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第24話「置き去りの寂しさ」

第24話

ご愛読いただきありがとうございます。

ムツート連合国諜報機関・エドザー支部。


週に一度の報告のため、僕は眠気の残る頭を抱えながら扉を押し開けた。

室内にはすでに二人が待っていた。


赤褐色の髪を後ろで束ね、緑の狩人服を纏った男――

支部長コジン・サッドは、提出済みの報告書を片手に、無言で椅子を指さした。


アユナが立ち上がり、静かに椅子を引いてくれる。

僕は小さく礼を言って腰掛け、コジンの言葉を待った。


コジンは右手の人差し指をこめかみに当て、鋭い視線をこちらへ向ける。

その目は、獲物を値踏みする狩人のそれだった。

「任務1。

・・・・・魔道具発明家イネザベス・クスヴァリに接触し、技術の源を探ること。

これは――60点だ。


任務2。

・・・・・センナ王女、ムネルダ嬢、ミツルク閣下と自然な形で交友を深めること。

これは――5点」


僕は思わず微妙な顔をした。

アユナはすぐに気づき、口を開く。

「コジン支部長。王子殿下はよくやっていらっしゃると思います」

コジンは片眉を上げた。

「風の目はそう見るか。・・・・・興味深い意見だな」

アユナは不服そうに唇を結ぶ。

「ふはははは。王子殿下、ぐーたらと聞いていたが・・・・・まあ、それなりにはやれるようだな」

「そうか、それはよかった」

僕が肩をすくめると、アユナがすぐに続けた。

「王子殿下。任務1の成果は誇ってよろしいレベルです」

その言葉は、どこか誇らしげですらある。


コジンは後頭部をかきながら、苦笑した。

「やれやれ、言ってしまったか」

「私は、不当な評価が気に食わないだけです!」

アユナの声が少しだけ強くなる。


コジンは肩をすくめた。

「そうだな・・・・・王子殿下、任務1は素晴らしい成果だ。諜報能力については、認めざるを得ない」

その言葉は、皮肉ではなかった。

本物の評価だった。

「だが、任務2はいまいちだな」

アユナがすかさず反論する。

「平民設定では、王族や上級貴族と自然に仲良くなるのは難しいと思います」

「おいおい、どうした。いやに殿下を庇うではないか」

アユナの頬が赤く染まる。

「そ、そんなことありません! 事実を述べているだけです!」

コジンは喉の奥で笑い、僕を見た。

「王子殿下、どうですか。諜報員になりませんか?どうせ、王族としては将来はないのでしょう?」


アユナが息を呑む音が、部屋の静寂に鋭く響いた。


「な、なんて失礼な・・・!」

僕は静かに首を振った。

「ありがとう、アユナ。でも、それは事実だ」

その言葉が落ちた瞬間、室内の空気がわずかに揺れた。

コジンは「ほほう」と興味深そうに目を細める。


「それで、そういうからには、何かがあったのですね、コジン支部長」

僕が問いかけると、コジンは口角を上げた。

「ほほう、鋭いな。本当にぐーたらなのか、ははは」

軽口を叩きながらも、彼の目は笑っていない。

僕は先を促すように視線を送った。

コジンは報告書を机に置き、指先で軽く叩いた。

「――黎明の日。エドザー王国の知恵袋5名が、魔族に襲われた」

その声は、いつになく低かった。

「宰相ミツトー・フォン・キーバッハ……軽傷。

三賢セサス・タクィナス……死亡。

三賢カンベルトゥス・クロヌス……死亡。

三賢モジャー・モーリン……重症。

そして――魔道具発明者イネザベス・クスヴァリ……無傷」


アユナが小さく息を呑む。

僕の胸にも、冷たいものが落ちた。


「王子殿下はイネザベス・クスヴァリの近くにいたようですが・・・無事で何よりです」

コジンは淡々と言うが、その目は僕の反応を探っていた。

僕は拳を握りしめた。

あの時の光景が、脳裏にちらつく。

だが、コジンは続けた。

「この襲撃の直後、エドザー王国は態度を急変させた。

これまで頑なに拒んでいたムツート連合国の使節団を受け入れ、対魔王軍事同盟に前向きな姿勢を見せ始めた」

アユナが眉を寄せる。

「・・・・・暗殺事件が、引き金になったのですね」

「だろうな」

コジンは短く答えた。


「そしてもう一つ。ムツート連合国の使節団代表――

本来は王子殿下、あなたのはずだった」

僕は息を呑んだ。

「だが、代表はアツレク第2王子に変更された。宰相ミツイル・ナンブノフ公爵と共に、交渉にあたるそうだ」

その言葉は、僕の胸に重く沈んだ。

僕の知らないところで、決められている。

いったいムツートで・・・・・、いやマサライ長兄に何かがあったのだろうか。

コジンは僕の沈黙を見つめ、ゆっくりと腕を組んだ。

「王子殿下。あなたが“将来はない”ことを事実と言ったことは、

どうやら・・・・・あながち間違いではないらしい」


アユナが僕を見た。

その灰色の瞳には、これまで見たことのない色が宿っていた。

心配――そして、わずかな怒り。

僕は小さく息を吸い、視線を落とした。


事態が動いている。

僕の知らないところで。

僕を置き去りにしたまま。


胸の奥に、じわりと冷たいものが広がっていく。

ぐーたらとして生きてきた僕に、怒りは湧かなかった。

怒る資格なんて、そもそもないのだろう。

ただ――

静かに、ゆっくりと、寂しさだけが僕を包んでいく。

まるで、薄い霧が足元から立ち上がり、気づけば全身を覆ってしまうように。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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