第25話「エドザー王国 要塞都市ダイヴァス」
第25話
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グレた名門貴族の三男は、魔法の廃れた世界で、大魔導士の魔法の力をこっそり使い、世界を救う
第75話「エドザー王国 要塞都市ダイヴァス」も合わせてお楽しみください。
乾いた風が丘陵を越えて吹き抜けるたび、白い石壁が夕陽を反射し、都市ダイヴァスはまるで巨大な鏡のように輝いている。
城は都市の最も高い丘に築かれ、幾重にも重なる城壁は、まるで大地そのものが牙を剥いているかのようだ。
外壁は厚く、巨大な魔石砲台が規則正しく配置され、その一つひとつが「ここは国境の盾である」と語っているようだ。
黒い鉄の門は巨大で、夕暮れの光を吸い込んでいた。
門の上にはヒノーヴァー家の紋章――
二本の槍が交差し、その背後に昇る太陽が誇らしげに掲げられている。
ダイヴァスは、ただの都市ではない。
国境を守り続けてきた“壁”であり、そして今、歴史を動かす会談の舞台になる。
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アツレクは馬上で静かに息を整えながら、そびえるダイヴァスの城壁を見つめていた。
その瞳には、ただの外交使節としての使命だけではない、
もっと深い、もっと熱い光が宿っている。
――この同盟を成功させれば、長兄マサライを超えられる。
次期王の座は、俺のものだ。
ムツート連合国の盟主代理である長兄マサライは、慎重で、保守的で、そして“無難”な政治を好む男だ。
だがアツレクは違う。
彼は戦場を好み、血の匂いの中で「力ある者が国を導くべきだ」と学んだ。
そして今、魔王軍の脅威が迫るこの時代に必要なのは、兄のような守りではなく、自ら未来を切り開く“王の胆力”だと信じている。
だからこそ、この軍事同盟は彼にとって単なる外交ではない。
王位への階段となる。
アツレクの隣を歩く宰相ミツイル・ナンブノフ公爵は、王子の胸に燃える野心を理解していた。
だが彼は決してそれを表に出さない。
灰色の長髪を束ね、銀縁眼鏡の奥で冷静に状況を分析し続ける。
「殿下。この会談は、ムツート連合国の未来を左右します。
しかし、焦りは禁物です。
勝利とは、感情ではなく計算の果てにあるものです」
その声は冷たく、刃のように鋭い。
アツレクは一瞬だけ視線を向け、口元にわずかな笑みを浮かべた。
「わかっている、公爵。
だが、俺はただ“軍事同盟を結ぶ”だけでは満足しない。
エドザー王国に、俺の名を刻む。
この時代に必要なのは、兄ではなく――俺だと証明する」
ミツイルはその言葉に反論しなかった。
むしろ、王子の野心を利用し、国家の利益へと変換するのが彼の役目だ。
「殿下の名が歴史に刻まれるならば、それはムツート連合国にとっても利益となりましょう。
ただし――
そのためには、エドザー王国の弱みを見逃してはなりません」
アツレクは頷き、再び城壁を見上げた。
その瞳には、若さゆえの熱と、王を目指す者の冷たい決意が同時に宿っていた。
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1,000人の精鋭部隊を率いるアツレクは、堂々と城門前に進み出る。
その姿は、
“外交使節”というより、
“未来の王が他国の城を見定める”ような威厳を帯びていた。
城壁の上から見下ろすエドザー王国の兵士たちは、その若き王子の眼差しに、思わず息を呑んでいるようだ。
アツレクは馬上で宣言する。
「ムツート連合国、アツレク・シロンドルフ。
エドザー王国国王陛下との会談のため、参上した」
その声は、ただの外交儀礼ではなかった。
――これは、王位を掴むための第一声だ。
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