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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第2章 神々の要望

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友人たちとの交遊

 黒岡ダンジョンの最下層へ赴いて神々の意思を確認する予定だった祥吾とクリュスはその目的を果たせなかった。途中で他の探索者に襲われて、その加害者を探索庁監視隊に引き渡すために引き返したからだ。


 色々と悩んだ末に選んだ結果なので後悔のない2人だったが、目的はまだ果たしていない。後日仕切り直す必要があった。問題なのはいつ仕切り直すかだ。


 クリュスなどは翌日再びという考えだったが、祥吾はさすがに嫌がる。


「クリュス、さすがに少し休ませてくれよ。せっかくの春休みなのに、俺たち探索関係のことばっかりやっているじゃないか」


「まぁそれは確かに。なら、3日ほど休んで、その後再び黒岡ダンジョンに入るのはどうかしら?」


「それでいいぞ。ちょうど祐介と良樹から遊びの誘いが来てるんだ」


 友人2人からの誘いは黒岡ダンジョンに入っている最中に届いていた。電波が届かなくて祥吾のスマートフォンに着信できなかったのだ。帰宅後、それに気付いた祥吾がこうしてクリュスに直談判しているところである。


 説得の甲斐あって祥吾は晴れてまとまった休みを手に入れた。何かおかしい気がしないでもないがとりあえず休みを楽しむことを優先する。


 2日後の朝、祥吾は近場である黒岡小町商店街の駅に近い方の出入口に立っていた。今時珍しいまだ機能している個人商店が多い繁華街だ。それほど大きくはないものの、遊ぶ場所が一通り揃っている。


 長袖のシャツとカーゴパンツといういつも通りの出で立ちの祥吾はスマートフォンの画面を見た。そろそろ約束の10時頃だ。


 先にやって来たのは良樹だった。悠々と歩いて来て祥吾に片手を上げる。


「祥吾君、おはよう。久しぶりだね」


「そうだな。卒業式以来か」


「春休みになったらすぐに会えると思ったのに、まさか月を跨ぐとはねぇ」


「いやぁ悪いな。ちょっと立て込んでいてな」


「どうせクリュスさんとずっと一緒だったんだよね!」


 にやにやと笑う良樹へ祥吾は言葉を返せなかった。まったく色気のないことをしていたのだが、このままだと信じてもらえそうにない。


 どうしたものかと悩んでいると、視線を外した先に見知った顔を見つけた。祐介である。


「祐介! こっちだ!」


「おお、久しぶりだな、祥吾!」


 祥吾の声に反応した祐介が小走りで寄ってきた。嬉しそうに返事をする。


 これで全員が揃った。いよいよ3人で商店街へと入る。


 最初に向かったのは3階建てのビルのゲームセンターだ。近年減少の一途をたどる遊戯施設だが、この辺りでは残った最後の1店舗ということもあってまだ営業できているというのがもっぱらの噂である。


 1階に並ぶクレーンゲームを素通りし、3人は2階に続く階段を上がった。すると、格闘ゲームの筐体が所狭しと並んでいる。


「おっしゃ、アーファイやろうぜ!」


「まずはコンピューター戦をやらせてくれ。最近やってないんだよ」


「僕もCOM戦かな」


 横並び型筐体の前に座った祐介に続いて、その両脇の椅子に祥吾と良樹が座った。3人で1台ずつ壁際の筐体を占拠する。対面型筐体に比べて乱入されにくいのだ。ちなみに、祐介の言うアーファイとはアーバンファイターという格闘ゲームのことだ。最近珍しく新規参入してきた会社が提供しているゲームで、定番の別タイトルとは違ってキャラも操作方法も癖があることで知られている。人気は一部の人々に受けているという程度だ。


 硬貨を1枚入れて3人はゲームを始める。キャラセレクトは全員持ちキャラがあるのですぐに選択が終わった。祥吾がスタンダードの格闘技家、祐介が近接タイプのプロレスラー、良樹が遠距離攻撃タイプの中国拳法家だ。


 ゲームを始めるとストーリーモードが始まる。3人とも映像をスキップしてすぐにプレイを始めた。祐介は果敢に攻めて時には大技を決めるのに対して、良樹は飛び道具で少しずつ削ってゆく戦い方である。当然祐介の方が進みは速い。一方、祥吾は良くも悪くも普通の戦い方である。これといった特徴はない。


「よっしゃ、クリアしたぜ! もう1回やってるから、終わったら乱入してくれ」


「俺はもう1戦あるからそれからだな」


「僕はまだ半分進んだところだよ」


「お前相変わらず遅いなぁ、良樹」


 呆れながらも祐介はもう1度硬貨を入れてストーリーモードを始めた。セレクトキャラは寝技タイプの南米柔術家である。


 二番手でストーリーモードをクリアした祥吾はすぐに祐介の筐体に移って硬貨を入れた。乱入されたことによりキャラセレクト画面となり、同じキャラを選択する。


 対戦が始まると両者のキャラは立ち位置を目まぐるしく変えて攻防を繰り広げた。実際は祥吾が祐介のキャラの寝技にかけられないよう逃げながら攻撃していたわけだが、たまに逃げ切れずに技を食らう。


「あーくそっ! なんで今ので吸い込めるんだよ!?」


「ふふ、甘いなぁ、祥吾クンは」


 派手に動き回っていた祥吾のキャラだったが、気が付いたら圧倒的な差で敗北していた。次も負けたらゲームオーバーだ。


 2戦目こそはは意気込む祥吾だが、戦い方が1戦目と変わらなければ結果は同じである。多少粘ったがそれだけだった。


 この後、祥吾は何度か挑戦したものの勝てたのは1度だけで勝率は2割を下回る。大体いつも通りだ。


 そこへ良樹も参加してきた。こちらもコンピューター戦と同じ遠距離攻撃タイプの中国拳法家を選んで乱入する。


 この対戦は長引いた。何とか寝技をかけようとキャラを接近させる祐介に対して、良樹は徹底的に遠距離で飛び道具主体の攻撃を加えたからである。


「お前、ちっとは勝負しろ!」


「してるじゃないか。近づいたら絶対に勝てないんだから、これが僕の最適解だよ」


 散々逃げ回りながらちくちくと攻撃する良樹に腹を立てる祐介はどうにか近づこうと企てた。そして、ようやくその機会を得る。画面端から反対側に逃げようとした良樹のキャラをついに捕らえたのだ。


 こうなるともうほぼ一方的な展開となる。絶対に逃がさないという強い意志を感じる怒濤の攻撃で寝技タイプの南米柔術家が遠距離攻撃タイプの中国拳法家を倒しきったのだ。


 ゲームが終わると良樹が悔しがる。


「途中まではいい線を行ってたのに!」


「ははは、そんな逃げ腰じゃオレには勝てないぜ!」


 この後も何度か祐介と良樹は繰り返して対戦するものの、良樹の勝率は4割を超えることはなかった。3人の中で最もゲームが強いのは祐介なのでいつもの結果である。


 3人で格闘ゲームをしばらくやった後は、最上階である3階に上がった。そこで、シューティングゲームやレトロゲームをプレイする。その度に騒いで楽しんだ。


 久しぶりにゲームを楽しんだ3人は気付けば正午を回っていることに気付いた。そこで、ゲームセンターを出て飲食店に向かう。選んだのはラーメン屋だった。店舗の中に入ると、いくつかのテーブル席が空いていたので窓に近い席を選ぶ。


 店員が注文を取りに来ると、祥吾は醤油ラーメンと餃子1人前とチャーハン、祐介は味噌ラーメン、良樹は豚骨ラーメンに麻婆豆腐をそれぞれ注文した。


 テーブルに置いてあるお冷やをコップに入れて一息つくと祥吾が口を開く。


「相変わらず祐介の強さは反則級だな。全然勝てない」


「お前、動きがわかりやすいんだよ。もっとフェイントを使うべきだぜ」


「前から言われているな、それ。こう、ついまっすぐ行ってしまうんだよなぁ」


 そこからゲームセンターでのプレイ感想会が始まった。お互いの良いところ悪いところやゲームの良し悪しを語り合う。


 注文の品がテーブルに並べられると3人とも最初は食事に集中した。半分ほど食べたところで雑談が再開される。


「祐介君、来週からはいよいよ高校に通うわけなんだけど、どうなるんだろうね?」


「何がだよ。漠然としすぎて全然わかんねぇぜ」


「例えば、えっと、どのクラスになるかとか」


「一緒だといいよな。そう都合良くもいかないんだろうが」


「でも、3人とも同じ高校を受験してるなんてすごい偶然だね」


「家から離れるのがめんどくさくて、それでいてそれなりのところに行こうとするなら、選択肢は限られてくるからな」


「確かに。でも、まさかクリュスさんも黒岡高校だとは思わなかったなぁ」


「だよな。クリュスだったらもっといい高校を狙えたのは間違いない」


「それなのに黒岡高校を選んだってことは」


「待て、どうしてそんな話になるんだよ」


 とりあえず食べることを優先していた祥吾は雲行きが怪しくなってきたことに気付いて手を止めた。放っておくとどんな流れになるかわからないので口を挟む。


 そこから祥吾は2人からクリュスとの仲についてからかわれた。いつものことだが居心地は悪い。このときは店を出るまでこの話題が続いた。

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