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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第7章 高校生活に慣れてきた頃

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日常のあちこちに転がる話

 11月も後半になってくるとさすがに涼しくなってくる。昔は晩秋という時期でいよいよ冬になろうかという気候だったそうだが、近年はそこまで寒くない。異常に暑い夏に比べると随分と涼しくなったものの、冬を感じさせる気候ではなかった。


 そんな朝、祥吾はいつも通りクリュスと合流して学校へと向かう。最近は向かい風が少し冷たく感じられるようになった。


 ペダルを漕ぐ脚の力を緩めた祥吾がクリュスへと目を向ける。


「これから先はしばらく学校の行事がないから楽で良いよな」


「イベントを楽しみにしている人からすると残念でしょうね」


「イベントねぇ。俺は毎週のようにあるから少ない方が良いな」


「あら、祥吾にとってダンジョンでの活動はイベント扱いなの」


「ものの例えだ。あんな死にそうになるイベントなんか普通は行きたくないよ」


「確かにそうね」


「そういえば、幸山さんの件はどうなったんだ? 探索者協会の依頼を受ける形なんだろう。急いだ方が良いんじゃないのか?」


「今日中に発行してもらうそうよ。私たちに指名依頼するという形でね」


「指名依頼か。何か特別な響きがするな」


「実際は、特定の個人に引き受けてほしくて気軽に発行される依頼らしいわよ」


「一般の依頼だと誰が受けるかわからないもんな。ああ、正に俺たち向けに発行されるのがそう言った類いのやつか」


 自転車を進めながら祥吾は納得した。異世界にあった冒険者ギルドの指名依頼よりも更に個人的に使われている点が興味深い。実績を鑑みて信用するのではなく、個人同士の繋がりに対する信頼によって依頼するわけだ。それならば直接頼めば良いだろうという意見も出てくるが、第三者を介する必要がある場合に利用されていることは容易に推測できる。


「今晩には引き受けられるようになっているはずだから、『エクスプローラーズ』を必ず見てよ」


「どうせウェブ小説を読んでいる最中にメッセージが飛んでくるだろうから大丈夫だよ」


「そのウェブ小説ってそんなに面白いの?」


「暇潰しには最高だよ。動画に比べて通信量が圧倒的に少ないのも良いよ」


「電波の状態が悪い所でも読めるということ?」


「スマートフォンのデータ通信量の制限に引っかかりにくいんだ」


「何よそれ。無制限のプランにすれば良いじゃない」


「俺はお金持ちじゃないからな。小遣いの範囲でやり繰りしないといけないんだ」


「ダンジョンのドロップアイテムを換金したお金はどうして使わないのよ?」


「あれは不安定すぎて使えないよ。それに、いつ大きな出費があるかわからないだろう」


 今までの収入と支出を思い返しながら祥吾はクリュスに反論した。実際のところ、クリュスへの借金も返せない状態で安定して一定額を毎月差し引かれる通信代というのは財布に厳しいのだ。攻略優先でドロップアイテムを諦めている場合もある現在の活動の仕方で生活費を賄う気にはなれなかった。


 反論されたクリュスが少しの間口を閉じた後につぶやく。


「収入に関しても真面目に考えるべきかしらね」


「夏休みみたいに別の地域にあるダンジョンへ遠征するのなら、考えるべきだと思う。新宿ダンジョンに行くときの電車代だって費用のひとつなんだからな」


「確かにそうね。個人だからと緩く考えていたけれど、最低でも個人事業主として考えて活動した方が良さそうだわ。来年に向けて少し考えてみるわね」


「え、ああ、うん」


 何やら話が最初とは変わったことに祥吾は少し戸惑った。しかし、同じ活動をするのならば収入が多い方が良いのは確かだ。何か良い案が出てくることに期待する。


 話をしているうちに2人は学校にたどり着いた。正門から校内に入って駐輪場へと向かい、自転車を停める。


 挨拶を交わした2人はその場で別れた。




 チャイムが鳴ると午前中最後の授業が終わった。校内が一斉に騒がしくなる。あちこちで友人としゃべる声や購買に向かう足音などが響いていた。


 祥吾はいつも通り弁当箱を持って友人の座る場所へと向かう。既に祐介、敦、徳秋が弁当の蓋を開けていた。


 3人の近くに座った祥吾は自分も弁当箱を空けた。おかずの箱は茶色が多く、白米の箱は白一色だ。


 4人揃って弁当を食べていると雑談をするようになるのだが、その内容は色々と移り変わってゆく。面白いものからつまらないものまで興味の湧いたものに口を挟んでいくのだ。


 とある話題が一段落した後、徳秋が楽しそうに次の話を敦に振る。


「そういえばさ、最近新宿の辺りでものすごい美人が現われたらしいよ」


「大雑把過ぎて反応しにくいな。誰かが芸能人でも見かけたのか?」


「そうじゃないらしいんだよね。素人なんじゃないかって言われてるんだ」


「写真か動画がないと何とも言えない話だな。またネットでいい加減なネタを拾ってきたんだろう、お前」


「うっ、ネットで拾ったのは確かだけど、いい加減かどうかはわからないじゃないかぁ」


「お前のそう言う話は大抵がガセだから信用できんね」


「そんなぁ」


 話をばっさりと切り捨てられた徳秋が悲しそうな顔をした。抗議するが敦は取り合わない。過去に色々とやらかしているらしい。


 じゃれ合い始めた敦と徳秋の2人を祥吾が見ていると、脇から祐介が話しかけてくる。


「この前、睦美がダンジョンの仕事ばかりさせられる芸人の話があっただろう」


「芸人? 女優志望の芸能人じゃなかったか?」


「あーそれそれ。この前たまたま流れてきたからその芸能人の動画見たんだけど、何て言うか、普通だったな」


「普通? 反応に困る言い方だな」


「いやぁ、正直評価に困るんだよな。特別面白いっていうわけじゃないんだけど、つまらないと言い切る程ひどくもないんだ」


「逆にその評価になるのは難しくないか?」


「オレもそう思う。狙ってやってるんだったらある意味すごい。やる意味はないと思うが」


「何か気になって来たな。何て言う芸能人なんだ?」


「えっと、誰だったかな。あ、あったあった、これ。幸山千紗っていうらしい」


 スマートフォンに表示された動画を見せられた祥吾は移っている女性芸能人を見て微妙な表情を浮かべた。実際に会った人物の評価がとても微妙なせいで何とも言えない気持ちになる。


「反応に困る動画だな。で、この気持ちを共有したいからこの動画を紹介したのか?」


「それもあるんだが、この幸山って芸能人、この前ダンジョンで迷子になったらしいんだ」


「へ、へぇ。そうなのか」


「この話が事実かどうかはオレにはわからんが、実際どう思う?」


「本人に聞かないと何とも言えないな。ただ、ダンジョンで迷子、1人でだよな?」


「そうらしいぞ」


「何人かでパーティを組んで入るのが普通だから、1人で迷子になってそのまま生還というのはちょっと考えにくいんじゃないのか? もし本当だったら相当な幸運だぞ」


 一瞬先日の話かと思った祥吾だったが、祐介が紹介してくれた話は別の動画でしゃべっていたことらしい。つまり、事実だとしてもまた別の話だということだ。


 安易に話されなかったこに祥吾は内心で安堵したが、後日ネットや動画で話されてしまう可能性があることに思い至る。それは2人の都合上よろしくなかった。


 後で本人に口止めしておく必要があると思いつつも弁当を再び食べ始める。すると、その動画の音声を聞いていた敦と徳秋が祐介に顔を向けた。スマートフォン上で一時停止された動画を覗き込む。


「祐介、今の動画は何だ?」


「この前睦美が言ってた、ダンジョンに行かされるかわいそうな芸能人の動画だよ。なぜかダンジョンに行く話にすり替わるってやつ」


「あーあれかぁ。どんなのなんだ? へぇ、微妙だな」


「そうだろ。睦美はこれのどこが面白いと思ったのか気になってな」


「もしかして、かわいそうっていうところが面白いと思ったんじゃないか?」


「なるほど、そうかもしれん」


「でも、結構美人だよねぇ」


 動画を見ていた徳秋がぽつりと漏らした。それを聞いた祐介が敦に目を向ける。


「こいつ、美人を見るとすぐ惚れるんだよ」


「あーなるほど」


「敦、なんてこと言うんだよぉ! 単に感想を言っただけじゃないかぁ」


「お前がそんな態度になるときは大抵惚れたときだろう。確かに程度の差はあるけど」


「そ、そうかな?」


「お前、中学のときの相沢のときも」


「わーちょっと待って! 何でそれを話すんだよぉ!」


「お、面白そうだな。ぜひ聞かせてくれ」


「聞かなくてもいいよぉ、今すぐ忘れてぇ!」


 必死になって話題を止めようとする徳秋が叫んだ。しかし、騒ぐほど周囲の注目を浴びてしまうことにまだ気付いていない。香奈と睦美が興味ありげに寄ってくるのも時間の問題だ。


 そんな様子を祥吾は楽しく見ている。弁当の中身はもう残り少ない。それをかき込んで今日の昼食を終えた。

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