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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第7章 高校生活に慣れてきた頃

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201/208

師走最初の週

 今年最後の月となった。師走と呼ばれるこの月は一般的に忙しいとされているが、それは生徒も変わりない。黒岡高等学校の生徒の場合、前半は期末試験で忙しく、後半は冬休みの各種イベントで忙しいのだ。


 最初の週に入ってすぐのある日、祥吾はいつものように自宅を出て学校に向かった。先月に比べて気温は一段と低くなっており、朝方だと吐く息がそろそろ白くなる頃である。


 いつもの合流場所でクリュスと会った祥吾はそのまま自転車を走らせた。並走するクリュスに話しかける。


「さすがに寒くなってきたな」


「12月ですものね。来週は期末試験だけれど、自信の程はどうかしら」


「微妙だな。平均で8割ならいけるだろうが、9割となると自信がない」


「それなら今週末にまた勉強会を開かないといけないわね」


「ダンジョンの活動に一区切り付いたと思ったら、今度は試験勉強か。忙しいなぁ」


 面白くないという様子で祥吾がぼやいた。平日は日課として予習復習をしているが、今の目標を達成するにはそれだけではもはや足りない。週末をどう使うかにかかっている。


 他の雑談も交えながら2人は学校へと向かってペダルを漕いだ。正門を通り抜けると駐輪場で自転車を置く。そうしていつも通り自分たちの教室へ向かうために別れた。


 教室に入った祥吾は自分の席に近づこうとしたが、ふと良樹の席を見ると当人がいないことに気付く。いつもならば祥吾よりも早く来ているはずなのに珍しい。


 スポーツバッグを机の横にかけた祥吾が席に座ると祐介がやって来る。


「祥吾、おはよう。今月に入っていきなり寒くなったな」


「本当にな。さすがにここまで来ると衣替えが避けられない」


「お前まだしてなかったのかよ。そういや、最近まで夏服だったよな、制服も」


「体を動かしていれば大抵は何とかなるんだよ」


「さすがビルダー、言うことが違うな」


「久しぶりに聞いたぞ、その言葉。ところで、良樹が見当たらないんだが、何か知っているか?」


「あーあいつなぁ。たぶん、ぎりぎりに来るんじゃないかな」


「何でまた?」


「ほら、今月末に同人イベントのでっかいやつがあるだろう。あの準備と試験勉強が重なってるらしくて大変なんだそうだ」


「試験が終わってからイベントの準備をすれば良いんじゃないのか?」


「そうもいかないらしい。理由までは知らないが」


 具体的な理由が聞けなかった祥吾は首を傾げた。夏休みに手伝ったときのことを思い返したがやはりわからない。


 結局、この話はここまでとなって雑談は他の話題に移る。それはチャイムが鳴るときまで続いた。




 チャイムが鳴って昼休みに入った。校舎が一斉に騒がしくなる。祥吾の教室も例外ではなく、授業を担当していた教師の終了宣言と共に教室内がざわついた。


 スポーツバッグから弁当箱を取り出した祥吾は祐介たちの集まる所へと向かう。敦、徳秋、香奈、睦美が既に食べながら話していた。


 他人の席に座った祥吾はそこで自分の弁当を広げる。今日は肉の他に魚が入っていた。それをまず口にする。更にそこへ白米を突っ込んだ。


 そんな祥吾に敦が声をかけてくる。


「祥吾、今みんなで冬休みに何するかの話をしてるんだが、お前はどうするんだ?」


「気が早いな。まだ期末試験も終わっていないんだぞ?」


「そんなシケた話をしてもつまんないだろ。それより、今月後半はもう冬休みなんだから、そのことを語るべきだぜ」


「試験後の授業はないもの扱いかよ。でも、冬休みなぁ。実はまだ何も決めていないんだ」


「去年は何してたんだ?」


「中3だったから受験勉強だった。嫌なことを思い出させるよな、お前」


「そうだった、すまん。で、今年の冬休みはまだ未定か」


「そういう敦はどうするんだ?」


「オレ? オレは徳秋やバイト仲間と遊びつつ、大晦日や正月を過ごす予定さ」


 得意そうに敦が告げると隣で弁当を食べている徳秋もうなずいてきた。夏休みと遊ぶ面子は変わらないらしい。


 その徳秋が口の中の物を飲み込むと祥吾に尋ねてくる。


「ねぇ祥吾、クリュスちゃんは冬休みどう過ごすのかって何か知ってる?」


「クリュスは実家に帰るぞ。あいつ外国である日本に今は住んでいるから、クリスマスから正月明けまでは家族と過ごすために故郷へ帰るんだ」


「あ、そうなんだぁ」


「日本の学校に転校して以来、毎年そうだからな。今年だけ残るというのはできないだろう」


「そうかぁ、そうだよねぇ。家族と過ごさなきゃだもんねぇ」


「どうしてそんなにお前が感心しているんだ?」


「いやぁ、ちょっと気になってさぁ、あははは」


 知りたいことを聞けたからか、徳秋は祥吾との話を切り上げて自分の弁当に集中し始めた。その表情はいくらか明るくなっている。


 その話が終わると敦は香奈と睦美へと顔を向けた。そうして同じように話を振る。


「香奈と睦美はどうなんだ?」


「ん~、あたしたちはバイトをしつつ、一緒に大晦日や正月を過ごす予定だよ」


「大晦日は香奈のお(うち)で、お正月はあたしのお(うち)なんだよ~」


「お~、オレらと似てるなぁ。他にどこか行く予定はあるのか?」


「正月の三が日が明けてからどこか行くかもだけど、具体的にどこかは考え中かな」


「おいしい物があるところがいいよね~」


「香奈、そういう企画なのか?」


「別にそういうわけじゃないから。大体、睦美と同じだけ食べてたら太っちゃうじゃない」


「どうしてそんなに細いのか不思議だよな、お前って」


「えへへ~」


「敦に病気じゃないかって疑われてるんだよ、睦美」


「え~、ちがうも~ん!」


 香奈に吹き込まれた睦美が敦に抗議した。怒りの矛先を向けられた敦は驚いて首を左右に振る。


 たまに話に混じりながらも祥吾は弁当を食べ続けた。敦に告げた予定なしというのは本当で今もどうしたものかと考えている途中である。せっかくダンジョンでの活動がないのだから、何か他のことをやってみたいと考えているのだ。


 友人たちの話を聞きながら祥吾は色々と考えた。




 1日の終わりを告げるチャイムが鳴った。放課後の始まりである。教室内の生徒たちは次々と立ち上がり、友人の元へ、教室の外へと向かってゆく。


 スポーツバッグにすべてを入れた祥吾は立ち上がった。肩にそれを担いで教室を出ようとする。良樹の席に通りかかると呆けたように座りっぱなしの当人を目にした。


 怪訝そうな表情を浮かべた祥吾が動かない良樹に声をかける。


「良樹、どうしたんだ。ものすごく疲れているように見えるんだが」


「ものすごく疲れているんだよ、祥吾君」


「祐介から聞いたが、試験勉強とイベントの作業が重なっているらしいな。原因はそれか」


「当たり。イベントに出す品を注文しないといけないんだけれど、そのためには僕たちの方からデータを提出しないといけないんだ。それで、その締め切りが来週末なんだよ。つまり、試験日と大体被っているんだよね、ははっ」


「その締め切りは延ばせないのか?」


「延ばせるよ。ただし、割増料金が必要になるんだ。僕たちにはそれを支払う能力はないけれど」


「なるほどな、どうにもならないわけだ」


 思った以上にどうにもならない事情を知って祥吾は同情の眼差しを良樹に向けた。同好会の活動にかかる費用は生徒の自腹だ。なので、限られた予算というのはすなわち会員の小遣いなのである。


 同好会の台所事情を垣間見た祥吾は複雑な気持ちになった。幽霊会員なので関わらなくて良かったという安心感と、幽霊会員なので何もしていないという後ろめたさがない交ぜになる。


 ただ、それでも祥吾は自分に何かできるとは思えなかった。今回は試験期間と重なっているので手伝うこともできない。


 ふと気になったことを祥吾は問いかける。


「そのイベントのための作業は締め切りまでに間に合うのか?」


「一応計算上は。ただ、試験勉強が圧迫されちゃってね。そこが苦しいんだ」


「良樹が苦しいということは、他の会員も苦しいんだろうな」


「そうだね、みんな同じだよ」


「試験明けなら俺も時間はあるが、できることはあるか?」


「う~ん、それだがね、祥吾君に頼めそうな作業はその頃には残っていないんだ。やってほしい作業は今週中に片付けないといけないんだよね」


「それじゃ駄目だな。悪い」


「気持ちだけ受け取っておくよ」


 力なく笑う良樹を見て祥吾は小さなため息をついた。残念だが今回は見守るだけしかできないようだ。


 大きく息を吐き出した良樹が席を立った。そうして祥吾に顔を向ける。


「ありがとう。しゃべって少し楽になったよ。それじゃ、また明日」


「おう、じゃぁな」


 疲れた笑みを見せた良樹は鞄を持って教室を出た。


 帰宅するつもりだった祥吾も少ししてから続く。廊下の先に見えていた友人の姿はもう見えない。


 祥吾は駐輪場に向かってゆっくりと歩いた。

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