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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第7章 高校生活に慣れてきた頃

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3連休でないとできないこと(前)

 金曜日の夜、祥吾は前回と同じく午後7時過ぎに最寄り駅にたどり着き、改札口から少し離れた場所に立った。数分後、クリュスがやって来て合流する。2人は自動改札機を通り過ぎて駅構内へと入ると、やって来た電車に乗り込んだ。


 人の多い車内の中で祥吾が隣に立つクリュスに話しかける。


「一応計算上はぎりぎり3日に収まることは収まるが、これ実際どうなんだろうなぁ?」


「わからないからこそやってみるんじゃない。知っていたらやる必要はないでしょう」


「予定では往復で71時間か。何かひとつでも狂ったら破綻するな」


「これがうまくいけば、いよいよ次は最下層に挑戦よ。何としても最後まで踏破しないと」


 決意に満ちたクリュスの言葉に祥吾もうなずいた。今まで何度か新宿ダンジョンに挑戦したが、今回はいよいよその最終試験である。今回は地下21層まで走破して地上に戻るのだ。行きは39時間、帰りは32時間の道のりである。もしこの計画が成功したら、理論上、地下30層まで行けるはずなのだ。


 揺れる車内でクリュスが話を続ける。


「今月は3連休がもうひとつあるから、そのときに新宿ダンジョンを攻略するわ。だから、そのとき確実に最下層まで行けるよう今回で仕上げるわよ」


「それを逃すと、次は冬休みになるんだよな」


「さすがにそれでは遅すぎるわ。祥吾も知っているでしょう?」


 問われた祥吾は小さくうなずいた。神々の話によると年内に新宿ダンジョンが異変を起こす伝えてきているので、年末まで攻略を引き延ばすわけにはいかないのだ。


 1時間ほど電車に揺られた2人は新宿駅で降りた。ここの駅はいつも混雑している。そのため、楽に移動できたことがない。


 やっとの思いで駅から出た2人は探索者協会新宿支部へと足を向ける。支部へと向かう道はたまに寂しくなることもあるが、2人にとってはそれだけのことだ。


 その暗い夜道を歩いている途中で祥吾はクリュスに問いかける。


「地下21層まで行けるのか今回試すわけだが、そこまで行けるならいっそのこと最下層まで行かないか? 帰り道にかかる32時間をかけたら最後まで行けるんだろう?」


「そうね。計算だけなら地下30層まで行けるはずよ。ただ、今回はあなたの体の変化も待っているのよ」


「俺? ああ、もしかして、あの毎日食ってるゼリー状の固体の影響か」


「手札は多い方が良いでしょう? 新宿ダンジョンの地下21層以下のことを考えると」


「あのゼリーを食べる量を増やした方が良いか?」


「今はそのままの方が良いわ。何か体に変化があってからね」


 提案を否定された祥吾は黙った。今更ではあるが、あのゼリー状の固体を手に入れてからすぐ食べ始めていたら今日に間に合っていた可能性があるだけに後悔している。次からはダンジョンでの活動について考慮して判断しようと心に決めた。


 新宿支部にたどり着くと2人は本部施設へと入る。ロビーには多数の探索者が往来しているが、昼間よりも確実にその人数は減っていた。


 2人はそのままロビーを突っ切って廊下へと移り、更衣室へと入る。手早く着替えると2人は合流して受付カウンターへと向かった。


 いつものようにクリュスが受付嬢に話しかける。


「これからダンジョンに入るのですが、何か気を付けるべきことはあるでしょうか?」


「最近、行方不明になる探索者の方が増えてきています。戻って来た方の話によりますと、ダンジョン内で悪性転移バッドトランスポーテーションが発生しているようです」


「『エクスプローラーズ』には記載されていませんでしたが」


「はい、原因が不明で発生時期も不明確ですのでもう少し様子を見ることになっています」


 更に質疑応答を繰り返すと、祥吾やクリュス、それに幸山が経験したような転移がたまに発生することがあるということだった。数は少ないものの、受付カウンターで注意喚起するくらいには探索者協会も警戒しているらしい。


 話を終えたクリュスが踵を返した。祥吾もそれに続く。


「影響が広がってきているようだな」


「都市伝説の類いが事実になったわけね」


 ロビーを突っ切りながらしゃべる2人は支部の本部施設を出た。そのまま外灯に照らされた道を通って正門へと向かう。


 その途中で祥吾が自分のスマートフォンを取り出した。画面を見てつぶやく。


「午後9時前か。3日後のこの時間に果たして戻ってくることができるかだな」


「戻ってくるわよ。そして、最下層への道筋を確定させるんだから」


 正門の自動改札機を通り抜けた2人は警戒区域の道を歩いた。ここにはダンジョンの入口付近以外に外灯はなく、代わりに防壁からサーチライトが向けられている。もちろん入口まで届かないので道の大半は暗いので、そこは探索者自身が自前で何とかしないといけない。その暗い道を探索者持参の明かりを頼りに2人は進む。


 ダンジョンの入口に着いた2人はそのまま階段を降りた。正面玄関(エントランス)に入るとクリュスがタブレットを取り出し、そのまま最短経路の通路へと進む。


 通路内は探索者が何人も往来していた。奥へ進む者と地上へと向かう者の人数はそう変わらなさそうだ。相変わらず騒がしい探索者は騒がしいが、それでも人の数が減ったことにより耳を塞ぐほどではない。


 2人は今まで通り通路の奥へと進んだ。




 丸1日以上が過ぎた。土曜日の午後10時の時点で祥吾とクリュスは地下15層の番人の部屋を突破する。時間も内容も前回とほぼ同一という理想的な展開だ。


 地下16層に降りた2人は階段から少し離れた場所で壁にもたれて座る。


「驚くくらい予定通りだったな。さすがに回数をこなすと慣れてくる」


「良い傾向だわ。本番のときもこの調子で進みたいわね」


「クリュス、体調はどうなんだ?」


「悪くないわよ。祥吾が仮眠の時間を譲ってくれたから。さすがに4時間寝たらましになるわ」


「朗報だな。ということは、今度から仮眠の時間は全部クリュスが眠れば良い」


「能力があるからというのは知っているけれど、悪いわね」


「魔物を殺したら疲労も寝不足も解消できるから、これで良いんだよ。どうせ3日の辛抱だ。帰ってから思いきり寝てやるさ」


 にやりと笑った祥吾はペットボトルを呷った。1回目の仮眠の時間になったときに前回のことを思い出したのである。そして、最初からクリュスをある程度眠らせればダンジョン攻略がはかどるのではと思い至ったのだ。


 これは今のところ目立った形では役立っていないが、その効果が現われるのはこれからだと祥吾は考えている。魔物の数が増える地下16層以下で魔法を多用するときにクリュスの疲労の少なさが生きてくると期待していた。


 休憩が終わると2人は先へと進んだ。地下16層は前に1度踏破したことがある。最短経路の通路ならば勝手知ったる道だ。今回本当の勝負になるのはその次の地下17層からである。地下16層の延長線上だというのは知っているが、実際には未知の階層である。罠を回避しつつ魔物を撃退して進んだ。


 途中、他の探索者パーティと出会う。この階層で活動できる面々だけあって自分たちに自信のある者ばかりだ。幸い、それが良い意味で現われた探索者たちらしく、情報交換をすることができた。ただ、2人だけでこの階層までやって来たことには大層驚かれたが。


 その後も階層をひとつずつ踏破して降りてゆく。罠に関しては地下15層以下と大差ないが、魔物は種類と数が増えたのでその対応に苦労した。


 なかなか苦労した2人だが、それでもようやく地下20層の番人の部屋へとたどり着く。その扉の手前には他の探索者パーティが1組順番待ちをしていた。


 それを見たクリュスがつぶやく。


「ここでも順番待ちをするパーティがいるなんて」


「新宿ダンジョンの探索者の層は厚いな」


「時間はどうなのかしら?」


「今のところ予定通り。結構苦労したから時間がかかったと思ったが、そうでもないらしいな」


「結構なことだわ。このままここも突破しましょう」


 話を終えるとクリュスはリュックサックを降ろして座った。壁にもたれて目を閉じる。


 立ったままの祥吾はここまでのことを振り返った。今のところ大変良い状態だ。次の番人の部屋の相手は戦った経験があり、目標となる階層はその下にある。今のところ大きな不安はない。


 ひとつ前の探索者パーティが扉の向こうへと入って行った。その直前に仲間同士で大きな声を出したためクリュスが目覚める。


 そのクリュスは周囲を見て他に誰もいないことを確認するとリュックサックからタッルスを出した。黒猫はそのままクリュスの膝の上で丸まる。最近はクリュスの元にいることが多い。


 そんな黒猫を見る祥吾は飼い主が疲れているのを察しているのだろうと想像する。だからこそ、早く終わらせて楽にさせたいと強く思った。

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