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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第7章 高校生活に慣れてきた頃

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撮影協力のお願いの相談

 遠足があった週の末、祥吾は久しぶりに何もない日を過ごすことになった。中間試験以来、毎週休日は新宿ダンジョンに挑んでいた連続記録が途絶えたのだ。何度も検討と検証を繰り返した結果、後は最下層へと向かうだけになり、次の3連休を待っているのである。


 土曜日は朝起きて日課の筋力トレーニングをこなし、朝食の後に1週間の復習をする。尚、最近はこれができていなかったので丸1日使って片付けた。なんだか損をした気分になった祥吾だが、これをしないと後でつけを支払うことになるのでやらないという選択肢はないのだ。


 受験生でもないのに勉強漬けの1日を過ごした祥吾だが、悪いことばかりではない。夕飯のときに両親と揃って食べるときにこの事実が使えるのだ。


 残り物を処分するという名目で魚や肉など多種多様なフライが食卓に並ぶ前で祥吾が食事に勤しんでいると、父親の健二が白身魚のフライを食べてから声をかけてくる。


「お前、今日はダンジョンに行かなかったんだな」


「そんな毎回行くわけじゃないからな。というか、ここ最近がおかしかったんだ」


「ああ、うん、まぁそうだな。それじゃ、今日は何をしていたんだ?」


「学校の授業の復習だよ。しばらくできていなかったから、今日は朝からやっていたんだ」


「おおそれは。1日中やっていたのか」


「うん。でも、まだ全部終わっていないから、この後もやるつもりだよ」


「そうか。何事も根を詰めすぎないようにな」


「わかった」


 牛肉、豚肉、鶏肉のフライを次々と食べながら祥吾はうなずいた。事実を並べるだけで親が納得してくれるのだから実に楽なものだ。


 その後も豊富な種類の肉を食べていると次いで母親の春子に話しかけられる。


「最近、クリュスちゃんは来ないわねぇ」


「あいつはあいつで何かやっているんだろう」


「お母さん寂しいわぁ」


「そんなことを言われてもな。俺は毎日会っているから特にそう思わないし」


「次はいつ来るかわかる?」


「えぇ、そんなの本人に聞いてみないとわからないよ。いつ来るんだろうな」


 食べるのを止めずに祥吾は首を傾げた。今までクリュスが自分の都合でやって来るのに任せていたので、実のところそのときにならないとやって来る理由がわからないことが多い。事前に約束するときもクリュス側からの申し出なのだ。そういえば、自分で家に誘ったことがほとんどないことを今になって思い出す。


 本当に寂しそうな顔をする母親を見てどうしたものかと困る祥吾だったが、クリュスを呼ぶ理由が自分にほとんどないことに気付いた。大抵は勉強かダンジョンかである。


「次の期末試験前にも来てもらうつもりだから、それまで待つしかないんじゃないかな」


「まだ1ヵ月くらいもあるのよね。残念だわ。前はよく来てくれたのに」


 ため息をつく母親を見た祥吾はいつの話だと思った。実のところ自分でもよく思い出せない。毎日朝の通学で会っている他、週末にダンジョンでの活動を一緒にしているせいで四六時中一緒だという感覚が強いのだ。祥吾にとっては自宅に呼ぶかどうかは些細な問題なのだった。


 そのうち理由を見つけてクリュスに自宅へ来てもらおうと思っていた祥吾だったが、その必要は翌日に早くもなくなる。


 日曜日の朝、来週の予習が一段落したところで祥吾のスマートフォンが鳴った。手に取って画面を見るとクリュスからだ。通話状態にして耳を当てる。


『おはよう、祥吾。休暇を楽しんでいるかしら』


「勉強漬けという意味でなら満喫しているよ。昨日は丸1日復習していたんだ」


『すばらしいわ。これで期末試験も安心ね』


「そうだと良いな。それで、何か用があるのか?」


『実を言うと、用があるのは私ではないのよね』


「クリュスじゃない? 他の誰かということか」


『幸山千紗という人を覚えているかしら。前にダンジョンで助けた女の人よ』


「あーそんな人もいたなぁ。たしか芸能人だったか」


『あの人から護衛のお願いをされたの』


「護衛のお願い?」


 思わず聞き直した祥吾が怪訝な表情を浮かべた。懐かしい響きのする言葉を久しぶりに聞く。異世界で冒険者として活動していたとき以来だ。


 一呼吸小さく深呼吸してから改めて返答する。


「高校生に大人がそんなことを頼むのか? 向こうには一応教えたはずだろう」


『どうも切羽詰まっているみたいなの。他に頼める人がいないだとか』


「本当に追い詰められているみたいだな。うーん」


 詳しい事情を聞く前に祥吾は黙った。普通なら断るべき話だが、クリュスが連絡をしてきたということは引き受けるつもりか迷っているかのどちらかだ。何にせよ、長い話になる可能性が高い。


 そこで祥吾は別の提案をする。


「クリュス、この話、俺の部屋でしないか? 長くなりそうな感じだから」


『良いわよ。でも珍しいわね。祥吾から誘ってくるなんて』


「母さんがたまにはクリュスの顔が見たいって昨日の晩ご飯のときに言われたんだ」


『まぁ、それは光栄なことね』


「光栄かどうかは知らないが、そう言う理由で来てもらいたいんだ」


『だったら、今日はお昼をいただくことにしましょう』


「わかった。伝えておく」


 通話を切った祥吾はため息をついた。なぜこんなに疲れているのか自分でも不思議だ。


 ともかく、椅子から立ち上がった祥吾は自室を出た。




 電話を切ってから約20分、祥吾は室内で寝転んでスマートフォンを操作していた。ウェブ小説を読んでいるのだ。母親には既にクリュスがやって来ることを伝えてある。先程階下で話したときにとても嬉しそうな顔をしていたのが印象的だった。


 そろそろやって来るかなと祥吾が待ち構えていると階下の玄関で母親が来訪者を迎えていることに気付く。その声はいつもよりも嬉しそうだ。


 普段よりも長めに話をしている2人だったが、そのうちその会話も途切れた。すると、階段を上がる静かな足音がしてから扉をノックする音が響く。


「開いているぞ」


「お邪魔するわ。本当におば様は嬉しそうだったわね。毎日来た方が良いのかしら」


「さすがに毎日は勘弁してくれ。食費が大変なことになる」


「祥吾のものに比べたら大したことじゃないでしょう」


「いやまぁそうなんだが」


 しゃべりながら起き上がった祥吾は部屋の隅から座布団を取り出して自室の真ん中に置いた。クリュスがそれに座るのを横目に自分は椅子に座る。


「クリュス、さっき電話で聞いた幸山さんからの話なんだが、そもそもどうやって連絡してきたんだ?」


「『エクスプローラーズ』の機能を使ったのよ。相手の名前を検索してメッセージを送れるでしょう」


「そんなのあったな」


「あれで最初に連絡があって、どうしてもということで電話番号を教えて相談を受けたのよ」


「なるほど、連絡できた理由はわかった。それで、幸山さんの事情はどうなっているんだ?」


 ここからクリュスの説明が始まった。


 幸山千紗は売り出し中の芸能人で、現在は探索者協会から依頼された月1回のダンジョン動画に出演している。先日新宿ダンジョンの撮影を始めた直後に悪性転移バッドトランスポーテーションに巻き込まれて撮影中止になってしまった。


 後日撮影をやり直しになったのだが、この騒動でそれまで契約していた探索者パーティに危険だということで仕事を辞退されてしまう。更に信頼できる他の探索者は都合が付かず、信用できない探索者には頼めない。そこで、最後に頼めそうな人物としてクリュスに相談したという。


「こういう事情だそうよ」


「何て言うか、本当に追い詰められている感じがするな。でも、信頼できない探索者には頼めないのに、どうして俺たちには頼めるんだ? 1回会っただけだぞ」


「同性の私がいるというのが大きいらしいわ。探索者は大半が男性ばかりでしょう。だから、女性の探索者というだけで同性からすると評価が高くなるのよ」


「つまり、俺はおまけってわだ。でも、高校生に頼むのはいいのか? 道徳や面子を抜きにしても」


「探索者ならば年齢は問わないそうよ。契約は探索者協会を通してするそうだから、法的にも問題ないみたいね」


「ああ、正式な仕事になるのか」


「1回限りのね」


「いつ、どこで仕事をするんだ?」


「1週間後、新宿ダンジョンの地下2層だって聞いているわ」


「護衛なんていらなさそうな場所だな」


「それは私たちだからそう思えるのよ」


「クリュスは引き受けても構わないと思っているのか?」


「気は進まないけれど、千紗さんのことは断るほど嫌いというわけでもないのよね」


「1回くらいだったら良いかというところか」


「そんなところよ」


 求められているのがクリュスで、当の本人が構わないというのならば祥吾も否やはなかった。幸い、来週末に予定はない。またダンジョンで潰れるのかという思いはあるが。


 少し間を空けた後、祥吾は承知した。

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