第3話「執事兼教育係ゴシファー」
第3話
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『入社2年目の俺は大好きRPGの世界で花嫁候補のツンデレ美女たちと無双する』の第4部にヴィオデスが登場します。そのヴィオデスがマサヴェイの中にいます。
ゴシファー・・・か・・・
執事として人間の風貌ではあるが、絶対に龍魔王に仕えていた七公爵のひとり、ゴシファーに違いない。
だって、僕の中の記憶にある魔族のゴシファーに顔が似ている。
ゴシファーが僕の執事になったことと、僕の中に龍魔王ヴィオデスが目覚めたことが無関係とは思えない。
タイミングが良すぎる。
でもまあ、それよりも、眠い。
ゴシファー:「マサヴェイ様、マサヴェイ様、マサヴェイ様」
マサヴェイ:「あっ、あ、あ、すまない。それでなんだっけ?」
ゴシファー:「いいですか、マサヴェイ様。算術はとても重要な学問です。将来、マサヴェイ様が領主となられたときにわかっていないといけないことのひとつです」
マサヴェイ:「ああ、わかっているって。でも、どうしても、眠くなるんだよね~。わかるでしょ」
ゴシファーは学問、剣術どちらも完璧だ。
本当は魔法も完璧だろうけど、今の世の中では、魔法ができることは隠しているのだろう。
いろいろと一生懸命に教えてくれるが、僕は興味がない。
いつも、ほどほどにゴシファーに付き合って、僕は時間が過ぎるのを待っている。
ゴシファー:「マサヴェイ様、マサヴェイ様、マサヴェイ様」
マサヴェイ:「あっ、ああ、聞いてるよ。それでなんだっけ?」
ゴシファー:「いいですかっ。もう一度説明しますよっ」
―――――「それでは、今日はここまでです。紅茶をお持ちしますね」
マサヴェイ:「ああ、ありがと」
僕はそう言うと、ソファーに深く腰掛け、読書の続きを再開する。
きっと、ゴシファーは僕の中にヴィオデスがいることを知っているのだろう。
そして、ヴィオデスが蘇るのを待っているのだろう。
ゴシファーに直接確認はしていないし、ゴシファーから聞いてもこない。
ただただ、僕の執事兼教育係として接してくる。
ゴシファーがソファーのサイドテーブルに紅茶をそっとおき、軽く一礼し、部屋をでていった。
僕はティーカップを手にする。
手の中で揺れるアップルティーは、琥珀色の液に静かに香りを滲ませながら、まるで記憶を呼び覚ます鍵のように甘く微笑む。
リンゴの皮をそっと煮詰めたような芳香が、部屋の静寂を満たしていく。
僕は一口飲み、琥珀色の紅茶を見つめたまま微かに眉をひそめた。
リンゴの甘い香りの奥底に、かすかな焦げた薬草の匂いと味が口の中に広がっていく。
手に持ったティーカップが、僕の意志とは無関係に微かに震え始める。
液体の表面に浮かぶ微細な泡が中央に集まり、やがて螺旋を描いてドラゴンの紋章を形作る。
次の瞬間。
空気が軋み、室内が一瞬だけ重く沈んだ。
見えない何かが、僕の意識に触れたかのように。
「・・・な、なんだ・・・?頭が・・・熱い・・・」
紅茶の香りが僕の記憶の奥底を叩く。
魔力が湧き上がる。
紅茶の液面がふわりと持ち上がり、宙に浮かぶ。
・・・・・・・・・・
奥行きがわからない真っ白な空間。
目の前には蒼く輝く透明のキューブ。
その中には、ヴィオデスがあぐらをかいて座っている。
ヴィオデス:「久しいのぉ。マサヴェイ」
マサヴェイ:「くっ・・・会いにきたわけじゃない」
僕は頭を右手でおさえながら応える。
頭が熱い。
ヴィオデス:「ふふふ。いつでも会いに来てよいのだぞ」
マサヴェイ:「・・・会いたくはない」
ヴィオデス:「ふふふ。それは残念であるな」
僕は頭を押さえながら、ヴィオデスをじっと見る。
マサヴェイ:「ゴシファーがあらわれた。何か知っているか?」
ヴィオデス:「ほほう。余は何も知らんぞ。そうか、あらわれたか。ふふふ。そうか」
僕は頭を押さえながら、ヴィオデスをじっと睨む。
ヴィオデス:「そんなに睨むでない。余は何も知らぬのだから」
マサヴェイ:「・・・まあ、今日のところはもういいよ。僕は帰るよ」
そう言うと、僕は目を閉じ、現実世界に向かって精神を飛ばすイメージを描く。
・・・・・・・・・・
目を開くと、宙に浮かんでいた紅茶が重力で落ち、ティーカップに戻る。
マサヴェイ:「ゴシファー」
静かだ。
マサヴェイ:「ゴシファー。いるんだろ。ゴシファー」
まだ静かだ。
マサヴェイ:「出てこい。ゴシファー」
ドアが静かに開き、ゴシファーの姿があらわれる。
マサヴェイ:「この紅茶はなんだ?」
ゴシファー:「アップルティーでございます」
マサヴェイ:「そうか。そうだな。他にいうことはないか?」
ゴシファー:「・・・そのアップルティーには薬草が少し入っています。・・・前の主が好きでした」
マサヴェイ:「なぜ、そのアップルティーを僕にだした?」
ゴシファー:「それは・・・マサヴェイ様の中にヴィオデス様がいらっしゃるからです」
マサヴェイ:「・・・そうか。気づいていたか」
ゴシファー:「・・・はい。ずっとお探ししておりました」
マサヴェイ:「でも、ヴィオデスが僕の中から出てくることはないよ」
ゴシファー:「それでもよいのです。おそばにいさせてください。私にとって、主は、マサヴェイ様でありヴィオデス様です」
そういうと、ゴシファーは深く深く一礼をした。
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