第23話「漆黒の影の魔族ホルクス」
第23話
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研究室の空気が、まるで凍りついたように重く沈む。
ホルクスの漆黒の鎧が夕日の残光を吸い込み、赤い刃だけが獣のように光った。
「黒雷の龍剣士・・・・・貴様が立ちはだかるか」
低く響く声。
その一歩ごとに、床石が軋む。
僕は黒雷の大剣を構え、深く息を吸った。
胸元の黒龍のメダルが脈打ち、ヴィオデスの声が頭に響く。
「気を抜くなよ、マサヴェイ。こいつは格が違う」
「わかってる」
ホルクスが踏み込んだ瞬間、床が砕け散った。
その速度は、影が跳ねるように速い。
「斬り捨てる」
赤い刃が横薙ぎに走る。
僕は黒雷の大剣で受け止めたが――
「ぐっ・・・・・!」
腕が痺れ、足が床にめり込むほどの衝撃。
火花が散り、雷と闇がぶつかり合う。
「ほう・・・受けたか。ならば、次だ」
ホルクスの剣が連撃となって襲いかかる。
重い、速い、鋭い。
一撃でも受ければ、骨ごと断たれる。
僕は必死に受け流し、紙一重でかわし続け、反撃の機会を探す。
・・・・・・・・・・
「はぁっ!」
黒雷をまとわせた大剣を振り下ろす。
雷鳴のような衝撃が走り、床が裂ける。
だが――
「遅い」
ホルクスは影のように後退し、刃を弾いた。
反撃の蹴りが僕の腹にめり込み、体が宙を舞う。
「ぐっ・・・・・!」
壁に叩きつけられ、息が詰まる。
視界が揺れ、黒龍のマスクの奥で汗が流れた。
「マサヴェイ、まずいぞ!」
ヴィオデスの声が焦りを帯びる。
・・・・・・・・・・
ホルクスが剣を構え直す。
その刃が赤黒く脈動し、空気が震えた。
「終わりだ。――影断ち」
床に影が広がり、刃が吸い込まれるように消えた。
次の瞬間、僕の背後に殺気が走る。
(速い・・・・・!)
振り返る暇もない。
影から現れた刃が、僕の首を狙って迫る。
「マサヴェイッ!!」
ヴィオデスの叫び声が胸元から聞こえた瞬間、黒龍のメダルが強烈な光を放った。
稲妻が走り、僕の体を包む。
「黒雷――解放ッ!」
反射的に大剣を振り上げる。
雷光が尾を引き、影から飛び出したホルクスの刃と激突した。
「なに・・・・・!」
ホルクスの動きが一瞬止まる。
その隙を逃さず、僕は踏み込んだ。
「おおおおおおッ!!」
黒雷の大剣を振り抜く。
雷鳴が轟き、稲妻が研究室を白く染めた。
ホルクスも叫び、赤黒い刃を振り下ろす。
雷と影がぶつかり合い、爆発のような衝撃が走る。
床が砕け、壁がひび割れ、風圧が吹き荒れた。
そして――
「・・・・・っ!」
ホルクスの刃が折れた。
黒雷の大剣が彼の胸をとらえ、鎧を砕き、影の体を裂く。
ホルクスは膝をつき、黒い霧が漏れ出した。
「・・・・・黒雷の龍剣士・・・・・か。
なるほど・・・・・厄介な・・・・・存在だ・・・・・」
そのまま影の霧となって消えていく。
僕は大剣を支えにしながら、荒い息を吐いた。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・危なかった・・・」
ヴィオデスが
「お前、ほんとギリギリだな・・・」
と呆れた声を出す。
「・・・・・まあ、勝ったからいいだろ」
黒龍のマスクがゆっくりとほどけ、
漆黒の布が霧のように消えていく。
研究室には、夕日の残光と焦げた匂いが残っていた。
もう一つの魔族の気配も消えていた。
マクシムの姿に戻った僕は、気絶しているイネザベス先生に駆け寄る。
BBQをやっていた生徒たちも集まってきた。
僕はイネザベス先生の脈を確かめ、安堵の息をついた。
「・・・大丈夫だ。先生は無事だよ」
そう告げると、生徒たちの顔に安堵の色が広がる。
夕日の残光が窓から差し込み、散らばった破片を金色に照らした。
だが、胸ポケットのヴィオデスが小さくつぶやく。
「マサヴェイ・・・これは始まりにすぎないぞ」
その言葉に、僕は静かに息をのみ、研究室の奥へと視線を向けた。
焦げた匂いと、まだ消えきらない魔族の残滓があった。
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