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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第5章 高校1年の夏休み(前半)

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夏休みの活動─世田谷ダンジョン─(5)

 危険な何かを察知した由香にその場所まで案内してもらった祥吾とクリュスは通路の先に岩熊(ロックベア)を発見した。通常の武器がほとんどほとんど通じない程硬い魔物として有名だ。そのため、魔法を使えない探索者のパーティではかなり苦戦する相手である。


 魔法が使えない祥吾も1人だけなら岩熊(ロックベア)は非常に厄介な相手だ。目を突いて潰すところまではできても、殺すことは非常に難しい。しかし、クリュスがいることでその状況は一変する。


「我が下に集いし魔力よ、頼もしき風となり、彼の物に力を授けよ」


 隣を歩くクリュスが呪文を唱え終わると、祥吾が持つ槍斧(ハルバード)の刃の周囲が白くうねるようにぼんやりと淡く輝く。


 先程とは違い、祥吾は分岐路の陰から様子を窺うことはしない。そのまま枝道に入ってまっすぐと進む。近接武器で戦うため、奇襲するには距離があるからだ。当然、岩熊(ロックベア)に気付かれる。


 1体だけぽつんといたその個体が敵意剥き出しで向かって来るのを祥吾は目にした。武器を両手で持ってその場で立ち止まり、構える。大口を開けて飛びついてきたその個体に対して右側に避け、横に倒した槍斧(ハルバード)を振り抜いた。


 危険を察知したのか、突っ込んで来た岩熊(ロックベア)は飛び上がって避けようとする。巨体が宙を舞ったのは驚きだ。しかし、やはりその重さが問題となった。充分に高く飛ぶことができず、後ろの左脚の膝から下が斧の刃とぶつかる。そして、あっさりと切断された。


 痛みに悲鳴を上げて暴れるその個体を見ながら祥吾は武器を構え直して対峙する。通常の武器の攻撃はほとんど通じないという評判が嘘のようにあっさりと脚を跳ね飛ばした。さすがクリュスの魔法と言ったところだ。実際は魔法と魔物の相性の問題もあるが、それは今考えなくても良い。


 こうなるともう後は消化試合のようなものだ。槍斧(ハルバード)の柄の長さを利用して暴れる岩熊(ロックベア)を少し離れた場所から傷付け仕留める。終わってみればあっけないものだった。


 隠れることもなく分岐路の交差点辺りで眺めていたクリュスが祥吾に近づく。


「お疲れ様。割とあっさりと倒せたわね」


「最初の一撃で動きを止められたからだよ。そうでなかったらもっと動き回っていたぞ。それにしても、魔法の支援があるとやっぱり段違いに楽だな」


「土属性の岩熊(ロックベア)に対して風の魔力付与をしたからね」


「地下10層以下もこんな感じで戦えたら良いんだけれどなぁ」


「で、実際戦った感想はどうだった?」


「何とも言えないな。魔法の有る無しで極端な結果になりそうだから」


「ということは、魔法の支援があれば充分やれるのね」


「後は数の問題だな。まぁでもこれは、今までも同じと言えば同じだ」


「良かった。だったらこの先にも進めるのね」


 嬉しそうに話をするクリュスに祥吾はうなずいた。1人で地下10層以下に行けるかと言われたら明確に無理と答えるが、クリュスと共にと言うことならやっていける手応えは感じている。


 そんな2人に対して恵里菜たち4人が近づいて来た。恐る恐るといった感じで岩熊(ロックベア)を覗くように見る。


「なんかあっさり倒せたね~」


「クリュスの魔法があるからかぁ。それじゃ、あたしのでもやれるのかな?」


「まずはクソミノ倒すところからっすね」


「それに、地下10層以下だとこんな魔物がまとめて何匹も出てくるんだ、下には降りられそうにないな」


 由香が口を開いたのを皮切りに、友恵、小鳥、恵里菜が自分たちの所感を漏らした。


 そんな4人にクリュスが話しかける。


「下には降りられなくても、この辺りに単体で出てくる突然変異の魔物なら対処できるんじゃないかしら?」


「それくらいなら何とかなりそうだな。つまり、あんまり恐れることはないということか」


「えへへ、魔力付与(エンチャント)ならあたしもできるもんねー!」


 考えながらしゃべる恵里菜に対して友恵が自分の魔法をアピールしてきた。それを由香と小鳥が微笑ましそうに見ている。


 5人が話をしている中、祥吾は床に現われていた大きめの魔石を拾った。それを手に恵里菜へと近づいて軽く放り投げる。


「恵里菜、これをやる」


「え? いやでもこれはお前が倒しただろ。あたしが受け取るのは」


「契約でそうなっていただろう。地下9層までの取り分は全部そっちのものだってな」


「あーそういえば。でも、同行の話は階段のところまでだったはず」


「その後、これのところまで案内してもらうってことになっていたじゃないか。だから、あの条件はまだ有効だということだ。それに、どうせ地下10層以下に行ったらいくらでも手に入るしな」


 戸惑う恵里菜に対して祥吾は何でもない様子で語った。実際その通りで、これから予想される激戦を考えると、この魔石ひとつにこだわる理由はどこにもない。後でいくらでも手に入るからだ。


 迷いを見せていた恵里菜だったが、クリュスからも勧められたことで岩熊(ロックベア)の魔石を受け取った。他の仲間3人も収入が増えたことを喜ぶ。


 その様子を見ていた祥吾も笑顔を浮かべていたが、ふと気になることが頭に浮かんだ。それを4人に尋ねてみる。


「さて、これで問題が解決したわけだが、恵里菜たちはこれからどうするんだ? やっぱり上の階に戻るのか?」


「戻る。今回はこれのせいでケチが付いたからな。地下9層で狩りをする気にはなれない」


「でもリーダー、そうなると赤字だよ?」


「少しはやっといた方がいいんじゃないかな~」


「あたしもそう思うっす。もっと上の階で狩りをしたらいいんじゃないっすか?」


「上の階か。それじゃ地下5層あたりでやるか?」


「賛成! 手ぶらで帰るよりマシだしね」


「最低でも赤字にならないようにしないとね~」


「あたしも賛成っす」


「わかった。それだったら少し仕事をしてから地上に戻ろう。ということだ、祥吾」


 話がまとまったところで恵里菜が祥吾に顔を向けた。今のところ頻繁に起きる問題でもないので、地下10層以下の魔物とこれ以上遭遇する可能性はほぼないという見立てだ。それに、単体ならば何とかなりそうという自信がうっすらと出てきたこともある。


「当面の差し迫った危険がなくなったから、俺から言うことは何もないな」


「私もないわ。他の探索者に襲われないようにね」


「はっ、クソどもなんか返り討ちにしてやるさ」


「そーだそーだ! あたしの魔法で髪の毛を燃やしてやるー」


「そう簡単には襲われないから心配しなくてもいいよ~」


「大丈夫っす」


 今までも世田谷ダンジョンで活動してきた4人の態度は自信に溢れていた。これなら大丈夫だろうと祥吾も安心する。


 簡単な別れの挨拶を交わした6人はその場で別れた。恵里菜たち4人は地下5層に向かい、祥吾とクリュスは地下9層の番人の部屋を目指す。


 再び2人となると、祥吾が先頭、クリュスが後方という形で通路を進んだ。今は1度通った経路なので迷いがない。地下9層へと続く階段には時間をかけることなくたどり着いた。2人はそのまま階下へと降りる。


「クリュス、ここから先は最短経路で行っても良いんだよな?」


「恵里菜たちの話だとそうらしいわね。この辺りで活動する探索者は魔物を倒した方が実入りが良いそうだから」


「困ったもんだな」


 階段を降りきった直後、祥吾はクリュスから耳にした返答に苦笑いした。収支次第では襲われる可能性があると言われたようなものである。つまり、相変わらず他の探索者を警戒する必要があるというわけだ。


 実際はどうなのだろうと思いつつも祥吾はクリュスの指示に従って通路を歩いた。地下9層は地下8層と難易度は変わらないそうなので上の階の手法が通用する。由香がいなくなったので罠への警戒がやりにくくなったが、これはいつも通りに戻っただけだ。そう自分に言い聞かせながら周囲を警戒する。


 たまに罠に引っかかりそうになりながらも2人は奥へと進んだ。ぽつぽつと襲ってくる魔物の集団もクリュスの魔法の支援を得て難なく倒す。そうして、ついに番人の部屋の前にまでやって来た。


 扉の周辺には誰もいないことを確認した祥吾がつぶやく。


「やっとたどり着いたな。なんだか無茶苦茶時間がかかった気がする」


「色々とあったもの。でも、ここを突破してやっと半分なのよね」


「嫌なことを思い出させるなよ。忘れていたのに」


「でも、事実を忘れるのは良くないわ」


「ちぇ。ところで、この辺りからならもうタッルスを外に出しても良いんじゃないのか?」


「周りに誰もいないみたいだし、お願いできる?」


 クリュスに背中を向けられた祥吾は壁に武器を立てかけてから、そのリュックサックの口を開けた。すると、黒猫が顔を出す。


「にゃぁ」


 リュックサックから出てきたタッルスは器用に体を動かして祥吾の腕を伝ってその肩に乗った。そして、嬉しそうに頬ずりをする。


 祥吾はそんな黒猫の相手を少しだけした。

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