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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第8章 1学年の終わり

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家族との年末の過ごし方

 今年最後の日を祥吾は迎えた。世間は年末年始だと騒がしいが、祥吾の起きる時間はいつも通りだ。起きると筋肉トレーニングをして朝食を食べる。


 それが終わると自室に戻るわけだが、冬休みに入ってからの日課である宿題は一昨日終わったのでやるべきことがない。昨日は1日中ウェブ小説を見ていたこともあり、今はすぐに読みたいとは思わなかった。


 体は相変わらず熱っぽい。ゼリー状の固体を毎日食べているからである。ただ、食べるのを止めたからといってこの熱が引くとは限らなかった。完食前提でクリュスと話をしていたので食べるのを途中で止めたときのことを聞いていなかったのだ。健康に害はないということを信じるのならば、寒さを寄せ付けないこの熱はむしろ都合が良い。


 色々と考えつつも何をしようかと迷っていた祥吾だが、ふと足元に目を向けた。更にその周囲へと目を向けると埃が固まっていることに気付く。


「大掃除、朝からやるか」


 昨日は自宅の大掃除を1日手伝った祥吾がつぶやいた。結局朝から夕方までかかって自宅をきれいにしたのだが、自室に手を付ける前に力尽きてしまったのだ。既に夕暮れ時だったので時間がなかったということもあるが、何にせよ自室の掃除はまだである。


 当初は昼からやるつもりでいた自室の大掃除を祥吾は朝からすることにした。やることがなくてぼんやりとしているのなら、だらだと時間をかけても部屋をきれいにしようと考えたのである。


 やると決めた祥吾はすぐに動いた。掃除用具を階下から自室に持ってきて、室内の扉と窓を全開にする。いつもなら震える程の冷気も今はひんやりと気持ち良い。


 掃除に邪魔な物を次々と外に出してゆく。そのとき、せめて埃くらいは取り除こうとウェットティッシュや乾いた布でひとつずつ拭いていった。


 このとき地味に邪魔だと思えたのがダンジョンのドロップアイテムだ。重い、かさばる、長いなど、処分したくなる理由がいくつもある。しかし、事情があって手元に置いておくしかないのだ。


 動かせる物はすべて動かした祥吾は次に室内を上から順にはたきをかけてゆく。この際だからと細かいところまではたいてゆくと結構な埃が出てきて何度か驚いた。次いで雑巾で室内を拭いてゆく。天井近辺は脚立を持ってきて登り、床近辺は場合によって四つん這いになった。それらが終わると次は床掃除だ。これは掃除機をかけるだけなので楽である。


 こうして室内の掃除が終わると最後に部屋から出した物を順番に自室へと入れてゆく。前と同じ位置に戻すのならば大して時間はかからない。ここでレイアウトを変えようと試行錯誤を始める地獄を見てしまうことになるが。


 そういった面倒なことをしなかった祥吾は素直に物を元の位置へと戻した。なので道具や荷物などの運搬はすぐに終わる。


 昼前に大掃除が終わった祥吾は床に大の字になって寝転んだ。掃除直後なので実に気持ちが良い。


 そのとき、スマートフォンが鳴る。画面を見ると電話をかけてきたのは母親の春子だ。そのまま通話ボタンを押す。


「母さん、どうしたんだ?」


「お昼ご飯ができたわよ。食べにいらっしゃい」


 連絡を受けた祥吾は電話を切って立ち上がった。換気のために開けていた窓を閉めると自室を出る。


 台所に入った祥吾は食卓に座った。今日の昼は昨日の夕飯の残りである八宝菜だ。これを大盛りのご飯にかけたものが目の前に置かれる。


「母さん、父さんは?」


「たぶん、まだ注連縄(しめなわ)を作っているんじゃないかしらねぇ」


「餅はもうできたんだ。えっと、鏡餅とか」


「それはできたって聞いたわよ。きりの良いところまで作って、昼からまた続きをするんじゃないかしらねぇ。そういえば、祥吾は朝の間に部屋の掃除を終えたの?」


「さっき終わったところ。今の俺の部屋は輝いて見えるぞ」


「それはすごいわねぇ。それじゃ、買い物お願いできないかしら?」


 問われた祥吾は台所の流し台近辺に目を向けた。正月に向けての準備が所狭しと成されている。小芋の煮物、すまし、白味噌、おひたしなどがちらりと見えた。これを今日中に片付けるとなると猫の手も借りたくなるのは理解できる。この大半を平らげるのは自分なのだ。手伝わないという選択肢はない。


 口の中の物を飲み込んだ祥吾がうなずく。


「いいけれど、何をどこで買えば良いんだ?」


「半分は商店街のお店で予約してあるのよ。だから、正木って言えば出してくれるわ」


「残りは?」


「お店で店員さんに聞けば良いじゃないの。はい、買い物リストよ」


 差し出されたA4用紙数枚には画像付きで印刷された品物が載っていた。商品名が異なる場合は上からペンで線を引いて書き直してある。最初から頼むつもりだったらしい。


 若干呆れつつも祥吾はそれを受け取る。


「朝の間に頼んでくれたら掃除の前に行っていたのに」


「元々お父さんに頼むつもりだったのよ。でも、今はまだ忙しそうだからねぇ」


「ああ、父さん用だったんだ、これ」


「そうよ。今度からはどちらかに頼めるなんて嬉しいわぁ」


 そう言いながら母親の春子は台所へと戻って行った。後には数枚の様子を手にした祥吾が椅子に座ったまま残される。


 いつまでもそのままでいても仕方ないので、祥吾は用紙を脇に置いて食事を再開した。




 夕方、祥吾は自室でスマートフォンを操作していた。買い物の後、父親の健二の手伝いをしたり鏡餅をあちこちに置いたりした後、時間が空いたのでウェブ小説を読んでいるのだ。今日の予定はもうない。


 ちなみに、買い物は簡単だった。プリントされた用紙があったからというのもあるが、どの店も正月用のコーナーを設置していたのですぐに見つけられたからである。

いつの間にか日が暮れていたことに気が付いた祥吾は母親が電話をかけてきたので通話した。夕飯の準備ができたとのことなので階下へと向かう。


 食卓には既に父親の健二が年越し蕎麦を食べていた。蕎麦の上に海老天、お揚げ、かまぼこ、刻み葱が載っている。


「おお、うまそうだな」


「うまいぞ。祥吾も早く作ってもらえ」


 なぜだか誇らしげに語る父親に曖昧な笑みを浮かべた祥吾は台所へと顔を向けた。ちょうど母親が年越し蕎麦を持ってきてくれたところである。


「はい、どうぞ」


「おお、これこれ。やっぱり海老天は丼からはみ出ていてこそ年越し蕎麦だよなぁ」


 自分にとっての定番が出てきたことで祥吾は喜んだ。買ってきたときに見てはいるのだが、やはり完成したその姿を見るとまた趣も異なるものである。


 箸を手にした祥吾は早速食べ始めた。最初は海老天から囓る。見た目は衣に一面覆われているが、中には大きめの海老が収まっていた。衣はさっくり、海老はぷっくりとしていて非常に食感が良い。それから蕎麦をたぐり寄せてすする。食べ終われば今度はお揚げを囓って蕎麦をすすった。途中で刻み葱を混ぜたりかまぼこを囓ったりもする。


 その後、母親の春子も加わって3人で夕食を食べた。除夜の鐘を聞きながら食べるというのも趣はあるが、後始末などを考えるとやはりいつも通りの時間に食べるのが一番だ。


 2杯目は半熟玉子を入れて蕎麦を食べた祥吾は食事が終わると自室に戻った。後は風呂に入って寝るだけであるが、とりあえず食休みだ。ウェブ小説の続きを読む。


 その直後、電話が鳴った。相手はクリュスだ。そのまま通話ボタンを押す。


『こんばんは、そっちはもう夜よね』


「さっき年越し蕎麦を食べたばっかりだ」


『ああ、そんなものもあったわね。今の私には縁がないわ』


「そっちにはこの類いの食べ物はないのか」


『ないわね。こっちはクリスマスがメインだから。新年は2日から平日よ』


「それはまた早いな。そっち側ではどこかに出かけたのか?」


『まさか。公共の交通機関も泊まるのに出かけられないわよ。ガソリンスタンドさえお休みなんだから』


「自動車での外出も慎重にしないといけないのか。なんだかすごいな」


『日本がやりすぎなのよ。だから近年は元旦営業をやめるところも出てきているでしょう?』


「人手不足で人が集まらないからできないっていう話もちらほらときくけれどな。それで、元気だっていうのを知らせるために電話をかけてきたのか?」


『それもあるけれど、一番の目的はこっちよ。ほら、タッルス』


『にゃぁ』


「おお、一緒に行っていたんだったな」


『あなたに会わせろって行って聞かないのよ』


「それは物理的に無理だな」


『だからこうやって声で我慢してもらっているの』


『にゃぁ』


「日本に来たらまた会おうな」


 その後しばらく、祥吾はタッルスと声を交わした。その間にクリュスから予定通りに日本へと向かうと伝えられる。


 久しぶりにクリュスとタッルスの相手をしながら祥吾は迫る年の瀬をのんびりと過ごした。

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