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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第7章 高校生活に慣れてきた頃

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3連休でないとできないこと(中)

 地下20層の番人の部屋の前までやって来た祥吾とクリュスは順番待ちを兼ねて休んだ。自分たち以外に誰も見当たらなくなるとクリュスはタッルスをリュックサックから取り出す。


 黒猫を膝の上で寝かせるクリュスを見ていた祥吾はたまに扉の取っ手を握った。間を置いて2度引っぱってみたが動かない。だが、3度目は開く。


「クリュス、中には入れるみたいだぞ」


「わかったわ。タッルス、離れてちょうだい」


 両手で持ち上げたタッルスを床に置いたクリュスが立ち上がった。リュックサックを背負って祥吾へと近づく。そして、鞘から抜かれた剣に魔力付与を、祥吾自身に身体強化をかけた。更には自分自身の体も強化する。次の敵は知っているが甘くないのだ。


 準備ができたことを知った祥吾が扉を開けた。室内は今までの番人の部屋よりも一回り大きく、目測で約40メートル四方ある。その奥に身長3メートルほどの牛の頭をした巨人が2体立っていた。いずれも長柄の戦斧を持っており、それを振り回せるだけの筋肉質な肉体を備えている。牛頭人(ミノタウロス)だ。


 腰蓑ひとつでその裸体を晒している2体は2人を見るなり声を上げる。


「ヴオオオオオオオ!」


 突進してくる牛頭人(ミノタウロス)のうち、祥吾は右側へと向かって走った。クリュスは反対の左側と対するために壁際を移動する。その足元には黒猫がついていた。


 祥吾が意識を目の前の1体に集中する。急速に間が縮まった。先行は相手だ。長柄の戦斧が唸りを上げて右横から叩き込まれてきた。魔法で強化された剣と体ならば受け止めることはできるだろう。しかし、それでは体が硬直して次の一手が出せない。


 反撃を念頭に置いた床にうつ伏せた。直後、頭上を風圧が通り過ぎる。その瞬間、立ち上がって体重を乗せている右膝へと剣を叩き込んだ。もちろん、その一撃で膝下を切断できるなどとは思っていない。ある程度壊したことで良しとし、今度は床を転がって左へと逃れた。そのすぐ後に元いた場所へ長柄の戦斧が垂直に叩き込まれる。


 まったく容赦のない攻撃に顔が引きつる祥吾だったが、それで怯むことはない。転がった先で立ち上がり、剣を横薙ぎに払って相手の右膝の裏へと叩き込む。こういう耐久力のある相手は1箇所を集中して叩くのが効果的だ。


 一旦相手から離れた祥吾は再び近づく。


「ヴオオオオオオオ!」


 雄叫びを上げて長柄の戦斧を自身の右上から叩き込もうとする牛頭人(ミノタウロス)だったが、祥吾はそれを左横へと転がって避けた。すぐに立ち上がると右膝へと3度目の攻撃を仕掛ける。右腕一本で横薙ぎに払われた長柄の戦斧を避けるためにまたもや転がって避けて退いた。


 目を怒らせて迫ろうとする牛頭人(ミノタウロス)だったが、さすがに右膝周辺を集中的に狙われると無事では済まなかったようだ。歩きにくそうに祥吾へと迫る。


 目に見えて効果が現われたことに笑みを浮かべた祥吾だったが、ここで牛頭人(ミノタウロス)は長柄の戦斧を左手中心に持ち替えた。まだ踏ん張りの利く無傷に左脚を軸にするらしい。


 しかし、祥吾の攻撃目標は変わらなかった。あくまでも右膝を狙う。そうして6度目の攻撃でついに切断することに成功した。


「ヴオオオオオオオ!?」


 右膝から下を切断された牛頭人(ミノタウロス)は床に倒れた。しかし、片膝を付いて尚も長柄の戦斧を振り回す。


 こうなると祥吾にとって牛頭人(ミノタウロス)はそこまで脅威ではなくなった。ひたすら背後に回って首筋や長柄の戦斧を振り回す腕を傷付けてやる。やがて、首を半ばまで切断された相手はとうとう床に倒れて動かなくなった。


 目の前の敵を倒した祥吾はクリュスへと目を向ける。あちらは攻撃魔法でひたすら頭を狙い、一瞬視界をさえぎっては別の場所に移動するということを繰り返しているらしい。


 クリュスが相手にしている牛頭人(ミノタウロス)に近づきつつも祥吾は話しかける。


「前の(フロスト)みたいなので動きを封じたらどうなんだ?」


「この個体、動き回ってすぐに範囲から出てしまうのよ! 手伝って!」


 いつになく苦戦している理由を知った祥吾は納得した。足止めが必要らしい。


 加勢のために牛頭人(ミノタウロス)の背後から近づいた祥吾はまたもや脚を集中的に狙った。それに気付いた相手が祥吾に意識を向ける。何発もの魔法を受けた頭部はすっかり焼けただれているので見た目がひどい。これでまだ目が無事なのが不思議に思えた。


 ひたすら脚を狙う祥吾は主敵と見定められたらしく、積極的に長柄の戦斧で攻撃される。それを避けては攻撃を繰り替えた。今度は左膝だ。一撃を受ければ即死もあり得る攻撃を避け続け、的確に左膝を攻めていく。やがて1体目と同様に左膝を壊すことに成功した。


 すると、クリュスから声がかかる。


「下がって!」


 危険を察知した祥吾が退くと、一拍置いて牛頭人(ミノタウロス)の周囲が白く染まり始めた。その周囲一帯に霜が降りてゆく。それほど間を置かずに下半身が凍り付いた。


 こうなるともう勝負は付いたも同然である。


 大声で吼えつつも下半身を凍り付かせている霜を振りほどこうとする牛頭人(ミノタウロス)の背後に祥吾は回った。そうして首元に剣を叩き込む。4回目でようやく静かになった。


 魔物を倒したことで体力を回復させた祥吾が背伸びをする。


「あー終わったぁ」


「お疲れ様。牛頭人(ミノタウロス)ってあんなに動き回るものだったかしら?」


「動くぞ。あいつ、戦士としての勘もあるみたいだから面倒なんだよな」


「やたらと頑丈だし、魔法を使う者としては困った相手だわ」


「さて、ドロップアイテムはこれになるよな」


 倒した牛頭人(ミノタウロス)の側には、大きめの魔石、角、そして槍斧(ハルバード)があった。前にも見た光景に祥吾はため息をつく。しかも、今回は2つずつだ。


「わかっていたことなんだが」


「あの武器はどうするの?」


「どうしたものかな。あ、今の俺の武器は剣か。としたら、ひとつは持って行けるのか」


「確かにそうね。良かったじゃない。そのまま持ち帰って売ってしまうわよ」


「そうなると、これから帰るまでの武器はこれになるのか」


 2本のうちひとつを持ち上げた祥吾がつぶやいた。悪くない案ではある。幸い能力(チート)のおかげで魔物を倒す度に疲労は癒えるのでこの重さも大した負担にはならない。


 1本を握ったまま祥吾はクリュスへと振り返る。


「これだけ持って行くことにする。もしかしたらこの方法、最下層へ行くときに有効かもしれないな。この後の番人と守護者の魔物を考えると、一撃の威力はほしいし」


「私も賛成よ。魔法で身体を強化すれば更に自在に扱えるのだから、むしろそうするべきね。その分私が楽をできそうですし」


「にゃぁ」


 2人が楽しげに話をしていると足元でタッルスが鳴いた。まるで急かしているようである。その声に従って2人はドロップアイテムを拾うと部屋の奥の扉へと向かった。


 扉を開けると祥吾とクリュスは階下へと降りる。いよいよ地下21層だ。階段を降りきった先の光景はいつも通りの石造りである。見た目は何も変わらない。


 一通り周囲を見た祥吾はスマートフォンを取り出してその画面に目を向ける。


「日曜日の朝6時半前か。クリュス、この近くで仮眠を取れる場所はどこになるんだ?」


「そんなに離れていないわよ。案内するわ」


 タブレットの地図情報を見たクリュスが指示を出した。前に出た祥吾がそれを受けて歩き出す。数分して目的地である小部屋に着いた。


 一通り調べて回って罠がないことを確認した祥吾が口を開く。


「それじゃ、ここで仮眠を取ってくれ。予定通り4時間だ」


「わかったわ。お休み」


 部屋の奥でリュックサックを床に降ろしたクリュスはそれを枕に横になった。目を閉じてしばらくすると寝息を立てる。タッルスがその脇で丸くなった。飼い主に寄り添うようだ。


 出入口の近くに陣取った祥吾は座るとリュックサックから携帯食を取り出した。包装紙を破ってそれを囓る。すっかり食べ慣れた味だ。いくつか種類があるのでまずいもの以外は均等に買っている。飽きない工夫が簡単にできるのは良かった。異世界ではこうはいかなかっただけに思い出すと感慨深い。


 たまにペットボトルを傾けて口の中を洗い流す。やけに軽いと思って中身を見るとほとんど残っていなかった。この食事で飲み干すことにする。


 今回の目標は今いる地下21層を踏破することだ。同じ二桁階層で更に下の階層がどうなっているのかこれから体験することになる。事前に集めた情報によると地下20層以上とそれほど変わらないらしいが、実際に試してみないことには確信が持てない。


 新宿ダンジョンの核の異変は恐らく始まっているのだろうと祥吾は思う。できれば今回このまま最下層まで行く方が良いのかもしれない。ただ、クリュスはそうしない選択をした。ならば、それがうまくいくよう働くべきだろう。


 そう思いながら祥吾は空のペットボトルをリュックサックに入れた。

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