第26話「排除の想定理由」
第26話
ご愛読いただきありがとうございます。
ムツート連合国諜報機関・エドザー支部。
緊急連絡を受け、僕は眠気の残る頭を抱えながら扉を押し開けた。
ランプの光が揺れ、壁に貼られた地図の影が波打った。
コジン・サッド支部長は腕を組み、こちらを一瞥する。
アユナは無言で椅子を引き、僕を座らせた。
「来たか。状況は動いた」
コジンの声は低く、しかしどこか満足げでもあった。
コジン:「ムツート連合国とエドザー王国の対魔王での軍事同盟が正式に締結された。アツレク王子の成果だ」
アユナが淡々と読み上げる。
「・エドザーは魔石砲をムツートに提供
・エドザーのムツート方面軍は段階的に撤退
・ムツートは、国境地帯の管理権をエドザーに委ねる
・ムツートは“冥界の大森林”に関する最新の偵察情報を提供
・“冥界の大森林”への共同攻撃を行う
・共同作戦本部をダイヴァスに設置」
どれも軽い話ではない。
僕は思わず息を呑んだ。
長兄マサライの方針は、“ムツート連合国、エドザー王国、サマヴァー獣人王国の3国で対魔王での軍事同盟の締結をすること”だった。
しかし、次兄アツレクは“ムツート連合国、エドザー王国の2国で対魔王での軍事同盟で充分足り足りる”と判断したようだ。
このまま、2国で“冥界の大森林”への共同攻撃を実行するという方向性だ。
コジン:「アツレク王子は野心家だ。次期王の座を狙ってるのは明白。
マサライ王子の慎重な政治は“弱腰”に見えるんだろうな」
僕は苦笑した。
マサヴェイ:「僕のこともあからさまに嫌ってるしな・・・・・」
アユナ:「ぐーたらな第三王子で役立たず、って有名ですからね」
マサヴェイ:「役立たず・・・って・・・・・そこまで言われているのか・・・・・」
アユナの言葉は容赦ないが、悪意はない。
むしろ、僕の“仮面”がよく機能している証拠だと喜ぶべきことだ。
・・・・・・・・・・
コジンが机の上の地図を指で叩いた。
「ムツートには二つの派閥がある。
マサライ王子派とアツレク王子派。
だが――」
彼は僕を見据える。
「諜報機関はどちらにも属さない。
我々は“ムツートの存続”だけを見ている」
その言葉には、派閥争いを超えた重みがあった。
「ただ一つ気になることがある」
コジンが声を低くした。
「盟主代理のマサライ王子は“軍事同盟の交渉はあなたに任せる”と言っていた。
それを覆すような性格ではない。
だが実際にはアツレク王子に軍事を一任した」
コジンは深く息を吐き、椅子に腰を下ろした。
ランプの炎が揺れ、彼の影が長く伸びる。
コジン:「・・・・・マサライ王子が方針を変えた理由は、一つしか考えられない」
僕とアユナは息を呑んだ。
アユナ:「“理由”・・・・・?」
コジンはゆっくりと頷いた。
コジン:「マサヴェイ王子。
本来、軍事同盟の交渉はあなたに任せると、マサライ王子は明言していた。
それを覆すような方ではない」
マサヴェイ:「それは僕もそう思う・・・・・じゃあ、なぜ?」
コジン:「あなたを危険から遠ざけるためだ」
アユナが小さく目を見開く。
アユナ:「・・・・・守った、ということですか?」
コジン:「ああ。
今回の同盟交渉は、表向きは“協力”だが、
裏では各国の思惑がぶつかり合う“戦場”だ。
そこに、派閥に属さないあなたを出せば――
真っ先に狙われる」
僕は言葉を失った。
コジンは続けた。
コジン:「そして・・・・・アツレク王子にとって、マサヴェイ王子は“感情的に嫌い”というだけではない。
政治的にも邪魔な存在だ」
マサヴェイ:「邪魔・・・・・?」
アユナ:「アツレク王子は次期王を狙っている。
派閥に属さず、誰にも染まっていないマサヴェイ王子が成果をあげると、“第三の候補”になり得る。
だから排除したいのよ」
コジン:「つまり、脅威だ」
マサヴェイ:「僕が・・・脅威・・・・・?」
ランプの光がコジンの瞳に鋭く反射した。
コジン:「そう。アツレク王子は、マサヴェイ王子を“交渉役”から外すことで、
政治の表舞台から遠ざけたかった。
それが排除の第一歩だ」
アユナ:「・・・・・つまり、こういうこと?」
アユナは指を折りながら整理する。
アユナ:「マサライ王子は、マサヴェイ王子を守るために“外した”。
アツレク王子は、マサヴェイ王子を排除するために“外した”。
二人の意図は正反対だけど――
結果は同じ、“マサヴェイ王子は外された”。」
コジン:「その通りだ」
マサヴェイ:「・・・・・僕は、兄上たちの争いの“中心”にいるということか」
喉が乾き、心臓が早鐘を打つ。
ぐーたら王子の仮面の裏で、僕は静かに息を整えた。
コジンは静かに言った。
コジン:「だからこそ、マサヴェイ王子は学園で潜入を続けるべきだ。
表舞台から外された今こそ、“裏”から真実に近づける」
アユナ:「あなたが安全でいられる場所は、もう“王宮”じゃない。
むしろ、学園の方が自由に動けるわ」
僕はゆっくりと頷いた。
コジンは満足げに微笑んだ。
最後までお読みいただきありがとうございました。
気に入っていただけた方は、ぜひ、
・ブックマーク
・下の評価で5つ星
よろしくお願いいたしますm(__)m
つけてくれると、嬉しいです。




