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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第7章 高校生活に慣れてきた頃

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本番の攻略─新宿ダンジョン─(2)

 重ねてきた知見のおかげで新宿ダンジョンを順調に進んでいた祥吾とクリュスは地下21層を踏破した。ここから先は探索者協会で得た情報でしか知らない階層である。それなりに緊張しながら階下へと降りた。


 そうして先へ進もうとした2人だったが、階段を降りた先に6人組の探索者パーティがいるのを目にする。普通ならそのまま素通りするところだが、戸惑っていた探索者の1人に声をかけられて立ち止まった。何事かと思いつつ男の話を聞くと、2人はそのパーティが悪性転移バッドトランスポーテーションさせられたのだと気付く。


 他人の事例に直接2度も遭遇したことに祥吾は渋い表情を顔に浮かべた。しかも、自分たちが普段活動している階層よりもはるかに下へと飛ばされたと知って頭を抱える。


 最下層に向かう2人の時間は限られていた。ここでこの6人組を地上まで送ることはできない。ただ、ここへ放っておくのも危険である。


「一旦こっちの相方と相談させてくれないか?」


「ああ、わかった」


「クリュス、こっちに来てくれ」


 6人組から距離を取った祥吾がクリュスへと向き合った。ちらりと遠方の相手を見てから口を開く。


「俺たちは今、最下層を目指している最中だ。時間もいくらか余裕があるとはいえ、あいつらを地上まで送り届ける時間はない」


「その認識で合っているわ。ただ、あの人たちを放っておくこともできないのよね?」


「まぁそうだな。見た感じ、悪い奴らじゃなさそうだし。そこでだ、あの6人を地下21層だけ送ってやるのはどうだろう?」


「1階層だけ? それでどうするの?」


「地下20層の番人に挑む前に順番待ちをしただろう。つまり、この辺りで活動しているパーティがいるということだ。だから、その連中が帰るときに必ず通る場所、地下20層へ上がる階段で待ち構えて地上まで同行することを頼んでもらうんだ」


「1階層の往復なら4時間あればできるわね」


「これなら俺たちでもやってやれるだろう?」


「その案だったら良いわ。仮眠の時間が遅れるのは嫌だけれどね」


 賛意を示したクリュスを見た祥吾が肩の力を抜いた。これで自分たちの側の意見を統一できたので6人組の元へと戻る。


 つい今し方考えた案を祥吾は6人の探索者に伝えた。救助案としては途中で投げっぱなしになってしまうので褒められたものではないが、自分たちの都合と折り合いをつけた結果だと説明する。同時に、今の自分たちにはこれ以上のことはできないこともだ。


 祥吾の話を聞いた相手の探索者は微妙な表情をしつつも口を開く。


「なるほどな。ここでじっとしてるよりかは生き残れるのは間違いなさそうだ」


「悪いな、俺たちが帰りだったら最後まで送ってやれたんだが」


「仕方ないさ。それに、何パーティかに頼めば誰かが応じてくれるだろう」


「あんたらは地下15層までで活動していたんだったな。それなら、そこまで送ってほしいと距離を限定したら応じてもらいやすくなるかもしれないぞ」


「それはいい考えだな。よし、頼むときはそう言うよ」


 話がまとまると、祥吾とクリュスは6人の探索者を率いて階段を登った。そこから地下20層へ上がる階段を目指す。


 つい先程通った最短経路の通路を逆に進むのは難しくなかった。6人に罠の位置を教え、魔物がやって来たら共に戦う。多様な魔物が出てくるとはいえ、狼人間(ワーウルフ)以外は地下15層までに出てきたものと変わらない。そのため、6人でも何とか対応できた。


 そうして約2時間後、ようやく地下20層へ続く階段にたどり着く。祥吾とクリュスはいつも通りだが、6人の探索者たちの顔には疲労の色が浮かんでいた。


 階段の目の前までやって来ると祥吾が振り返る。


「ここまでだ。後は他の探索者パーティに何とか頼み込んでくれ」


「わかった。ありがとう。助かったよ。しかし、この階層でも結構やれるもんだなってわかったのは収獲だな」


「8人で戦っていたからな、いつもより余裕があるのは当然だと思うぞ。6人でもいけそうか?」


「どうだろう。待ってる間に考えてみるよ」


 簡単な雑談を終えた祥吾は6人の脇を抜けて通路を歩き始めた。クリュスが後に続く。


「また振り出しに戻ったな。ここから5階層か」


「マイナスから出発するよりかはましよ。あの人たちなんてまだ身動きが取れないじゃない。悪く考えると際限がないわよ」


「そうだな。まだ時間に余裕はあるんだ。焦らずに行こうか」


 クリュスに励まされた祥吾は頑張って笑顔を顔に浮かべた。大きく息を吐き出すと前に出る。そのまま背後からの指示に従って通路を進んだ。




 その後の祥吾とクリュスは淡々とダンジョンの通路を歩いた。地下21層はもちろん、その下の階層も更にその下も進んでゆく。例え二桁階層であっても延べ何十階層と踏破しているといい加減慣れもした。


 しかし、だからといってより下の階層が上の階層よりも簡単であるわけではない。やはり更に危険なのだ。


 2人は地下24層の最短経路の通路を進んでいた。厄介な罠や面倒な魔物はひとつずつ退けて確実に目的地へと向かっていく。


 そんなあるとき、祥吾は分岐路の奥から足音が響いていることに気付いた。距離は近いと思ったら探索者に出会う。無表情な4人組だ。


 立ち止まった祥吾は尚も黙って近づいて来る4人を見ながら地下20層の番人の部屋で手に入れた槍斧(ハルバード)を構える。


狼人間(ワーウルフ)だ!」


 叫んだ祥吾は最も近い狼人間(ワーウルフ)に迫るとその喉元を切り裂こうとした。変身を解いている最中だったからか、動きが鈍かったその個体は避けられずに血を撒き散らす。


 その間に残る3体は散った。1体は祥吾に残る2体はクリュスへと向かう。人間に化けられるだけあってある程度の知性はあるのか、より弱く見える方をまず突こうとした。


 しかし、クリュスに限って言えばそれは誤りだ。決して弱くはない。女性探索者は左右から迫った2体のうち、1体は火の矢の魔法を撃ち込んで悶絶させ、噛み付き攻撃をしてきたもう1体を横に転がって避ける。そして、攻撃を空振らせた1体に火の玉を撃った。


 苦しみもがく魔物の悲鳴を背後から聞きながら祥吾は正面の狼人間(ワーウルフ)を見据える。まったく諦める様子はなく、飛びかかる隙を窺っているのがはっきりとわかった。


 武器を構えたまま祥吾が前に進み出ると唸りを上げていた固体に飛びかかられる。それに合わせて槍斧(ハルバード)の穂先をその口の中に叩き込んだ。飛び込んできた勢いがそのまま手に伝わるが、それを我慢してその場に踏みとどまる。


 これで勝負は付いた。死んだ狼人間(ワーウルフ)の口から武器を引き抜くと祥吾は振り返る。


「そっちも終わったか」


「ええ。変身能力がなくてもすばしっこくて面倒ね、この魔物」


「そうだな。だからより厄介なんだが」


「これ、人間に化けられるだけというのがまだ救いね」


「どういうことだ?」


「他の魔物に化けられたら調子が狂うでしょう? 例えば、小鬼(ゴブリン)だと思って近づいたら実は狼人間(ワーウルフ)でしたなんてことになったら、普通は後れを取ってしまうじゃない」


「言われてみればそうだな。弱い敵だと思っていたら実は強かった、なんてことになると騙される可能性はたかくなるだろう。俺も危ないかもしれない」


 常に魔物と近距離で戦う前衛である祥吾は顔をしかめた。油断していなくとも、目の前で想定外の相手だとわかったときに対処するのは難しい。気付けても体がついて来ないときもあるからだ。


 ただ、そうはいっても常に疑いながら戦うというのも大変である。いくら常在戦場の心構えでいても緊張感や集中力はずっと維持できない。隙を突かれたらどうしてもやられてしまうものだ。だからこそ、変身系の魔物は嫌われる。


 魔石を拾いながら魔物の感想を述べ合った2人は再び先に進んだ。そうしてようやく地下25層の番人の部屋にたどり着いた。


 その扉の近辺を見た祥吾がつぶやく。


「さすがにここまで来ると順番待ちのパーティはいなくなるのか」


「良かったじゃない。すぐに入れるわよ」


「その気になればな。その前に休憩だ」


 威勢の良い発言をするクリュスを祥吾は扉の横に座らせた。祥吾の疲労は大したことはないが、クリュスはそうではないのだ。近づいて来たタッルスが膝の上に乗る。


「次は岩巨人(トロル)か。あいつ再生するから嫌なんだよな」


「魔核を破壊できればすぐなんですけれどね」


「簡単にできないから厄介なんだよ、あいつは」


「その武器に魔法付与したら相手にできそう?」


「1体は確実にできるが、時間はかかるだろうな。クリュスはどうなんだ?」


「ここからは守護人形(ガーディアンドール)を使いましょうか」


「そうか、それがあったな」


「ちょうど人目もつかないことだしね」


 取り出された手のひらサイズの人形が4つ、クリュスの手のひらにあった。


 それを見た祥吾は安心する。次の番人にも勝てると確信できた。

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