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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第7章 高校生活に慣れてきた頃

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本番の攻略─新宿ダンジョン─(3)

 ようやく地下25層の番人の部屋の手前までやって来た祥吾とクリュスは休憩に入った。上の層から転移させられた探索者たちの面倒を見たことで大きな遅れが発生したが、今のところ許容範囲内だ。


 そんな2人だが、次の番人とどうやって戦うのかということで頭を悩ませる。岩巨人(トロル)の体は岩でできているので通常の武器では歯が立たず、魔法も通常の攻撃では表面の岩を削るだけに終わるからだ。しかも、魔核と呼ばれる心臓部を破壊しない限りいくらでも周囲の岩を吸収して再生する厄介な能力もある。


 祥吾の場合はクリュスに魔法をかけてもらって対抗することになるが、番人の部屋には複数の岩巨人(トロル)が待ち構えているため、クリュスも何らかの対策が必要だ。そこで、クリュスは守護人形(ガーディアンドール)を使うことになった。


 休憩が終わると、クリュスはリュックサックから取り出した4つの人形を床に並べる。次いで呪文を唱えて人形を起動させた。


 成人男性くらいまで大きくなった人形が並ぶ横でクリュスは祥吾に近づく。そうして魔法で体を強化し、槍斧(ハルバード)にも風属性の魔法を付与した。


 刃の周囲が白くうねるようにぼんやりと淡く輝くのを見た祥吾がクリュスに顔を向ける。


「1体は引き受けるから、もう1体はそっちで頼む」


「任せて、人形たちが岩巨人(トロル)を倒すまで頑張って」


「いや、俺も自分で倒すつもりなんだが」


「今日はあんまり時間をかけていられないから速度優先よ」


「そっちは神々の戦士が4体もいるしなぁ」


 1体1体が自分よりも強い人形を見ながら祥吾が肩を落とした。さすがに神話の存在にはかなわない。しかし、それでも自分で倒すつもりでいる。自分の相手は自分で倒すのが前衛としての矜持なのだ。


 用意ができると2人は扉の前に立った。祥吾が取っ手を握って扉を開ける。高さ約20メートル、縦横約40メートルの大部屋が目の前に現われた。しかも周辺には大小の岩が無造作に転がっている。


 その奥に、人間の2倍以上の体格がある巨漢で全身が岩でできている岩巨人(トロル)が並んで立っていた。頭と手足があるので一応人の形をしているが、大小の岩が無理矢理くっつけられているような見た目なので人間の姿とは呼びにくい。


 そんな魔物がいる場所に祥吾は足を踏み入れた。右側の固体へと近づく。続いて人形が左側へと向かった。その後からクリュスが、その足元にはいつの間にか戻って来ていたタッルスが大部屋に入る。


戦いが始まると岩巨人(トロル)が動き出した。一方が祥吾に、もう一方が4体の人形に向かってゆく。その動きはやや緩慢だ。


 正面から近づいて来る固体に対して祥吾は同じように真っ向から突っ込んで行った。相手は腕を振り子のように振り回してきたので、その右腕に槍斧(ハルバード)を合わせる。下から振り上げられた岩の腕にぼんやりと淡く輝く斧の刃が触れた。次の瞬間、きれいに切断する。


「うぉ!」


 攻撃はうまくいったが、切り裂かれた腕の端、人間の前腕部分の半ばから先が慣性の法則に従って祥吾に飛んできた。幸い緩やかだったので避けることはできたが、1回でもぶつかるとただでは済まない。


 これで右腕が半ばから切断できたわけだが、岩巨人(トロル)の本領はここからだ。切断面を近くの岩にくっつけるとその岩が離れずに持ち上がる。そして、新たな腕として機能するようになったのだ。


 その様子を見た祥吾が舌打ちする。


「くそ、これだからこいつは!」


 悪態をついても状況は変わらなかった。祥吾は次の攻撃に移る。


 再び五体満足となった岩巨人(トロル)は容赦なく祥吾に襲いかかった。右腕が駄目なら左腕とばかりに今度は祥吾の右上半身を横から殴りつけてくる。


 いわゆるボクシングのフックのような形の攻撃を祥吾はしゃがんで躱した。目の前には踏ん張っている右脚がある。ここだと言わんばかりに祥吾は槍斧(ハルバード)を左から右へと横薙ぎに払おうとした。これで右脚を膝下から切断できると確信する。


 ところが、同時に相手も反応していた。まだ左腕を振り抜いていない状態にもかかわらず、右腕をアッパーとフックの中間のような形で振ってくる。しかも途中から先程接続した岩を切断面から切り離して祥吾めがけて投げつけてきた。


 人間には絶対にできない方法で反撃されたことに祥吾は目を見開く。槍斧(ハルバード)を振り抜こうとしている都合上、自由には動けない。そのため、攻撃はそのままに体を左へと倒す。それでぎりぎり飛んできた岩は避けられたが、斧の刃は相手の右膝に中途半端に当たった。更に槍斧(ハルバード)の先から突き出た穂先が右膝の側面に当たり、中途半端な振り抜き方となる。


 床で一回転した祥吾はすぐに立ち上がり、すぐさま前に出た。再生前に更に削る必要がある。岩巨人(トロル)がきれいな切断面を見せる右腕をバックブローのような形で振り抜いてきたので地べたに這って避け、再び立ち上がって肩当たりから切断した。次いでうまく動けないでいるのを利用して中途半端傷付けた右膝を完全に叩き切る。この一連の攻撃により、右の手足を失った固体は仰向けに倒れた。ここが攻め時と心得ている祥吾は相手の体に飛び乗って左腕も切断する。


 ほぼだるま状態になった岩巨人(トロル)は手当たり次第に近くの岩を自分の体にくっつけようとした。その努力は切断された手足の断面に岩が付きかけるという形で実りかける。


 しかし、それよりも早く祥吾は岩巨人(トロル)の魔核めがけて槍斧(ハルバード)を突き刺した。位置は事前に調べてあるので迷うことなく胸の辺りを抉る。直後、体を構成していた岩がわずかに震えてからばらばらになった。


 ようやく戦いが終わったことで体の力を抜いた祥吾は振り向く。視線の先にはクリュスと4体の人形がいた。あちらも戦いが終わっていたらしい。


 もはや番人はいないことを知った祥吾がクリュスに近づく。


「やっぱりそっちも終わっていたんだな。俺の戦いを見ていたのか」


「ええ。人形を遣わすまでもなかったようね」


「時間がなかったんじゃなかったのか?」


「大して時間はかかっていないわよ。さすがじゃない」


「にゃぁ」


 2人で話をしているとタッルスが声を上げた。何と言っているのかわからないが、祥吾はしゃがんで頭を撫でてやる。


「祥吾、やることをやってしまいましょう。ドロップアイテムを拾うわよ」


「それは良いんだが、あるのは魔石と、魔石? どっちも大きいな」


岩巨人(トロル)のドロップアイテムは魔石なの。しかも普通より大きいものが2つ」


「下手なものが出てくるよりはましだが、他に用意できなかったのかな」


「大きな岩とか、石みたいな心臓が出てきても逆に困るわよ」


「それはそうなんだが。これは、結構重いな。背負うとずしりとくる。クリュス、背負っても平気か?」


「一応はね。それじゃ、先に進みましょう」


 ドロップアイテムを拾った2人は大部屋の奥にある扉へと近寄った。祥吾が明けると階下に続く階段がある。すっかり慣れた場所とばかりに迷いなく入るとそのまま下りて行った。後から黒猫もついて来る。


 階段を降りきった2人は地下26層に立った。周囲の風景は今までと同じだ。


 一通り見た祥吾がクリュスに顔を向ける。


「やっとここまで来たな。あと5階層かぁ」


「まだ気を抜くのは早いけれど、少し感慨深いわよね」


「仮眠できる部屋に行こう。良い感じの所はどの辺にあるんだ?」


「すぐ近くにあるわ。あっちよ」


 指し示された方向を見た祥吾はうなずくとそちらへと歩き始めた。罠がないか周囲を警戒しつつゆっくりと進む。5分もしないうちに目的の小部屋に着いた。その中も怪しい仕掛けがないか確認する。


「何もなさそうだな。よし、良いぞ、クリュス」


「ありがとう。少し食べてから寝るわ」


「そうしたらいい。なら、俺も食べようかな」


 小部屋の奥で2人並んで床に座り、リュックサックから携行食を取り出した。包装紙を取り出して食べ始める。


「あと1日弱か。まだ日曜日なんだよな、今」


「時間の感覚は当てにならないわね。私なんかは小刻みに仮眠をしているから特に」


「これが終わったら12月、しかも期末試験ときたもんだ」


「普段から勉強しているのだから平気でしょう?」


「備えあれば憂いなしとは言うけれどな、不安になるもんなんだよ」


「そのために私がいるんじゃない。今度も充分点数を稼がせてあげるわよ」


「ぜひ頼むよ。最後はやっぱりできる奴の後ろ盾がほしいからな」


 それきり2人は黙々と食事を続けた。あまりしゃべりすぎて仮眠の時間を削るのは良くない。


 食べ終わったクリュスは今までついて来ていた人形4体を停止させた。手のひらサイズの人形に戻るとリュックサックに入れる。


「それじゃ、おやすみなさい、祥吾」


 祥吾に声をかけたクリュスがリュックサックを枕に体を横にした。目をつむると寝息を立てる。その横に近寄ってきたタッルスが丸まると寝そべった。

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