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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第5章 高校1年の夏休み(前半)

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夏休みの活動─世田谷ダンジョン─(1)

 支部の本部施設でナンパ騒動があった後、祥吾とクリュスは恵里菜たち4人と共に世田谷ダンジョンへと向かった。他の探索者に交じって正門へと向かう。


「クリュスってさぁ、いっつも男に口説かれてんの?」


「さすがにいつもではないけれど、たまには」


「同じ男から何回もっていうのも?」


「それは珍しいわね。あることにはあるけれど」


「うわ、それはウザすぎるぅ」


 松岡が追いかけてこないことを確認した友恵がクリュスに普段の様子を尋ねていた。興味があるようで色々と質問を繰り返している。他にも由香が加わって会話が華やかになっていた。


 少し離れた場所を歩く祥吾は知っていることなので会話に参加していない。突然自分に飛び火しても困るからだ。雑談の話題などそのときのノリと気分次第だから危なそうなときは近づかないに限る。


 そうしていると、自動改札機を通過した直後に祥吾は恵里菜から話しかけられる。


「祥吾、今回は同行してもらうという形だが、どうせなら地下9層までは一緒に戦ってもらうぞ」


「そうだろうな。俺は見ての通り前衛タイプだから前に配置してくれたらいい」


「わかってる。真ん中に配置してやるさ。ただ、そのゴツい武器を味方には当てるなよ」


「気を付けて振り回すよ」


「それと、分け前だが、お前とクリュスの分はいらないということでいいんだな?」


「かまわない。同行させてもらうためのお駄賃だと思ってくれ」


「地下9層の番人のドロップアイテムもだな?」


「ああ。俺たちは地下10層以下のところで稼ぐから構わないよ」


「よしわかった。せいぜいコキ使ってやるからな。覚悟しておけ」


「お手柔らかに」


 にやりと笑う恵里菜に対して祥吾は肩をすくめた。前日に取り決めた内容の確認だ。分け前の分配など面倒な作業を省くために条件を単純化したのである。それに、地下10層以下で稼ぐというのも嘘ではない。魔物が強くなればドロップアイテムも良くなるからだ。そのため、充分に稼げる見込みはある。生き残ればの話だが。


 警戒区域を貫く道を歩いた先にあるダンジョンの入口に差しかかると、探索者たちはそのまま階段を降りてゆく。階下にたどり着くと目の前には正面玄関(エントランス)が広がっていた。そこには多数の同業者がパーティ単位で点在している。


 6人となった祥吾たちもそこに入るとあちこちから目を向けられた。しかし、大半はすぐに興味をなくされる。


「おお、昨日と違ってほとんど視線を感じないな」


「新顔はみんな品定めしてくるからな、ここの連中は。ま、あたしらと一緒にいたら大丈夫だよ。大船に乗ったつもりでいたらいいさ」


「その辺りは特に頼りにしている」


「友恵、経路は?」


「今日は右から行こう! そんな気分だ!」


「由香、大丈夫そうか?」


「変な感じはしないかな~」


 昨日とは違う環境に感心していた祥吾だったが、恵里菜たちのやり取りを耳にして首を傾げた。自分に顔を向けてきた恵里菜に問いかける。


「最後、由香に何を確認したんだ?」


「由香のヤツは割と勘がいいから、ヤバそうなことがないか最初に聞くんだ」


「それは便利だな。最初から危ないことがあるかわかるのか」


「由香の勘には何度も助けられたからな。下手な理屈よりも信用できるのさ。ということで、先頭は由香と祥吾だ。真ん中があたしと小鳥、後ろが友恵とクリュスだ」


「お、今日は配置が違うねぇ、リーダー」


「2人が入ってきたからな。魔物との戦闘になったら小鳥は前に出るんだ」


「うっす」


「友恵とクリュスは魔法でみんなを支援してくれ」


「任せてよー!」


「わかったわ」


 指示を出し終えると恵里菜は出発の号令を下した。それを合図に6人が歩き始める。経路については友恵がタブレット片手に指示を出した。そのため、クリュスは今のところ歩くだけである。


 6人が隊列を組んで通路へと入った。最初は前後にも他の探索者パーティがいたが、進むにつれてその姿は減ってゆく。地下2層へと続く階段に至る道中の半ばくらいまで進むと他者の影はほとんど見かけなくなった。


 しかし、それでも進む経路には今のところ人の気配がする。祥吾は昨日との違いを実感していた。地元の探索者の活動方法の一端を知って感心する。


 地下1層をゆく6人は魔物にまったく遭遇することなく階下へと降りる階段にたどり着いた。祥吾が面白いと思ったのは階段近辺になるとまた人影が増えたことだ。階段だけは避けられないので皆が集まらざるを得ないのだった。


 階段を降りる前に恵里菜たち4人は小休止を取る。祥吾とクリュスもそれに倣った。


 ペットボトルに入った水で口を湿らせた祥吾が恵里菜に尋ねる。


「階段ごとに休むわけか」


「そう。休めるうちに休んどくのさ。あたしらの狩り場は地下9層なんだけど、最短経路が使えないこともあって行くだけで半日かかるんだ。だから、もう割り切って初日と最終日は移動時間って決めてるのさ」


「なるほどな。焦って魔物と戦っても危ないだけだからか」


「そういうこと。ま、途中の階層でたまに寄り道することもあるけどね。それはそのとき次第ってわけだよ」


「地下9層次第になるが、しっかり方針を立てているのは良いことだな」


「だろ? 下手に欲張ってあれもこれもとやると絶対どっかでコケるからね。安全確実に、これが一番さ」


 褒められてまんざらでもなさそうな恵里菜が得意気な顔をした。後で友恵にこっそりと聞いた話によると、他人から褒められることがあまりないので褒められると特に嬉しいらしい。


 休憩が終わると6人は再び隊列を組んだ。階段を降りて地下2層に足を踏み入れると友恵の指示で通路を進んでゆく。由香の勘は反応していないので比較的安全らしい。


 階層がひとつ下がると周囲から人の気配が少なくなる。階段に至る経路をたどっていてもそれは変わらない。そして、そうなると今度は魔物が現われやすくなる。


「なんか来たよ~!」


「大雑把だな。ああしかし、確かに来ているな。小鬼(ゴブリン)の集団、数は6匹、

小鬼長(ホブゴブリン)も1匹いるぞ」


「小鳥、前に出な! 祥吾にはでかいのを任せたよ」


「うっす」


「リーダー、あたしはー?」


「あんたはまだだよ。この程度なら前の連中だけでやれるからね。クリュスも待機」


 背後から飛んでくる恵里菜の指示を聞きながら祥吾は自分の武器を構えた。小鬼(ゴブリン)側も横に3人並んで走り寄ってくる。小鬼長(ホブゴブリン)は後衛の真ん中だ。


 目の前の個体を見据えた祥吾は槍斧(ハルバード)を突き出した。穂先は空を切ったが斧の刃の先端が相手の首元を切り裂く。首元から血を撒き散らしながら小鬼(ゴブリン)は床に転がった。


 左右の2匹は由香と小鳥に任せつつ、祥吾は前に踏み込む。周りの個体よりも5割増し程度大きい小鬼長(ホブゴブリン)が突っ込んで来た。しかし、やることは変わらない。小鬼(ゴブリン)系にしては珍しく真っ当な剣を持っているその個体が右腕を振り上げたので、祥吾はその腕を槍斧(ハルバード)で切り裂いた。絶叫する目の前の小鬼長(ホブゴブリン)が血走った目で尚も迫ってくるが、半回転させた槍斧(ハルバード)の石突きでその顔を突き、怯んだところを首元から叩き切る。


 槍斧(ハルバード)の扱い方を大体覚えてきた祥吾にとっては楽な戦闘だった。残りの個体は由香と小鳥が片付けてくれたので、相手にしたのは実質2匹のみである。


 戦いが終わった祥吾は魔石を拾った。それを近づいて来た恵里菜へと手渡す。


「お前たちの取り分だ」


「サンキュ。後ろから見てたが、安定した戦いっぷりだね」


「襲ってきたのは6匹だが、相手にしたのは2匹だけだからな。さすがにあれで苦戦はしないぞ」


「そりゃそうだ。普段は6匹来たときってどうしてるんだ?」


「半分は俺が、残りはクリュスが片付けている」


「やっぱそうなるよな。ということは、クリュスも接近戦はいけるクチとか?」


「できることはできるぞ。さすがに魔法ほどじゃないが」


「だよな。見てみたい気もするが、でも、さすがに前衛に出ろっていうのはなぁ」


 次第に独り言のようになっていく恵里菜の言葉に祥吾は苦笑いした。実際クリュスなら前衛でも充分に務まるが、やはり後衛職を前面に押し出すのは心理的に引け目を感じるのだ。そのため、祥吾もあえて何も言わない。


「さて、祥吾が使えるとわかったから、これからは安心して進めるな。由香、周りにヤバそうなのはいるか?」


「たぶんいないよ~」


「友恵、先に進むよ」


「じゃ、次はあっちー!」


「小鳥は下がって」


「うっす」


「よし、それじゃ出発。今日中に地下9層まで行くからな」


 恵里菜の指示で他の5人が動いた。祥吾とクリュスもその命令に従う。再び移動時の隊列に戻ると全員が歩き始めた。


 倒した魔物の死体が残る通路を後にして6人が先へと進む。周囲には人影も魔物の姿も見当たらない。先を急ぐのならば今のうちだろう。


 6人の影はやがて通路の陰へと消えていった。

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