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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第8章 1学年の終わり

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いつも通りの冬休み

 黒岡高等学校の冬休みが始まって数日が過ぎた。盛んに宣伝されていたクリスマスイベントも過ぎ、世間はいよいよ年末に意識を向けるようになる。


 そんな中、祥吾は学校に通っていたときと同じ時間に寝起きしていた。一般的には日々の制限から解放されると人は生活が乱れるものだが、祥吾にはそういった兆候が見られない。肉体的には高校生であるが、精神的には大人なのでいつもの行動を繰り返す方が楽なのだ。それに、近頃は体が火照っているので寒くて起きられないということがない。


 いくつかの事情が重なって普段通りに起きた祥吾は日課の筋肉トレーニングを済ませると朝食を食べるために台所へと向かう。


「おはよう」


「あら、早いわね、祥吾。冬休みに入ったのに毎日いつも通りじゃない」


「目が覚めるんだから仕方ないだろう。ずっと寝ていても仕方ないし」


「おじいちゃんみたいなことを言うのね」


 朝食を用意してくれる母親の春子から言われた言葉に祥吾は嫌そうな顔を向けた。中身は一足先に大人なので心に母親の発言がいくらか刺さってしまうのだ。その結果、反論しそびれて黙ることになる。


 同じ食卓で席に座っている父親の健二(けんじ)は新聞を呼びながら我関せずの態度を貫いていた。しかし、春子が食事の準備で口を閉じると祥吾に顔を向ける。


「今日も家にいるのか?」


「何もなければ。冬休みの宿題があるから片付ける予定かな」


「どの程度進められたんだ?」


「3分の2くらいかな。終業式の前から少しずつ進めていたから早いよ。年内には終わる予定だから」


「そうか。ああそれと、母さんから成績のことを聞いたぞ。オール5とはすごいな」


「自分でも驚いているんだ。まさかあんな好成績だなんて」


「これもクリュスちゃんのおかげか」


「まぁそれはあるだろうね。かなり勉強を教えてもらったからな」


「うーん、これは何かお礼をしないといけないなぁ」


「遊びに来たときは大抵ここで飯を食っているんだから、それで良いんじゃないの? クリュスを見ていると、大したことをしているようには見えないんだよな」


 今年1年を振り返りながら祥吾は父親の健二に自分の感想を伝えた。当人としてはダンジョンに同行してもらうための必要な作業という感覚なのを知っているので、お礼は辞退するのではと予想する。


 ただ、両親から見るとクリュスが一方的に献身しているように見えることも祥吾は知っていた。なので、日々の食事で対価を支払っていると父親に返答したのである。過大なお礼をして今は帰国しているクリュスを困らせるなという意味も暗に含めていた。


 母親が用意した朝食を平らげた祥吾は自室に戻る。空調の電源を点けっぱなしにしていたので室内は暖かい。机に向かうと指先がかじかむことを気にすることなく冬休みの宿題をやり始めた。何もない日は夕方までのんびりとやり続けるので作業は前倒しで進んでいる。


 祥吾は9時過ぎに1度手を止めた。一区切りついたとき、あるいは集中力が途切れたときに休憩を入れる。割と頻繁に休むときもあるが気にしない。日中ずっと宿題をしているとどうやっても予定以上に作業は進むからだ。


 スマートフォンを手に取った祥吾はブラウザを立ち上げてニュースを見る。興味がない芸能関連や見てもわからない経済関係の記事を無視し、興味のあるものだけを選んでいった。すると、どうしてもダンジョン関連に偏ってしまう。それが面白くないと思いつつも同時にに苦笑いした。


 ダンジョン関連で真っ先に目に付くのは魔物の大量放出の記事だ。日本にいくつもあるダンジョンは常にどこかで問題が発生している。現状の探索者の数では足りないのだ。特に地方はひどく、常に警戒区域で魔物を間引いているというダンジョンもある。


 これらの記事を見ると都市部はまだかろうじて人がいるので何とかなっていることが理解できた。この問題にどう対処するのかということも国会でよく議論されているが、今のところ有効な手立てはないようだ。


 それなら海外に移住しようとする人も現われるのだが、現実は非情である。世界中どこであっても似たような状況である上に日本はまだましな部類とさえ言えた。


 見ていても面白くない魔物の大量放出の記事だが、それでも祥吾はたまに目を通す。ダンジョン攻略と大いに関係しているからだ。いつ自分がひどいダンジョンに向かうことになるのかと想像すると無視できない。


 他にも武器や道具を販売しているサイトやダンジョンの情報を公開しているサイト、他には技術関連の動画も目を通している。興味本位の場合もあるが、自分の生死に直結する場合もあるのでこの辺りも見ておく必要があった。


 そんな中、夏以来たまに見るようになった記事がある。魔力の利用に関する記事だ。ダンジョン内では魔法を使えるが現世世界に戻ると体内でしか魔法を使えないというのは探索者たちの不満のひとつである。また、ダンジョンに入るという危険は冒したくないが魔法は使いたいという人々も多い。このため、魔力を利用するための研究はダンジョン発生直後から長年続けられていた。それが今年の夏にようやく足がかりを得たのだ。


 いずれダンジョンをこの世界からなくすという神々の意思を知っている祥吾からすると石油や鉱物資源と同じく限りある資源にしか見えないのだが、一般的にはダンジョンで無限に取れる資源として見做されている。なので、魔力の利用に関する研究に進展があったことを素直に喜べない。


 しかし、同時に直近の探索者不足を補うためには必要なことであることも祥吾は理解していた。魔法を使いたい、一攫千金を狙う、というような個人的な動機頼りではなく、ダンジョン探索を産業として確立したほうが安定して人手不足を解消できるからだ。世界にはダンジョンから溢れる魔物を止められない地域もある。侵略者が滅んだ後に地球の侵略が完了しましたなどという間抜けなことにならないためにも、何かしらのやる気になれる撒き餌は必要なのだ。


 スマートフォンの画面から目を離した祥吾がため息をつく。高校生が考えることではないなと自分に呆れた。


 そろそろ冬休みの宿題を再開しようかと思った祥吾だったが、電話がかかってきたことを知る。祐介からだ。


 通話ボタンを押した祥吾が声を上げる。


「祐介か。どうした?」


『お前、今何をしてるんだ?』


「冬休みの宿題の宿題だよ。休憩が終わって今から再開するところかな」


『そりゃ悪かった。ところで、昼から出てくることはできるか? 良樹も誘って3人で遊ぼうと思って電話をかけたんだ』


「商店街のゲーセンにでも行くのか」


『それとカラオケにもな』


「別に構わないが、良樹はコミディスの準備で忙しいんじゃないのか? あれって年末にあるから今は直前だろう」


『そっちの準備はもう終わってるから大丈夫らしい。半日なら平気だって言ってたぞ』


「だったら良いんじゃないのか。いつもの場所で集合だよな」


『午後1時な』


 電話を切ると祥吾は小さく息を吐き出した。今日の昼に予定が入ったのだ。宿題ばかりしていてもつまらないので良いことである。


 気合いを入れ直した祥吾は朝の間に進められるだけ進めるべく冬休みの宿題に向かった。




 昼食を終えて食休みをした後、祥吾は自宅を出た。向かうは黒岡小町商店街だ。その出入口の一角に向かう。


 集合場所には既に祐介と良樹が待っていた。手を上げた祐介が祥吾に声をかける。


「おせーぞ、祥吾!」


「えぇ、1分前なんだから遅れていないだろう」


「まぁいいんじゃないかな。それじゃまずゲーセンに寄ろうか、2人とも」


 じゃれ合いかけた祥吾と祐介を止めた良樹が止めて目的地のひとつへと誘導しようとした。寒い場所にいつまでもいたくないのである。


 ゲームセンターに寄った3人はまずいつも通りに格闘ゲームで遊び始めた。今は年末で他の客も多い。対戦相手には困らなかった。祥吾と良樹の2人とは違い、祐介は連戦連である。そのうち祐介の台には誰も寄り付かなくなった。


 ある程度遊んだ3人は次いでカラオケボックスへと向かう。2時間コースで順番に好きな歌を披露していった。良樹は本人定番のアニソン縛りで歌い続け、祐介は全体的に新しめの曲を、祥吾は定番の曲を歌う。


 一通り歌った後、3人は一旦休憩に入った。そのとき、祐介が他の2人に話しかける。


「来年の初詣はいつも通りでいいのか?」


「いいんじゃないのか? 良樹は?」


「お正月は大丈夫だよ。コミディスも終わってるしね」


 飲み物片手に3人は元旦の予定を確認した。毎年の恒例行事である。中学校に入ってから始めたことなのでまだ4回目でしかないが、感覚としては何年も繰り返した感じだ。


 その後も3人は楽しく時間いっぱい歌い続けた。

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