる。朝は元旦と同じだ。おせち料理と餅を中心に祥吾は限界まで食べた。昨日の反省がまったく活かされていない。というより、反省する気などない食べっぷりだ。


 重くなった腹を抱えながら祥吾は自室に戻って布団で横になる。食休みだ。この満腹感を抱えながら寝転がってぼんやりするのが寝正月の醍醐味だと祥吾などは思う。至福の時だ。


 次第に起きているのか寝ているのかわからない状態になりつつあった祥吾だが、電話が鳴ったことで意識を引き戻された。スマートフォンを手に取ると祐介とある。


「祐介、明けましておめでとう」


『今年もよろしくな! ところで、この後行く初詣、予定通りでいいんだよな?』


「いいぞ。12時半、もうすぐか。良樹も来るんだよな」


『そのはず。今から連絡を入れるところだ。それじゃ、後でな』


 短いやり取りの電話が終わると祥吾は起き上がった。電話連絡があって良かったと思う。そうでなければ寝過ごしていた可能性があった。


 胃腸の様子は食事直後に比べてかなりこなれてきている。これならば走っても問題ない。


 待ち合わせの時間までまだ余裕はあるが、自室で待つにしても中途半端な時間だ。どうしたものかと少し悩んだ祥吾だったが、すぐに家を出ることにした。決め手は、ゼリー状の固体を食べたことによる体の熱っぽさだ。これのおかげで外の寒さにも今なら耐性がある。


 茶色のレザージャケットに黒色の綿パン姿で自宅を出た祥吾は歩いて黒岡小町商店街へと向かった。3人が集まる場合は大抵商店街の出入口なのだ。


 早めに来たことは祥吾も知っていたので他の2人がまだやって来ていないことは承知していた。後は待つだけである。


 さすがに商店街は休みなので人通りは少ない。大晦日の賑わいを覚えているだけに祥吾は寂しく思えた。


 そんなことを考えながら祥吾が待っていると、祐介がやって来る。ニット帽を被り、ダウンジャケットにジーパン姿だ。


 白い息を吐きながら祐介が声をかけてくる。


「改めて、おめでとさん! 今年もよろしく!」


「こちらこそ、よろしく。良樹はどうだったんだ?」


「来るってよ。もうすぐなんじゃないか?」


 良樹に連絡を取った祐介の返事に祥吾はうなずいた。後は待つだけならばと2人で年末年始の近況を語り合う。


 そのうちに当の良樹がやって来た。こちらはイヤーマフにダッフルコート、それにクリーム色の綿パン姿である。


「やぁ、祥吾君、祐介君、明けましておめでとう。今年もよろしく」


「明けましておめでとう。こちらこそよろしく」


「おう、よろしくな! さて、これで全員揃ったわけだ。神社に行こうぜ!」


 音頭を取る祐介が他の2人を促した。商店街から黒岡神社までは少し時間がかかるが、歩ける範囲だ。その間に3人は話を弾ませる。


「そういえば、祐介君、この正月は親の実家に帰るんじゃなかったっけ?」


「あれな、じーちゃんぎっくり腰で年末に入院したから急遽なくなったんだ」


「えぇ、それは大丈夫なのかい?」


「たまにあることらしいんで、俺の親もまたかって言ってたな。とりあえずうちの両親が年末に様子を見に行って、正月からは別の親戚と交代したんだ」


「へぇ、そうなんだ」


「お前の方は年末にまたイベントに行ってたんだろ。同好会関係で」


「コミディスだね。映像研究会の活動として行ってきたよ。あれは楽しかったよ。おかげで昨日は力尽きてたけどね」


「よくやるよなぁ。俺なんて年末年始なんて家でごろごろしてただけだぜ」


「祥吾君は昨日まで何をしていたんだい?」


「俺はこれと言って特別なことをしていないんだよな。冬休みの宿題を片付けた後はスマートフォンを触ってて、年末に大掃除と買い物の手伝いくらいかな」


「家族で一緒に過ごしたってわけだね。いいじゃないか」


「オレは今年1人だったな。まぁやりやすくて良かったが」


 寒い中を歩くにしても友人でしゃべりながらとなると楽しいものだ。尽きることのない話題があちこちから飛び交う。


 やがて黒岡神社へと到着した。参拝客は昨日よりも少ない。拝殿への行列もほとんどなく、すぐに参拝することができる。ちなみに、祥吾は今回5円を賽銭箱に入れた。


 拝殿から離れたところで祐介が祥吾に顔を向ける。


「お前、何を祈ったんだよ?」


「今年は何か良いことがありますように、だな」


「漠然としてるな。もっとこう具体的にはないのか?」


「そうは言ってもなぁ」


 特に何も思い付かなかった祥吾は首をひねった。ダンジョン攻略は別の神々の担当なので祈るのは何か違うと思ったのだ。


 少し間を置いた祥吾が今度は祐介に問い返す。


「そういう祐介は何て祈ったんだよ?」


「バイクの免許を一発で取れますようにって祈ったぞ」


「今、バイクの教習所に通っているのか?」


「いや、去年からバイトして金を貯めてるところなんだ。後もう少しで貯まるから、春に免許を取りに行くつもりなんだよ」


「へぇ、知らなかったなぁ。何かやりたいことでもあるのか」


「夏の北海道を旅行してみたいんだよ、バイクで」


 意外な話を聞いた祥吾は目を丸くした。良樹も驚いた表情を顔に浮かべている。


 社務所に着くとその隣のテントで祐介と良樹がおみくじを引いた。その結果が態度に表れる。


「よっしゃ、大吉! 今年はいいことがありそうだぜ!」


「僕は中吉だったよ。まぁ悪くないかな。祥吾君はおみくじを引かないのかい?」


「昨日もうやったんだ。結果は小吉、凶でないだけましというところだな」


 苦笑いする祥吾に友人2人は曖昧にうなずいた。微妙に返答しづらい結果だ。


 おみくじを木にくくり付けた祐介と良樹を見た祥吾が2人に声をかける。


「初詣はこれで終わったが、これからどうする?」


「商店街のデリドリに行って、そこで少ししゃべろうぜ」


「いいね。このまま帰るのは少し味気ないと僕も思ってたんだ」


 全員が賛意を示すと3人は黒岡小町商店街へと向かった。来た道を戻る。そして、約2時間ほどしゃべってから解散した。


 その後、祥吾は自宅に戻って再びスマートフォンで動画を見て暇を潰す。夕飯になるとまたもや大量におせち料理や刺身を食べて胃腸の限界に挑戦した。前日と同様である。


 正月3日目ともなると祥吾はさすがに飽きてきた。何かやることがないと面白くない。このとき、去年の正月は何をしていたのかと思い出そうとする。記憶にある当時は今とやっていることがほとんど変わらないようだ。ウェブ小説の代わりにライトノベルの本を読んでいたがあまり違いはない。


 同じとをしているにもかかわらず、去年と違って面白くないと感じているのはなぜかと祥吾は首をひねった。しかし、その理由がわからない。春からダンジョン攻略を始めたからかとも考えたが、何か違うような気もした。


 もういっそのこと授業の予習でも始めてしまおうかと思った祥吾だが、それはそれで何か負けた気になるので手を付けられないでいる。休む日はしっかりと休まないといけないのは大原則だ。これを怠ると後々足元が崩れてしまいかねない。


 結局、色々と考えた末に筋肉トレーニングをすることにした。この日は外にも出ていないので朝に食べた食事がまだ胃に残っている感じがするのだ。これをしっかりと消化して夕飯に備えなければならない。今夜はすき焼きなのだ。食べられないというのは許されない。


 日課として朝にするより質と量を増した筋肉トレーニングを祥吾は昼下がりにこなした。時間をかけて休みながらしたので夕方にはかなり疲れる。しかし、このおかげで空腹にはなった。目的は達成したのだ。


 決戦の時である夕飯がやってきた。母親の春子に呼ばれたので食卓へと向かう。


「祥吾、できているわよ。食べましょう」


 母親の言葉通り、既にすべての用意は整っていた。鍋には煮えた具材が良い香りを周囲に撒き散らしている。我慢などできるはずもない。


 底の深い小皿に生卵を割って入れてかき混ぜた祥吾はすき焼きを食べ始めた。肉だけでなく、しおれた葱、色の変わった糸こんにゃく、崩れずに残っている豆腐なども次々と小皿に入れていく。


 生卵にひたしたそれらを祥吾は勢い良く口に入れた。どれも熱いが生卵が膜となってその熱さを覆ってくれる。なので火傷を恐れることはない。


 祥吾は心ゆくまですき焼きを楽しんだ。

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