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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第7章 高校生活に慣れてきた頃

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本番の攻略─新宿ダンジョン─(4)

 眠っていたクリュスが目を覚ました。スマートフォンを取り出してアラームを止める。そうして気だるそうに上半身を起こした。同時タッルスも顔を上げる。


「おはよう、祥吾」


「最後の仮眠はよく眠れたか?」


「ええ。随分とましになったわ」


「時間に余裕があるから、もう2時間くらい眠っていても良かったんだよな、そういえば」


「今更ね。でも、使うのなら、その余裕は後で使いましょう。守護者の部屋の手前で」


「なるほどな、そうしよう」


 出発の準備をゆっくり始めたクリュスから目を離した祥吾は自分のスマートフォンを取り出した。画面を見ると月曜日の午前1時半だ。いよいよ最終日である。事情があって約4時間ほど遅延しているが、それ以外はすべて順調だ。


 簡単な食事などを済ませた2人は立ち上がるとリュックサックを背負った。問題がないことを確認すると小部屋を出る。最下層を目指して出発だ。


 最短経路の通路を進む2人は地図情報と実際の地形を見比べて慎重に進む。この階層からはより警戒して進まなければならない。一応最下層までの情報はあるが、完全であるとは限らないからだ。その理由は、地下26層以下にはほとんど誰も挑まないからである。岩巨人(トロル)相手に勝てる探索者パーティが限られるというのもあるが、地下26層以下は厄介な魔物がいるので避けられているのだ。


 今も踏むと仕掛け矢が発動する石畳を避けた祥吾が振り返る。


「罠自体はそれまでと変わらなさそうだな。これだけだったら言うことはないんだが」


狼人間(ワーウルフ)と同じくらい嫌われている魔物がいるものね。普通なら来ないでしょう」


「嫌だよなぁ。俺も今は遭いたくない。魔物だ。くそ、いやがったぞ!」


「ヴオオオオオオオ!」


 それまでの階層で出てきた多様な魔物に混じって牛頭人(ミノタウロス)が1体突っ込んで来た。味方であるはずの仲間の魔物を突き飛ばし、一直線に祥吾へと突っ込んでくる。


 周りなど眼中にないというその態度に呆れながらも祥吾は武器を構えた。すると、通路の端から端までを通せんぼするかのように荒れ狂う風がさえぎる。


 それに構わず突っ込んだ牛頭人(ミノタウロス)は体中が切り刻まれて血だらけになった。しかし、それでも止まらない。強引に突破する。他の魔物たちも気にしていないのか気付いていないのか、次々と風の壁に突っ込んでは切り刻まれていった。


 大半の魔物が脱落するなか、牛頭人(ミノタウロス)が尚も衰えずに突っ込んでくるのを見て祥吾は顔を引きつらせる。


「なんでお前みたいなのが普通の敵に混じっているんだよ」


「ヴオオオオオオオ!」


 血まみれの牛頭人(ミノタウロス)が長柄の戦斧を力一杯振り下ろした。風を切り裂くような力強さで床の石畳ごと叩き割ろうとする意思がありありと見える。


 魔法の支援がない今、まともに受けては潰されてしまうことを祥吾は理解していた。右横へ飛びながら槍斧(ハルバード)振り上げ、着地と同時に体をひねり、そのまま力一杯相手の左手首へと振り下ろす。狙い通り斧の刃が左手首に当たり、ほとんど切断した。


 素の状態の力不足を嘆きつつも祥吾は引き下がらない。怒りの感情をぶつけてくる牛頭人(ミノタウロス)が右手1本で長柄の戦斧を振り上げるのをじっと見る。


「ヴオオオオオオオ!」


 怒りにまかせて振り下ろされたその一撃を祥吾は次に左横へ飛んで避けた。そして、先程と同じように槍斧(ハルバード)を振り上げて全力で相手の右手首に振り下ろす。今度は右手首を半ばまで切断した。


 両手を使えなくなった牛頭人(ミノタウロス)は長柄の戦斧を床に落とす。しかし、それでも戦意はまったく衰えない。


「ヴオオオオオオオ!」


「しつこいんだよ!」


 尚も体当たりをしてこようとする牛頭人(ミノタウロス)相手に祥吾は槍斧(ハルバード)の穂先を首へと突っ込んだ。それでも勢いはいくらか残って押されるが、やがて力尽きて倒れる。


 抜けなくなった槍斧(ハルバード)を手放した祥吾は素早く剣を鞘から抜いて周囲を見た。しかし、既に動いている魔物はいない。


 剣を鞘にしまった祥吾が大きく息を吐き出す。


「やっと終わった。こいつが出る度に毎回番人の部屋で戦うみたいになるな」


「しかも、他の魔物と混じってやって来るんだから厄介よね」


「割に合わないって言ってみんな来ないわけだ」


「ドロップアイテムが落ちているわよ。戦斧(バトルアックス)だったかしら」


「ドロップアイテムはグレードダウンしているのか。割に合わないなぁ」


 面白くなさそうに祥吾はそれを拾った。換金の足しにするのだ。


 やることを終えると祥吾とクリュスは更に先へと進む。この後も牛頭人(ミノタウロス)狼人間(ワーウルフ)などの魔物やその魔物がでたらめに発動させる罠に苦しめられつつも階下へと降りていった。


 そうしてついに2人は地下30層の守護者の部屋までたどり着く。2学期に入ってからというもの、ここへ来るためにずっと苦労してきた。それがようやく実現したのだ。


 祥吾は隣に立つクリュスへ声をかける。


「クリュス、仮眠を取るか?」


「ここまで来たら一気に片付けましょう。魔物をあと1体倒せば終わるのですから」


 そう言い切ったクリュスがリュックサックから守護人形(ガーディアンドール)4体を取り出して起動させた。それから祥吾とその武器に魔法をかける。


 戦う準備ができた祥吾は扉の取っ手を握ると開けた。中は高さ約25メートル、縦横約50メートルの大部屋だ。その奥に、人間の3倍以上の体格がある巨漢が立っている。その頭部には大きな目がひとつあり、鋭い牙が口から覗いていた。また、半裸状態で腰蓑を巻いており、大きな棍棒を右手に持っている。単眼巨人(サイクロプス)だ。


 その巨体を見ながら祥吾は大部屋に入る。その背後から左右に人形が展開し、クリュスも後に続いた。タッルスもその足元にいる。


「ガアアアアアアア!」


 文字通り小人になった気分の祥吾はその叫びを真正面から受けた。大気が震えるという言葉があるが、なる程確かにと納得する。だが、その程度怯むことはない。これよりも恐ろしい敵と戦った経験があるからだ。


 人間ほどもある大きな棍棒を振り上げて迫ってくる単眼巨人(サイクロプス)に対して祥吾は真正面から突っ込んで行った。普通なら悪手だが、今は人形たちが左右から攻撃しようと展開している。そのため、1人はこういう役が必要だった。


 振り下ろされた大きな棍棒を左横に転んで祥吾は躱す。直後、その棍棒が床を叩いた。わずかな振動が体に伝わってくる。巨体ということ自体が大きな武器であることを思い知る事実だ。


 しかし、魔法によってそれに迫ろうとする。立ち上がった祥吾は強化された身体を使って魔力付与された槍斧(ハルバード)を相手の右手首に叩き込んだ。斧の刃が手首を傷付ける。


「ガアアアアアアア!」


 傷付けられたことに怒ったのか、単眼巨人(サイクロプス)が祥吾に向けて大きな棍棒を払った。床を引きずるようにして丸太のようなものを叩きつけようとする。


 さすがにそれは受けられないので祥吾は大きく後退した。その間に人形たちが両脚、特に膝から下を集中的に槍で突く。それにより、巨人の膝下は確実に削れていった。


 祥吾が後退したことで単眼巨人(サイクロプス)の意識が人形たちへと向けられる。棍棒を振り回す対象がそちらへと変わった。


 自分が標的から外れたことを知った祥吾は積極的に踏み込む。相手の背後へと周り、槍斧(ハルバード)を力一杯水平に振り回して右脚のアキレス腱へと叩き込んだ。その瞬間、大きな音と共に相手の動きが鈍る。


 こうなるといくら強大な単眼巨人(サイクロプス)でも1人と4体相手に為す術もない。更に両脚を集中的にねらわれてついには動けなくなり、頭部の目を深く突かれて絶命した。


 床に倒れた巨人を見ながら祥吾が大きく息を吐く。


「やっと終わった。人間みたいな姿なのに体がやたらと硬いんだよな」


「お疲れ様。ついにやったわね」


「人形様々だよ。あれがなかったら何時間も死にかかりながら戦う羽目になっていたからな。やっぱり格上の相手は数で押し切るべきだ」


「もっと苦労するのかと思っていたけれど」


「後半は作業みたいになっていたのは確かだが、あれだって命懸けなんだぞ。一発当たったら死ぬんだから」


「ふふふ、ごめんなさい。さて、ドロップアイテムなんだけれども」


「魔石と金棒?」


 倒した巨人の隣に転がっているドロップアイテムを見た祥吾が首をひねった。近づいてよく見てもその評価は変わらない。手に持ってみる。


「重いな、これ。身体強化の魔法を使って重いと感じるのか。素の俺だと持つのも苦労しそうだな」


「ただの鉄の塊ではないの?」


「どうなんだろうな。確かにこれで殴られたら死にそうだが」


「どうするの? 持って帰る?」


「あー、うん、持って帰ろう。このダンジョンは守護者の部屋で転移が使えるんだろう?」


「たぶんね」


「もし使えなかったら置いて帰ろう」


 手にした重みを感じながら祥吾は金棒の処分方法を決めた。これを30階層持って帰る気にはなれない。


 2人はとりあえず他の魔石も拾った。

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