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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第7章 高校生活に慣れてきた頃

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撮影の補助のお仕事

 週末の土曜日、祥吾はいつも通り目覚めた。しかし、日課の筋力トレーニングはせず、朝食を食べて外出の準備を済ませる。いくらか時間を潰した後、祥吾は家を出た。


 最寄り駅でクリュスと合流すると電車に乗って新宿駅へと向かう。通気時間帯ではあるが土曜日なのでまだ人の数はましだ。新宿駅はそれでもまだ多いが。


 探索者協会新宿支部へとたどり着いた2人は本部施設へと入る。この時点で朝の8時過ぎだ。相手との集合時間はまだ先なのでかなり余裕があった。


 ロビーを突っ切った2人は廊下を歩いて更衣室へと別れて入る。いつも通り着替えると祥吾が先に出てクリュスに電話で連絡を入れた。


 女性更衣室から姿を現したクリュスが祥吾に声をかける。


「お待たせ。受付カウンターに行きましょう」


「事態が悪化してなければ良いんだけれどな」


 前回の時点で受付嬢から警告を受けていたので、祥吾としてはどのように変化しているのか気になるところであった。ダンジョンの核の問題を知っているだけに良くなる可能性がないことも理解しているため頭が痛い。


 2人で連れ立って受付カウンターに向かうと順番待ちの行列に並ぶ。土曜日の朝だけあって人が多い。かなり余裕をもってやって来たが集合時間に間に合うのか不安になる。


 どうにか集合時間5分前になってやっと自分たちの番が回ってきた。クリュスが必要な話を手早く進めていく。悪性転移バッドトランスポーテーションは起きているがまだ頻度は低いらしい。


 知りたいことを聞けた2人はすぐに受付カウンターから離れた。それからロビーを見渡して合流相手を見つける。足早に近づいた。


 相手側では幸山が最初に2人を見つけて声をかける。


「クリュスさん、おはよう!」


「おはよう、千紗さん。間に合って良かったわ。富村さん、おはようございます」


「時間ぴったりですね。いやぁ、良かったですよ」


「受付カウンターでダンジョンの情報を聞いていたんです」


「必要な情報は『エクスプローラーズ』に載ってるんじゃないんですか?」


「そこで公表する前の微妙な情報を教えてもらっていたんですよ」


「なるほど。それで、何かありましたか?」


「最近、新宿ダンジョン内で行方不明になったり転移したりする探索者がいるという話を聞きました。頻度は低いということなので神経質になる必要はありませんが、頭の片隅に入れておいてください」


「あれがまた起きるかもしれないんですか」


 明るく挨拶してきた富村がクリュスの言葉を聞いて表情を曇らせた。


 脇でその様子を見ていた祥吾はそうだろうなと思う。前回のでさえ問題になったであろうに、また同じことが起きれば間違いなく責任問題となるはずだ。そうなったらもう今の仕事もしていられないはずなので、顔を歪ませるのも当然だと考える。


 ただ、そうは言っても来た以上は仕事をしなければならない。祥吾とクリュスは番組制作会社の撮影スタッフも含めて挨拶をすると仕事の話を切り出した。


 富村の話によると、今回の撮影は前回の続きとのことだ。正確には前回撮影できなかった部分を今回撮るとのことである。ロビー、正門、入口、正面玄関、地下1層は前回の撮影分がそのまま使えるので、残るはは地下2層のみだ。


 スタッフも含めて全員で7人という人数で祥吾たちは新宿ダンジョンへと向かった。周囲の探索者たちに混じって正門を抜けて警戒区域へと入る。


「富山さん、たまに周りから見られていますね」


「撮影機材を持ちながらですからね。ここじゃやっぱり目立つんですよ」


 祥吾は周囲の視線をいくつか捉えながら富村に尋ねた。返答を聞いて自分も周りにいたら見てしまうよなと思ってしまう。


「それにしても、スタッフさんも含めて全員が探索者登録しているとは思いませんでした」


「仕事柄、ダンジョンの中に入りますからね。登録しておかないといけないんですよ。そうでないと作業のときに色々と動きづらいですから」


「幸山さんから自分の探索者としての腕はお察しだときいていますが、皆さんは?」


「ははは、同じですよ。だから護衛の探索者を雇うんです」


 朗らかに笑う富村を見て祥吾はうなずいた。富山とスタッフは武具を身につけているが使った形跡が見られない。なので、富村の言葉はそのまま受け取るべきだと判断する。


 ダンジョンの入口から階段を降りて正面玄関(エントランス)に入ると一旦立ち止まった。そして、富村がクリュスに話しかける。


「今日の撮影は地下1層にある階段から始めますので、まずはそこに向かいましょう」


「わかりました。経路はこちらからお伝えします」


 タブレットを取り出したクリュスが祥吾をはじめ、全員に指示を出し始めた。それに沿って最短経路の通路を進んでゆく。


 騒がしい通路を約1時間進むと階段近辺にたどり着いた。朝の10時ともなるとこの辺りはすっかり人が多い。もうすっかり渋滞していた。


 人の流れから一旦離れた一行は階段近辺の渋滞をよそに撮影準備に入る。とはいっても、少人数ということもあって大して手間はかからない。富村の指示で幸山とスタッフが動く。


「それじゃ、始めようか。3,2,1」


「はい、ここは新宿ダンジョン地下1層の奥にある、下の階層に続く階段近くです」


 もっと色々と準備するものだと思っていた祥吾はあっさりと撮影に入ったことに驚いた。後に富村に聞いたところ、少人数で動くときはこんなものだという。


 10分もしない撮影はあっさりと終わった。スタッフは手早く移動の準備を進める。


「これ、俺とクリュスはいらなさそうですよね」


「いやいや、転移以外でもやっぱり守ってもらわないといけないときがありますからね」


「魔物以外にも?」


「ちょっと困った人に絡まれることがあるんで」


 ぼかした言い方をした富村の言いたいことを祥吾は察した。類似のことなら祥吾とクリュスも何度か経験している。そういうことなら確かに必要だと思った。そうなると、専門の探索者が付いていると示すこと自体に意味があることにも気付く。高校生にそんなことを頼んでも良いのかという問題はあるが。


 階段の渋滞を乗り越えた一行は地下2層に降りた。そこからは最短経路ではなく、人の少ない場所へと移動する。


「クリュスさん、祥吾さん、小鬼(ゴブリン)1匹を幸山に誘導してくれませんか。戦ってるところを撮りたいんで」


「腕はお察しだと聞いていますが、大丈夫なんですか?」


「大丈夫よ! かなり不格好だけど!」


「だそうです。前にもやったことがあるんで」


 富山からお願いされるとクリュスが不安点を問いかけるが、当人とプロデューサーが大丈夫との返事をしてきた。以後、祥吾を先頭に一行は歩く。


 それから歩き続けるが魔物はなかなか姿を現さない。この辺りだと数多くの探索者が既に討伐してしまっているからだ。かえって探索者パーティとの遭遇回数の方が多い。


 あとどのくらいで魔物と遭えるのかと祥吾が考えていると、3匹の小鬼(ゴブリン)がようやく現われた。錆びたナイフ、折れた剣、木の棒を持った3匹が一斉に襲いかかってくる。


 錆びたナイフと折れた剣を持った個体に近づいた祥吾はあっさりとその2匹を倒した。そうして木の棒を持った1匹を蹴り倒すと小走りで皆の元に戻る。


「あれで良いですか?」


「充分です。千紗ちゃん」


「はい! それでは、わたし、幸山千紗が今から小鬼(ゴブリン)を倒します!」


 カメラの前で早口の宣言をした幸山が振り向いて木の棒を持った個体へと近づいた。そうして戦いが始まる。


 それは、祥吾やクリュスからすると迷勝負といった様子の戦いだった。不格好でへっぴり腰の幸山と攻撃的だが武器の威力不足の小鬼(ゴブリン)が延々と似たような戦い方を演じる。


 後でこれを編集すると2人は聞いているが、今は目の前で起きていることをじっと見続けるしかないのでひたすら待つしかない。滅多に見ることのない勝負なので新鮮ではあったが。


 そんな勝負もついに終わりを告げた。木の枝が折れて武器がなくなった小鬼(ゴブリン)に対して幸山が積極的に攻撃をしかけ、ようやく倒したのだ。


 その直後、幸山は飛び跳ねて喜ぶ。


「やったー! 倒しましたー!」


 戦闘の撮影は終わった。後はその前後に挟む場面の撮影をいくつかして次へと移る。


 こういった撮影をその後半日かけて何度か繰り返した。そうして望む映像がすべて撮れた時点で撮影終了となる。


 その後、一行は渋滞に巻き込まれながらも地上へと戻った。正門を通り抜けて新宿支部の本部施設へと入る。


「お疲れ様でした。本日はありがとうございます。本当に助かりました」


「いいえ、こちらはほとんど何もしていませんでしたから」


 丁寧に礼を述べる富村にクリュスも丁寧に返した。今後もできれば引き受けてほしいとさらりと頼まれるが、そこはやんわりと断る。


 そうして2人は着替えるためにロビーを離れた。

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