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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第7章 高校生活に慣れてきた頃

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本番の攻略─新宿ダンジョン─(1)

 11月最後の週末になろうかという金曜日夜、、祥吾はダンジョンでの活動準備を済ませて自宅を出た。最寄り駅でクリュスと合流すると電車に乗る。


 人の多い新宿駅で降りた2人は探索者協会新宿支部へと向かった。打ち合わせをしながら人気(ひとけ)の少ない道を進む。たまに新宿支部から離れる人とすれ違った。


 その新宿支部の本部施設へと入ると更衣室で着替え、受付カウンターの順番待ちの行列に並ぶ。昼間と違って待ち時間が短いのは助かった。


 自分たちの番が回ってくるとクリュスが受付嬢に声をかける。


「これから新宿ダンジョンに入るのですが、何か大きな問題はありますか?」


「最近、行方不明になる探索者が増えてきていますので、悪性転移バッドトランスポーテーションには気を付けてください」


「転移の話は少し前から知っていましたが、更にひどくなってきているのですか?」


「そのようです。中にはパーティの一部の方だけが転移してしまうということもあったそうなのでご注意ください」


「何か前兆があるなら教えてください」


「それが、あるとき突然起きるようで、いずれの報告でも前兆はなかったそうなんです」


「特定の場所で起きるなどの情報はありますか?」


「階段が多いようです。特に地下5層までの階段ですね」


 自分たちと幸山の経験を振り返った祥吾には腑に落ちる話だった。どうやら最近はそれが頻繁に起きつつあるらしい。


 不穏な情報を手に入れた祥吾とクリュスは受付カウンターを離れた。ロビーを突っ切って本部施設から出る。


「さすがに3週間も経つと悪化しているよな」


「そうね。巻き込まれると面倒だわ」


「俺たちの場合、階下に転移させられるのは歓迎なんだよな。今回に限って言えば」


「前にも言ったけれど、そう都合良く転移なんてしないわよ。大抵は望まない転移をするんだから」


「地下29層から下に降りた先が地下10層だったらさすがに心が折れそうだな」


「嫌なことを言わないでよ。本当にありそうなんだから」


 眉をひそめたクリュスの顔を見た祥吾が肩をすくめた。しかし、今の2人にとって望まない転移というのはそういった類いなのだ。しゃべっている当人もぞっとする転移である。


 正門を通り抜けると警戒区域に入った。祥吾が再びクリュスに話しかける。


「しかし、予定だと63時間半で最下層まで到達できる計算なんだよな? 俺も一緒に計算したけれど、なんかどこかで計算間違いしているような気がして不安になるなぁ」


「心配しなくても良いわよ。地下20層までは実際の経験に基づいた実測値を使っているし、地下21層以下は余裕のある見積もりをしているんだから」


「地下21層で折り返したときがぎりぎりだったから、どうにも怪しく思えて仕方ないんだよ」


「往復したときは延べ42階層を踏破したのに対して、今回は30階層だからよ」


「ああなるほど、踏破する階層の数自体が違うのか。おお、行けそうな気がしてきた」


 自分の感覚と計画の時間に差があることを気にしていた祥吾はようやく安心した。


 そんな祥吾に対して今度はクリュスから問いかける。


「それより、仮眠の時間は私がすべて眠っても良いのよね」


「構わないぞ。起きている間も座っていたら俺だって休憩になるしな。しかも4時間。暇を潰す方法がなければ寝てしまいそうだ」


「こういうとき、祥吾の能力があると便利よね」


「まぁな。長期戦や消耗戦のときに強いんだよな、俺。知り合いに継戦能力が高いって言われたことがある」


「私もそう思うわ。それで、仮眠は12階層、20階層、25階層を踏破した直後ね」


「確か、できるだけ時間の偏りをなくすためだったよな。クリュスがいけるんだったら、俺はそれで良いぞ」


 魔物を倒せた疲労と寝不足を解消できる祥吾にはともかく、それらが蓄積されるクリュスにとっては移動時間の均質化は重要な事柄だ。確実に最下層へと到達するためにもペース配分には最新の注意を払った。


 新宿ダンジョンの入口に着くと2人は階段を降りる。その途端に周囲の話し声による反響音が大きく響き、耳を叩いた。それは、正面玄関(エントランス)に入っても大して変わらない。


 タブレットを取り出したクリュスが祥吾に声をかけると2人揃って歩き始める。


 いよいよ新宿ダンジョンの最下層への挑戦が始まった。




 階段から少し離れた小部屋に祥吾は座っていた。出入口の近くに座って通路側をぼんやりと眺める。休憩中ではあるが同時に警戒もしないといけないため、暇潰しにスマートフォンを触ることもできない。


 ダンジョンの小部屋に鈍く小さな振動の音が広がる。それはクリュスのどこかから漏れていた。隣で丸まっていたタッルスが顔を上げる。


 次いでクリュスが目を覚ました。スマートフォンを取り出してアラームを止める。それから上半身を起こした。小さくあくびをすると背伸びをする。


「おはよう、祥吾。何かあった?」


「何も。さすがに地下21層だと探索者は見かけなくなるな」


「この階層からは探索者の警戒しないといけないんだったわね」


 リュックサックから取り出したペットボトルの蓋を開けたクリュスがそれを口にした。片手で黒猫を撫でている。


 その様子を見ながら祥吾は自分のスマートフォンを取り出した。画面の時刻を見ると日曜日の午前10時半過ぎだ。ここまで予定通りに進んでいる。何しろ複数回の挑戦で1度以上往来した場所だからだ。


 スマートフォンをしまった祥吾がクリュスに話しかける。


「ここから先は一部例外を除いて未知の領域だな」


「行ったことがない場所なのは確かだけれども、探索者協会の情報があるんだから未知ではないわ。大丈夫、私たちなら行けるわよ。化かされることにさえ気を付けていればね」


「そうだな。さて、そろそろ行くか」


 立ち上がった祥吾は体をほぐすとリュックサックを背負った。クリュスが隣へとやって来ると一緒に小部屋を出る。地図情報に従って2人は最短経路の通路へと戻った。


 地下21層辺りになると頻繁に使われる経路であっても人影を滅多に見なくなる。上の階層とは違ってここまで降りてくることのできる探索者はかなり限られるからだ。そのため、罠や魔物に対してより一層警戒する必要がある。


 ただ、祥吾からするとこれが本来のダンジョン探索だった。周りから人影が絶えず、魔物と遭遇するのにも一苦労し、罠も簡単に回避できる上の層がそもそもおかしいのだ。


 そんな本来の探索に戻った状態で2人は先へと進む。緊張は高まるが知った感覚なので体が強ばることもない。ひとつずつ回避し、排除していった。


 約2時間弱ほどかけて2人は階段までやって来る。下へと続いている階段だ。1度立ち止まってその奥に目を向ける。


「さて、ここからは本当に初めてだな」


「階層の仕掛け自体は今まで大差ないらしいから、このまま行くわよ」


 クリュスの言葉にうなずいた祥吾が先に階段を降り始めた。未踏の領域という緊張と突然の転移という恐怖を抱きながら進んでゆく。そうして地下22層に降り立った。


 同時に6人組の探索者パーティとも出会う。非常に戸惑っている様子だ。基本的には自己責任の世界なので不審に思いつつも脇を通り抜けようとした2人だったが、相手の1人から声をかけられる。


「なぁ、ちょっと尋ねたいことがあるんだが。ここはどこなんだ?」


 質問を聞いた祥吾は嫌そうな顔をして足を止めた。この質問をするという6人の状態がどんなものなのかおおよそ理解する。


「今俺たちが立っている場所は地下22層で、階段を上に登ったら地下21層だよ」


「ええ!? そんなバカな! オレたちは地下11層から階段を降りてきたんだぞ」


「最近増えて来た悪性転移バッドトランスポーテーションで飛ばされたんだろう。そっちのパーティメンバーが6人ならまだ幸運な方らしいな。全員で転移できたんだから」


「そっちも2人しかいないが、もしかしてあんたらも?」


「いや、俺たちは1階層ずつ降りてきたんだ」


「ええ!?」


 祥吾の返答に6人が驚いた。新宿ダンジョンの推奨パーティ人数は4人から6人、特に下の層となると6人で行くよう勧められている。そこを2人でやって来たというのだから相当な腕であることは容易に推測できた。


 頭の中で予想しながら祥吾は話しかけてきた男に問い返す。


「そっちは普段どの辺りで活動しているんだ?」


「地下15階層までの辺りだ。そろそろあそこの番人に挑戦しようと思っていたんだが」


「なるほどなぁ。それだとちょっとこの辺はきついか。クリュス?」


「祥吾、地上までは無理よ」


 難しい顔をするクリュスから短い返事を受けた祥吾が渋い表情を浮かべた。最下層まで行く目的がある以上、最後まで面倒を見ることはできない。幸山のときは幸運だったのだ。


 この6人をどうにか助けられないものかと悩む祥吾は頭を抱えた。

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