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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第5章 高校1年の夏休み(前半)

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夏休みの活動─世田谷ダンジョン─(7)

 2度目の牛頭人(ミノタウロス)を倒した祥吾とクリュスは一部のドロップアイテムを諦めつつも階下へと降りた。地下10層に降り立つと小休止に入る。祥吾はともかく、クリュスに休みが必要なのだ。


 相変わらずの石造りの景色を目にしつつ、2人は隣り合って座る。リュックサックから取り出したペットボトルを傾けた。


 一息ついたクリュスが祥吾に話しかける。


「相談があるんだけれど良いかしら?」


「どうした?」


「ここから守護人形(ガーディアンドール)を使おうかと考えているの」


「あれを使うと魔法をほとんど使えなくなるんだったよな。大丈夫なのか?」


「魔力をあの人形たちに分け与えることになるけれど、それだけ強いらしいから恐らくは」


「どの程度なら魔法は使えるんだ?」


「簡単なものをいくつかくらいかしら」


守護人形(ガーディアンドール)の強さ次第になるが、地竜(アースドラゴン)と戦えるくらいだったか。なら大丈夫なの、か?」


 実際に使っているところを見たことのない祥吾は自分の言葉に自信が持てなかった。クリュスの魔法以上に使えるのならば問題はないが、そうでないと致命傷になりかねない。もっとも、神々がクリュスをぞんざいに扱うとも思えないのであまり心配していないのも確かである。


「いや待て、どうせなら今すぐ使うべきだろう」


「祥吾、どうしたの?」


「まだ使ったことがないんだから、今のうちにどのくらい使えるか確認しておくべきじゃないか。地下10層をこれから進む今が一番良い機会だろう」


「なるほど、そう考えるわけね」


地竜(アースドラゴン)と戦い始めたときに実は使えませんでしたなんて俺は嫌だぞ」


「ふふ、それは私も嫌ね。わかったわ。休憩が終わったら使いましょう」


 突然何かを思い付いたかのようにしゃべり始めた祥吾を見てクリュスが笑った。黒猫はあぐらをかく祥吾の脚の上で丸まったまま我関せずである。


 その他にもいくつか地下10層以下について話をした後、2人は休憩を終えた。立ち上がると出発の準備を始める。


 クリュスはリュックサックから4体の石でできたような人形を取り出した。それを床に並べて正面に立つ。そうしてつぶやくように呪文を唱えた。すると、その人形は淡く輝いたかと思うと急速に大きくなる。最終的には成人男性程度にまで巨大化した。ただし、見た目は小さかったときと変わらない。


 その容姿を目にした祥吾が正直な感想を口にする。


「おもちゃの戦士がそのまま大きくなったみたいだな」


「そうね。でも、私の魔力を均等に共有しているから自由に動いてくれるのよ」


 口頭で説明したクリュスが次いで実際に人形たち4体を動かして見せた。前に歩き、反転し、盾を構え、槍で突く。すべてがまったく同じ動きをした。


 多少圧倒されつつも祥吾が口を開く。


「滑らかに動くもんだな」


「そうでないと使いものにならないでしょう。祥吾、少し戦ってみる?」


「え、良いのか?」


 模擬戦に誘われた祥吾は躊躇いつつも応じた。実際にどの程度戦えるのか気になったからだ。立てかけていた槍斧(ハルバード)を手にして人形の1体と対峙する。


 様子を見ようかと思った祥吾だが、クリュスが操っているということを思い出して自分から簡単に突いてみた。すると、あっさりと躱されて槍で突かれる。なかなか鋭い突きだ。


 思った以上にやれそうなことを理解した祥吾は腰を入れて戦い始めた。突き、斬り、払いと人形に仕掛けてゆく。そのいずれもが躱されて反撃された。


 それならばと祥吾は本気になって仕掛ける。積極的に動いて相手の人形を追い詰めようとした。しかし、熟練の戦士そのものの動きで回避され、反対に祥吾動きを抑えにかかってくる。


「祥吾、もう良いかしら。あなた、本気になっていない?」


「なっているぞ。これはすごいな。俺の攻撃が全然当たらないじゃないか」


「神様謹製のお人形ですもの。一筋縄ではいかないわよ」


「これ、お前が全部動かしているのか?」


「まさか。私の魔力のいくらかを預けていて、簡単な命令をしたら後は自己判断で動いてくれるの。かなり便利なのよ」


「それでここまで動けるのか。てっきりお前が動かしていると思ったんだが」


「私、直接の戦闘は得意じゃないわよ」


「実はお前もここまで動けるんだったら、今度から一緒に前衛ができると思ったのにな」


「馬鹿なことを言わないで。これは神々の戦士の記憶を与えられた人形なんだから、強くて当たり前じゃない」


「神々の戦士?」


「そうよ。この世界にも神話の時代ってあったでしょう? そのときの戦士たちのことよ」


「俺より全然強いじゃないか!」


 実は格上の存在を相手に模擬戦をしていたことを知って祥吾は叫んだ。もし相手が生きていたら赤っ恥をかいていたところである。


「お前、そういうことは先に言えよな。試す必要なんてなかったじゃないか」


「祥吾がなんだかやりたがっていたら、別に後でも良いかなって思って」


「まぁどのみち模擬戦はしていたんだろうけれどさ」


 何となく担がれた気がした祥吾は面白くなさそうに口を尖らせた。クリュスはごめんなさいと謝りつつも笑顔である。それがまた憎たらしく思えた。


 ともかく、自分よりも格上の戦士が4人も加勢してくれるということを知った祥吾は安心した。これならばクリュスの魔法が限定されることも納得できる。


「もういいや。ということは、俺たち2人に加えてこの4体で隊列を組めば良いわけか」


「そうね。どういう配置にする?」


「前衛3人、後衛3人にしよう。俺とクリュスはその真ん中に立つんだ」


「恵里菜たちのときとは違うのね」


「問題が発生して隊形を変えている時間がないときもこれから増えてくるだろう。それだったら最初から戦闘隊形の方がずっと良いと思うんだ」


 祥吾としては進むにしろ戦うにしろ単純な方が良いと考えていた。考えることが少なくなる程周囲に注意を払えるのだ。


 方針が決まると祥吾とクリュスは陣形を整えて通路を進み始めた。ここからは冗談抜きで真剣である。


 地下10層の風景はそれまでと変わりない。床、壁、天井のどれもが石造りだ。区別など付かないので、知らない人間に地下1層だと教えれば信じてもらえるだろう。


 ただし、その内情はまるで違った。それまでにも見かけた仕掛け矢(トラップアロー)虎挟みフットホールドトラップはより陰湿な仕掛け方になっており、この階層から見かける新しい罠も含めて状況が合致すると死亡率が跳ね上がる。熟練の探索者でさえもあっさりと死にかねない仕掛けばかりだ。


 そんな場所なので、実は探索者協会の専用アプリでダウンロードできる地図情報も完全ではない。何しろ足を踏み入れる探索者パーティが少ないため、なかなか情報が集まらないのだ。それでもかろうじて最下層の守護者の部屋までの経路は情報は揃っている。この辺りは横田ダンジョンと変わらない。


 2人は守護人形(ガーディアンドール)4体を引き連れてそんな先人の血と汗と命の結晶を元に最下層を目指した。


 横田ダンジョンでは仕掛け矢の通路(アローストリート)が有名だが、世田谷ダンジョンの場合は別の仕掛けが知られている。


「祥吾、その交差点の奥から無魔法空間(マジックレススペース)みたいだから避けるわよ」


「そこに入ったらこの人形はどうなるんだ?」


「最悪動かなくなるわね」


「勘弁してくれ。迂回できるんだよな?」


「かなり遠回りになるけれど仕方ないわ」


「そっちに行こう。まだ魔物とも戦っていないのに、人形にお休みされるわけにはいかないからな」


「これから先は罠が多くなるから気を付けてね」


「二桁階層っていっつもそうだよな。絶対に楽なんてさせてくれないんだ」


 愚痴をこぼしながらも祥吾は気を引き締めて歩いた。厄介な罠を回避できる通路は別の罠が張り巡らされているのだ。


 クリュスの指示に従いながら祥吾は通路を進む。両脇の人形2体が実に頼もしい。自分よりも格上の動きができるというのもあるが、やはり味方に囲まれているというのは安心感がある。


 罠に関してはひとつずつ丁寧に対処していくしかなかった。発動すると連続して襲いかかってくるものもあるので回避するに越したことはない。


 そうして時間をかけて通路を進んでいくと、やがて階下へ続く階段にたどり着いた。ようやく一息つける場所に到達して祥吾は大きく息を吐き出す。


「やっとここまで来たな。普通の倍くらい時間がかかったんじゃないのか?」


「そうね。それくらいだわ。でも、無傷なんですからその甲斐はあったでしょう」


「まぁな。ああでも、この階層で魔物に1度も遭わなかったな。珍しい」


「下の階でその分たくさん遭遇するんじゃないかしら」


「おい、嫌なことを言うなよ」


 あえて意識から外していたことをあっさりと告げられた祥吾は嫌な顔をした。頼もしい人形があるとはいえ、別に戦いを望んでいるわけではないのだ。


 何でもないという顔をしたクリュスを見てため息をついた祥吾はペットボトルに口を付けた。

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