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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第8章 1学年の終わり

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高校1年生2学期の終業式

 数日前から体が熱っぽくなっている祥吾は最近寒さに強くなった。何しろ体の内から熱を発しているので多少の冷え込みは問題にならない。ゼリー状の固体を毎日食べている効果がこんな形で役立つとは予想外だった。


 そんなこともあり、今の祥吾は早朝に起きることが苦にならない。体の熱さが病気でないとわかっているので日課はいつも通りこなし、食事を遠慮なく食べる。


 学校へ登校するために祥吾は自転車を使っているが、今は冷たい風が気持ち良いくらいだ。並走するクリュスが指摘してくる。


「全然寒くなさそうね」


「体が熱っぽいからな。病気だったら体が冷えないようにと気を付けるんだが、今の俺の体は健康そのものだからむしろこのくらいで良い感じだよ」


「体内で発熱して寒さを防ぐのね。私もやってみようかしら」


「そんなことできるのか?」


「体内で魔法を使うだけなら、その程度はね。あら本当、暖かくなってきたわ」


 自転車で並走するクリュスが実験に成功したらしいことを知った祥吾が目を見開いて横を見た。機嫌良くペダルを漕いでいるクリュスに微笑まれる。


 日常の世界で非日常なことを平気でやってのけるクリュスに驚きつつも、祥吾は今の自分も同じであることに少ししてから気付いた。ゼリー状の固体の正体が何であるかを思い出す。あれこそファンタジーそのものだ。


 何とも言えなくなった現状に言葉を見つけられなかった祥吾はクリュスと共に学校へとたどり着く。正門から校内に入って駐輪場で自転車を停めた。互いに教室へと向かうためにその場で別れると校舎に入って廊下を歩く。


 教室に入ると暖房がある程度効いていた。少し息苦しいが温かい室内に気分が落ち着く。


 自分の机にスポーツバッグを置いた祥吾は席に座った。すると、中岡良樹(なかおかよしき)が近づいて来る。


「おはよう、祥吾君。あんまり寒そうには見えないね」


「体が温かいからな、今は」


「熱でもあるのかい?」


「体を動かして内から温めたからな。お前もやったらどうだ、良樹」


「僕は遠慮しておくよ。すぐに汗だくになって動けなくなること確実だね」


 愉快そうに運動が苦手だと宣言する友人に祥吾は苦笑いした。実に効果的な寒さ対策なのだが、それを避けたがる人々も確かにいる。しかし、さすがに強制はできない。


 2人で談笑していると木田祐介(きだゆうすけ)が近寄ってくる。


「祥吾も来たのか。今日でやっと終わりだよな、2学期も」


「そうだな。早く終わってくれないかなぁ、終業式」


「この寒い中、体育館へ行かなきゃいけないんだよな。運動場よりかはマシだが」


 話をしながら祥吾は祐介と共に窓の外へと顔を向けた。空がとても澄んでいる青い。夏だと熱く感じそうなのに冬だと寒そうに感じるのだから不思議である。


 3人の話題はあちこちへと飛んだ。期末試験は既に過去の話となり、今は冬休みをいかに楽しく過ごすかということに全員の意識が向いている。目の前に長期休暇が横たわっているのだから当然とも言えた。


 チャイムが鳴ると教室内の生徒が徐々に席に座っていったが相変わらず騒がしい。自分の席の前後左右と誰もが雑談を続けている。しかし、そんな状況も担任の沢村教諭が入ってきて終わりを告げた。生徒が全員前を見る。


「これから体育館に行きます。全員、廊下に出て並んでください」


 静かになったと思った室内が再び騒がしくなった。誰もが席を立ち、冷えた廊下へと出る。どの教室から出てきた生徒も顔を歪めていた。


 整列が終わると生徒たちは教室順に2列で体育館に向かう。沢村教諭の1年B組もその中にあった。


 体育館の中には続々と各学年の生徒が集まってゆく。式が始まるまでざわつきは収まらない。全体的に気だるそうでありながら、同時にどこか楽しげだ。


 相変わらず体は熱っぽいので祥吾は冬の寒さが気にならない。体育館は窓も扉も閉め切られたが暖房などないので足元は冷気が漂ったままである。


 誰もが早く終わってほしいと願う終業式が始まる。校長の挨拶から始まり、生活指導の教員から冬休みの諸注意があり、続いてその他の全校生徒向けの事務連絡がいくつか告げられた。いずれも一般的な内容のものばかりである。


 やがて生徒の集中力が切れ始めた頃にようやく終業式が終わった。3年生から順に各校舎へと戻ってゆく。祥吾たちのクラスはほとんど最後に体育館を出た。教室へと戻ると再び暖かい空間が出迎えてくれる。入った生徒から体を弛緩させていった。


 今は寒さに平気な祥吾もその1人だ。のんびりと席に座って前を見る。一緒に教室まで戻って来た沢村教諭が教壇の上で話を始めた。


 簡単な話が終わった後、いよいよ通知表が手渡される。名前を呼ばれた順に生徒が前まで歩いて行った。通知表を受け取った生徒の反応は様々だ。ある者は満足そうにうなずき、別の者は肩を落としている。


「次、正木君」


 沢村教諭に呼ばれた祥吾は席から立ち上がって教卓の前にやって来た。手渡された通知表を片手にすぐ自分の席に戻る。


 座った祥吾は通知表を開けた。5段階評価ですべて5ばかりだ。試験であれだけ好成績を収め、提出物もすべて出し、授業態度も良いのだから当然だと言えるだろう。1学期よりも成績は上がった。あとはこれを維持するだけである。


 今後も好きにできることがわかって一安心の祥吾は教壇側へと目を向けた。沢村教諭の話も終わりに近づいている。他の教室はちらほらと騒がしくなってきているのが遠くから聞こえてきた。それが増えるに従って教室内の生徒が落ち着きをなくしていく。


「それでは最後に、皆さん冬休みだからといって気を抜きすぎないようにしてください。以上です」


 終了の宣言が沢村教諭からなされると室内が一気にざわめいた。これで始業式まで何もない。自由だ。


 立ち上がった祥吾は大きく背伸びをした。それから教室内を見て回る。良樹の姿は既になく、祐介は多湖敦(たこあつし)香川徳秋(かがわとくあき)の2人と話をしており、正名香奈(まさなかな)林睦美(はやしむつみ)は教室を出ていったところだ。他の生徒たちも好きなようにしている。


 特に話すこともなかった祥吾はスポーツバッグを肩に提げて教室を出た。廊下は寒いがそんなものは知らないとばかりに周囲の生徒たちははしゃいでいる。


 あちこちに広がる生徒の間を縫って進んだ祥吾は駐輪場へと入った。ふと見ると、自分の自転車の隣にクリュスのものがある。まだ帰っていないようだ。


 教室内の友人と話すこともあるのだろうと想像した祥吾は自分の自転車を引っぱり出した。その時点で背後から声をかけられる。


「祥吾! あなたも今帰るところなのね」


「友達とのおしゃべりはもういいのか?」


「構わないわ。世間話くらいしかしないもの。それより、一緒に帰りましょう」


 同じように自分の自転車を取り出したクリュスと一緒に祥吾は駐輪場から離れた。サドルに跨がるとペダルを漕ぐ。そのまま正門から校外へと出て並走した。


 周囲から生徒が少なくなったところで祥吾はクリュスに声をかけられる。


「冬休みの宿題はどの程度できたかしら?」


「いきなりだな。まだ冬休みが始まったばかりだっていうのに」


「あんなものさっさと終わらせておくに越したことはないでしょう」


「3分の1くらいは終わらせたよ。残りは年内に片付ける予定だ。クリュスはもう終わらせたのか」


「実家に持ち帰りたくないもの」


「そりゃそうだ」


 才女の主張を聞いた祥吾はうなずいた。自分が外国の学校に通っていて年に1度の帰国のときに宿題を持って帰りたいかと問われたら否と答える。やらないという選択肢がない以上、事前に終わらせるしかないのだ。


 同意を示した祥吾は続けてしゃべる。


「宿題でわからないところがあったら、来年聞くからな」


「良いわよ。いくらでも聞きに来なさい。そうだ、成績はどうだったの?」


「オール5だ。あんなの初めて見たぞ」


「やったわね。私と同じじゃない」


「中身はまるで違うけれどな」


「そんなの大した問題じゃないわ。どうせ外から見てもわからないもの」


 金髪を風になびかせながらクリュスが言い放った。それを堂々と言ってのけることができるのは本物だからだろうと祥吾は思う。


「何にせよ、これでダンジョンに通っていても文句は言われないわけだ」


「嬉しいわね。問題は、そのダンジョンに通う時間が限られているということかしら」


「俺としては悪くないと思っているぞ。学校という制限がなかったら本当にダンジョン漬けになっていただろうしな」


「そう言われると確かにそうとも受け取れるわね」


 ダンジョン攻略についてはどうしても受け身になってしまう祥吾が正直な感想を伝えた。今自分が何をどう考えているのかを伝えておく必要があると思ったからだ。


 悩ましげな表情を浮かべるクリュスを横目で見ながら祥吾は自転車を漕いだ。

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