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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第7章 高校生活に慣れてきた頃

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3連休でないとできないこと(後)

 ダンジョンの小部屋に鈍く小さな振動の音が広がる。それはクリュスのどこかから漏れていた。丸まっていたタッルスが顔を上げる。


 次いでクリュスが目を覚ました。スマートフォンを取り出してアラームを止める。それから上半身を起こした。小さくあくびをすると背伸びをする。


「おはよう。よく眠れたわ」


「それは良かった。近くを人が通り過ぎる程度で平和なものだったよ」


「少し食べたら、行きましょう」


 枕代わりにしていたリュックサックから携行食を取り出したクリュスが包装紙を破って小さく齧り付いた。黒猫がそれをじっと見つめている。


「クリュス、確認だが、今からこの階層の最短経路をたどって下に降りる階段まで行く。今回はここまでで、その後はひたすら地上を目指して登り続けるということで良いな」


「その通りね。今のところは予定通りに進んでいるから、このまま行きましょう」


「今は日曜日の午前10時半過ぎだから、正午過ぎに着けば予定通りなわけだ」


「ここまで来たんですもの。最後まで予定通りに進みましょう」


 携行食を食べ終わったクリュスが立ち上がった。リュックサックを背負う。それに合わせて祥吾も立ち上がってリュックサックを背負った。


 2人とも準備を整えると小部屋を出る。タッルスがそれに続いた。


 探索者協会で共有されている情報によると、新宿ダンジョンの地下21層以下は地下20層以上の二桁階層とそれほど変わらないという。設置されている罠に多少の違いはあるものの、ダンジョンとしての構造は基本的に同じらしい。それはこの階層以下で活動している探索者が公開する資料でも同じことが記述されている。


 では、難易度も大きな差がないのかというとそうではない。やはり地下21層以下はそれより上の階層よりも探索は困難である。一体何がそうさせているのか。


 最短経路の通路へと戻った祥吾とクリュスは先へと進んだ。罠に関しては地図情報に記載してある通りなのでそれを元に実際の位置を確認し、回避していく。魔物は小鬼(ゴブリン)犬鬼(コボルト)豚鬼(オーク)大鬼(オーガ)が混成でやって来るのが面倒だ。常に10匹前後で現われるので数で圧倒されないように立ち回る。もちろん、たまに罠を利用して魔物を陥れ、数を減らすことも忘れない。


 苦労はするが、今までとやることは変わらないので2人とも対応できていた。こうして1歩ずつ階下に続く階段へと近づいてゆく。


 そんなあるとき、2人は通路の奥から探索者が自分たちに向かって歩いてくるのを目にした。4人組の男たちだ。ある程度近づくとよく見えるようになったが、全員の表情がない。緊張しているあるいは強ばるというのではなく、無表情なのだ。それでいてじっと自分たちへと目を向けている。


 近づくために歩いていた祥吾だったが、途中で足を止めた。何かおかしいと感じ取ったのだ。背後に振り返って少し離れた場所を歩くクリュスに止まれという合図をする。それでクリュスは立ち止まったが、なぜかタッルスは祥吾の足元までやって来た。


「タッルス、クリュスの所へ戻るんだ」


「にゃぁ」


 再び言いつけた祥吾だったが、黒猫は珍しく言うことを聞かなかった。どうしたものかとわずかに悩んだものの、相手が近づいて来たので諦める。改めて体ごと向き直った。


 目測で20メートル先まで近づいて来られたとき、祥吾は自分から声をかける。


「あんたら、下の階層から来たのか?」


「来タ」


「にゃぁ」


「下に続く階段からここまでどのくらいの時間がかかったか教えてくれないか?」


「にゃぁ」


「ちょっとそこで止まってくれないか?」


「にゃぁ」


 何か色々とおかしいと祥吾は感じた。最初の質問にこそ返答があったが他は無視だ。友好的であれ敵対的であれ、普通はこういう対応にはならない。しかも、止まれという要望も無表情で無視をしてくる。更におかしいのはタッルスだ。普段は絶対にしない事ばかりを今回に限ってやり続ける。会話に割って入ってくるなど初めてだ。


 こうなるともう確信めいたものが胸の内に固まる。事前に読んだ資料にあった事例のひとつにもあった。


 彼我の距離が5メートルを切ったとき、祥吾は槍斧(ハルバード)を構えて叫ぶ。


「クリュス!」


 次の瞬間、相手の探索者4人が大きく動こうとして3人が動けなかった。飛びかかるために膝を沈めた状態で固まる。クリュスの魔法による拘束だ。


 しかし、1人はそれに抵抗できたようで、膝を沈めると同時に容姿が大きく変化した。全身体毛に包まれ、手足は5本指の先に鋭い爪を伸ばし、顔と足は獣そのものである。それが2本脚の力だけで飛びかかってきた。狼人間(ワーウルフ)だ。


 既に武器を持って構えていた祥吾はその穂先で突く。飛び上がって方向転換もできなかったその固体の口を狙った。まるで丸呑みさせるように槍斧(ハルバード)の刃の部分を大きく開けた口の中に突っ込んだ。更にはかき回すように内部を抉る。


 狼人間(ワーウルフ)はろくに悲鳴を上げることすらできずに大量の血を吐いてもがいた。しかし、次第に弱まり、息絶える。


 死体から槍斧(ハルバード)を引き抜いた祥吾は正面の3体へと目を向けた。いずれも身動きでいない状態で、今や人間から二足歩行の狼へとその姿を変化させている。いずれも祥吾に敵意の目を向けて唸っていた。


 近くにやって来たクリュスに祥吾は声をかけられる。


「とどめを刺してちょうだい」


「すぐにやる」


 武器を手に3体の狼人間(ワーウルフ)へと近づいた祥吾はその首元に次々と斧の刃を叩き込んでいった。すべてが死に絶えたのを確認すると大きく息を吐き出す。


「あー驚いた。姿はほとんど見分けがつかなかったな」


「事前に資料を読んでいなかったら、騙されていた可能性があるわね」


「そうだな。知っていたから怪しく思ったが、知らなかったら狼人間(ワーウルフ)だとは思わなかったよ」


「一応言葉は理解して話せるようだけれど、あんまり得意そうではなさそうね」


「簡単な受け答えしかできないんだろう。あれだ、ほとんど使えない外国語で話をするみたいな感じだ」


「言い得て妙ね。ということは、話しかければ大体わかるわけね」


「普通の人間と話をしているように思えなかったからなぁ」


「それにしても、今回はタッルスが大活躍ね」


「にゃぁ」


「そうなんだよ。今までとは全然違うことばかりやったからおかしいと思ったんだ。お前、あれが人間じゃないって気付いていたのか」


「にゃぁ」


 ちょこんと座った黒猫は祥吾を見上げていた。何となくではあるが誇らしげに見える。しゃがんだ祥吾が頭を撫でると目を細めて喉を鳴らした。


 そんな祥吾にクリュスが声をかける。


「祥吾、タッルスを褒めるのは後にしましょう。今は先を急がないと」


「そうだったな。タッルス、後でな」


「にゃぁ」


 黒猫の了解を得た祥吾は再び先頭に立ち、クリュスの指示に従って歩き始めた。罠や魔物、そして探索者も警戒する。


 その後、罠を避け、魔物を撃退しながら2人は通路を進んだ。そうしてついに階下に続く階段に到達する。地下21層を踏破したのだ。


 この時点での時間を知るため、祥吾はスマートフォンを取り出した。画面を見ると日曜日の午後0時半と表示されている。


「予定より30分遅れただけか。この階層で2時間かけたわけだ」


「出発したのが10時半を回っていたから、大体はさっきの狼人間(ワーウルフ)が原因ね。階段から階段までは1時間半で計算しても良いと思うわよ」


「俺もその考えで良いと思う。そうなると、帰りは大体予定通りに進めそうだな」


「仮眠の時間を1時間短縮しましょう。帰りなら多少短くても我慢できるわ」


「ならそうしよう」


 帰りの方針を固めた祥吾とクリュスは階段を降りることなく引き返した。タッルスがそれに続く。


 以後は今まで通った最短経路の通路を引き返した。帰りは番人の部屋で足止めされることなく進めるので幾分か楽だ。そうして1度の仮眠の時間を経て、2人は地上へと帰還する。空は真っ暗だった。


 警戒区域の道を歩くクリュスが祥吾に話しかける。


「終わったわね」


「そうだな。やっとだ。休みを3日間潰した甲斐があった、んだよな?」


「ええ、あったわよ」


「今は、月曜日の午後8時半、はぁ、家に帰って寝るだけか」


「今から何かする?」


「もうそんな気力はないよ。俺は今、疲れているんだ」


「祥吾は疲れないんじゃなかったの?」


「魔物を倒したら元気になるんだ。地下10層以上なんてずっと歩いていただけだろう?」


「なるほど、そうだったわね」


 祥吾の能力(チート)は魔物を倒して初めて発揮する能力なので、倒さない場合は普通の人間と同じように疲れたままだ。これは結構な盲点なので気を付けないといけない。


 ともかく、疲れ切った祥吾とクリュスは新宿支部の本部施設で服を着替えると家路につく。電車の中では一言もしゃべらずに過ごし、最寄り駅の改札口で別れた。

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