第7話「モードル・アシテミール公爵」
第7話
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天幕の入り口の木製の扉が開き、そいつは現れ、5人の視線はそいつに釘付けとなった。
頭上には煌めく王冠。
黄金と黒曜石で編まれ、中心には星形の紋章が浮かび、まるで天球の軌道を象徴するような神秘的な光を放っている。
彼の顔には両性具有の美が宿り、唇は深紅、目は月のような銀。
肩には豪奢なマントがかかり、夜空に煌めく星々が織り込まれているような布地がたなびく。
手には香煙が立ち昇る金の香炉を携え、その香りは理性と欲望を撹拌してくる。
そいつ:「余はオシマン。200の軍団を率いる王である。跪くがよい」
彼の話す言葉は香に乗り、聞く者の耳を越えて魂に染み込んでくる。
荘厳さの奥に、危険なほど魅惑的な狂気が潜んでいる。
危険な雰囲気がビンビンと伝わってくるが、身体の動きが鈍い。
それでもマサライは王を守るために、なんとか王とオシマンの間に入ろうとする。
オシマンが静かに
「ほほう。なかなか見込みのある奴だ。しかし、無意味だな」
とつぶやくと同時に彼から爆風が放たれた。
天幕が吹き飛び、テルディス王を除く4人は飛ばされ地面を転がっていく。
マサライは地面に這いつくばりながら、テルディス王とオシマンが一言二言話をしているのを見つめる。
何を話しているのかは聞こえないが、次の瞬間、テルディス王が崩れ落ちた。
そして、オシマンの姿が消えた。
身体の重さがなくなったマサライと3人の将軍はテルディス王のもとへ駆け寄る。
テルディス王の胸には短剣が刺さっているが、血は出ていない。
まるで短剣と胸が一体化しているようだ。
テルディス王は息をしており、眠っている。
マサライ:「父上ぇぇぇーーーーー!!!!!」
マサライがどんなに叫んで、身体をゆすっても、テルディス王が目覚めることはなかった。
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長兄マサライ:「戦場は3人の将軍に任せて、少数の近衛兵と共に急遽、私は父上を連れ帰ったのだ」
僕とアツレクは黙って聞き入りながら、父を見つめる。
父の胸に刺さった短剣からは強い魔力を感じる。
きっと、抜けば、幻想世界への転移魔法は解かれ、目覚めるだろう。
しかし、抜き方がわからない。
長兄マサライ:「アツレク、マサヴェイ。二人にはそれぞれ軍を率いてオシマン討伐に向かってもらう。ムツート連合国の盟主シロンドルフ王家の者として使命を果たすのだ」
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僕が軍を率いると言っても、僕は旗印の役割として必要なだけだ。
実際には、アシテミール公爵がすべてやってくれる。
アシテミール公爵であるモードル・アシテミールは、テルディス王の第3王妃の兄。
僕の伯父である。
屈強な肉体に、馬上で風を受けてなお乱れぬカイゼル髭。
黒髪は後ろに撫でつけられ、額には深い皺が刻まれている。
鎧の上からでもわかる肩幅と、剣を握る手の節くれだった指が、彼の歴戦を物語る。
低く大きく響く声に、突き刺さる鋭い眼光。
ともかく迫力がすごい。
僕の軍に配属された兵士たちは口には出さないが、ぐーたらな僕に期待する者はいない。
モードルのおかげで、この軍の士気は保たれているのだ。
モードル:「マサヴェイ王子!」
行軍中の僕の横にモードルが大声と共にやってきた。
びっくりするから、もう少し声量を下げてほしいなぁと思いながら振り向く。
モードルは満面の笑みだ。
マサヴェイ:「伯父さん。どうしました?」
モードル:「いや、相変わらず素晴らしい漆黒の黒髪だなと思ってな。がっはっはっはっ」
マサヴェイ:「それはどうもありがとうございます。伯父さんの髪も髭もステキな黒ですよ」
モードルは、カイゼル髭を右手でピンピンさせるように触りながら嬉しそうにする。
黒髪、黒髭であることが自慢なのだ。
褒めると喜ぶ。
モードル:「マサヴェイ王子。アシテミール家といえば、黒髪なのだ。その黒が深ければ深いほどアシテミール家の秘められた力が宿っているということだ」
マサヴェイ:「はいはい、それですね。しかし、何が秘められているというのです?」
モードル:「がっはっはっはっ。この初陣で闘ってみればわかる」
マサヴェイ:「そうですね・・・その機会があれば・・・ですね・・・」
黒の戦姫と呼ばれるウレーナ・アシテミールが前方からこちらにやってくる姿が見える。
そろそろ3将軍の陣地に到着するようだ。
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