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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第7章 高校生活に慣れてきた頃

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飼い主と黒猫

 2学期の期末試験が終わって最初の週末がやって来た。既に12月も半ばになりつつあり、今年も残り少なくなってきている。


 いつも通り目覚めた祥吾は布団から出ると日課の筋力トレーニングをこなし、その後に朝食を食べるために食卓へと向かった。台所で後片付けをしている母親の春子と食卓の椅子に座って新聞を読んでいる父親の健二に挨拶する。


「おはよう」


「はぁい、おはよう。今からご飯を用意するからねぇ」


「祥吾、期末の試験はどうだったんだ?」


「良い感じだった。期待できるから来週の答案用紙の返却が楽しみだよ」


「ほう、そこまでか。それは父さんも楽しみだな」


 新聞から目を離して祥吾を見ていた健二が機嫌良くうなずいた。そうして再び新聞へと目を戻す。望む返答を聞けて満足したようだ。


 実際のところ、祥吾は結果の一部に不安がある。しかし、客観的に見れば平均90点前後というのは充分に高得点だ。なので、あえて自信満々に答えたのである。


 こうして朝の会話を乗り切った祥吾は安心して朝食を食べ始めた。今朝は昨日の残りものである筑前煮と味噌汁、そして山盛りの白米だ。濃い味付けの筑前煮をおかずに白米をほうばる。


「祥吾、あなた、冬休みはどうするの?」


「どうするって? 今のところは特に何もすることはないけれど」


「あらそうなの? またダンジョンに行くのかなと思ったのにねぇ」


「クリュスが実家に帰るからな。1人ではさすがに行けないよ」


「ああそっか、クリュスちゃん年末年始は日本にいなかったわねぇ」


「それに、俺もそんなにいつもダンジョンに行きたいわけじゃないから」


「あらそうなの。クリュスちゃんに頼まれて行っている感じ?」


「そうだよ」


 短く答えてから祥吾は味噌汁をすすった。クリュスに責任を押し付けているような発言になってしまっているが、実際その通りなのでこう言うしかない。ただ、同時にクリュス1人をダンジョンに行かせるというのは忍びないという気持ちもある。こちらは恥ずかしいので黙ったままだ。


 台所での後片付けが終わった春子が温かいお茶を湯飲みに入れて椅子に座った。お茶を一口すすってから祥吾に話しかける。


「それにしても残念よねぇ。クリュスちゃんがお正月にいたら、一緒に初詣に行けるのに」


「いつも4日くらいには帰って来るからそのときに行けないこともないけれど」


「それなら今年は、クリュスちゃんが帰ってきたらもう1回行ってきなさいよ」


「どうしてそこまでして初詣に行かせたがるんだ?」


「だって、クリュスちゃんの晴れ着姿が見たいでしょう!?」


 湯飲みを持ちながら春子に夢見がちな顔で断言された祥吾は思わず食べている手を止めた。なぜか母親のような発想にはならなかったが、確かに似合うだろうなと想像する。ただし、あの美人は何を着ても似合うので、似合うこと自体に驚きはないとも思った。


 朝食が終わると祥吾は自室に戻り、授業の予習と復習を始める。とはいっても、今週は試験ばかりだったので復習することはほとんどなく、来週は答案用紙の返却であまり授業にならないことから予習もあまり必要がない。どちらも合わせてすぐに終わった。


 いよいよやるべきことがなくなった祥吾はスマートフォンを取り出す。いつものようにウェブ小説を開いて読み始めた。最近はまた新しい作品を発掘してしまったので読むのに忙しい。


 そうやって楽しく祥吾が余暇を楽しんでいると電話が鳴った。クリュスからだ。何事かと通話を始める。


「どうした?」


『昼からうちに来てくれないかしら。タッルスがあなたに会いたがっているのよ』


「最後に会ってからまだ1ヵ月も経っていないはずだよな?」


『そうなんだけれど、どうしても会いたいって聞かないの。たぶん、来週帰国するからでしょうね。次に帰るのは年始だから1ヵ月以上になるでしょう?』


「それでも今までなら我慢できていただろう。急にどうしたんだろうな」


『私にもわからないわ。とにかく、来てちょうだい』


「わかった。昼からだな。まぁ昼過ぎに行くと思う」


『待っているわ』


 突然の誘いに驚いた祥吾だったが、タッルスが会いたいというのならば行くしかなかった。クリュス共々、あの黒猫には基本的に逆らえないのである。


 そんなことで少し苦笑いしつつも祥吾はウェブ小説の続きを再び読み始めた。




 昼食を食べ終えた祥吾は自宅を出た。目指すはクリュスが住んでいるマンションである。まだ10代の身で毎月家賃を支払っている正真正銘クリュスの部屋だ。親の金ではないというところが本当にすごいと祥吾などは思う。


 ともかく、お高めの家賃にふさわしいマンションにたどり着くと、エントランスホールでオートロック式の扉に阻まれた。脇にあるテンキーを入力してインターホンのボタンを押すとクリュスの声がスピーカーから聞こえてくる。


『今開けるからちょっと待ってね』


 住民側で暗証番号を入力してもらうとスライド式の扉が自動で動いた。その後は普通のマンションと変わりない。エレベーターを使って昇り、クリュスの部屋の扉の前で改めてインターホンを押す。扉はすぐに開いた。白のブラウスにややゆったりとしたベージュのパンツ姿である。


「いらっしゃい。さぁ入って」


「お邪魔します」


「にゃぁ」


 部屋の主に促されて玄関に入るともう1匹、お座りをした猫が出迎えてくれた。金色の眼に黒一色の毛並みの上品な黒猫だ。タッルスである。


 靴を脱いだ祥吾がその隣で(かが)むとタッルスは近づいて来た。そうして持ち上げて抱えると甘えた声で鳴いて顔を擦り付けてくる。


「相変わらず飼い主以上に好かれているわね」


「やっぱりこういうのを見ていると寂しくなるのか?」


「というよりも、一体誰が生活の面倒を見ているのよって思うのよ」


「なるほどな、立場が逆なら俺もそう思うだろうな」


「でしょう?」


「別に餌をやるわけでもないのになぁ」


 懐かれる理由は何となくわかる祥吾であったが、さすがにここまで好かれる理由はわからなかった。悪い気はしないが、クリュスを見るとなんだか悪い気がしてくる。


 今回クリュスの部屋に呼ばれた理由を果たすため、祥吾はタッルスの相手をしなければならない。何しろご機嫌を取らないと飼い主のクリュスが困るのだ。直近では試験勉強を手伝ってもらったのでその恩を返すためにもタッルスを甘やかす。


 黒猫を抱えた祥吾はクリュスに案内されて玄関から台所を横切ってリビングに移った。比較的生活感のある台所に対して、ローテーブルやソファなど最低限の家具しかないリビングはそれが希薄である。全体的に質素なのだ。


 勧められたソファに座った祥吾は黒猫をかわいがる。抱えられたタッルスは気持ち良さそうに目を細めた。その間にクリュスが飲み物を用意する。


「熱いから気を付けてね」


「猫は飼い主を自分と同じ仲間だと思っているらしいが、クリュスとタッルスを見ていると、とてもそうは思えないなぁ」


「私の方が使われていると言いたいわけ?」


「俺にはそう見えるんだが」


「まぁ否定はしないわ」


 飼い主の返答に祥吾は苦笑いした。ペットの世話で大変という意味だけでなく、本当に仕えているかのような感じがするという意味を込めたのだが、果たしてどれだけ通じているかわからない。


 そのクリュスから祥吾は話しかけられる。


「知っているとは思うけれど、私は1週間後に日本を出るわ。戻ってくるのは10日後くらいになる予定よ」


「毎年のことだよな。親御さんにはちゃんと家族サービスをするんだぞ」


「もちろんよ。そのための帰国なんだから」


「1年のうち10日しか会えないんだから、精一杯甘えてくるんだぞ」


「もうそんな歳じゃないわ。それに、日本だと年に1度しか会えない恋人もいるんだから、10日も会えば充分よ」


「お前その考えは冷たいだろう。それと、年に1度しか会えない恋人って誰のことだ?」


「織姫と彦星よ」


「そういえば、七夕なんてあったなぁ」


 黒猫を撫でながら祥吾は遠い目をした。プレゼントをもらえたクリスマスとは違い、願い事をするだけの七夕の印象は薄いのだ。大体同じ時期くらいにやらなくなったような記憶があるのだが、七夕のことはあまりよく覚えていないことが多い。


 意識を現実に引き戻した祥吾がクリュスに顔を向ける。


「まぁ何にせよ、気を付けて行ってこいよ。ダンジョンの外にだって危ないことはあるからな」


「そうね。お人形でもひとつ持って行こうかしら」


「あれか。使ったら使ったで大問題になりそうなもんだが」


「死ぬよりましね」


 確かにその通りだと祥吾はうなずいた。なので否定はしない。


 その後、2人は雑談をしながらタッルスの相手をする。その間、黒猫はあくまでも祥吾の膝の上から離れようとはしなかった。

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