第2話「シロンドルフ王家 第3王子マサヴェイ」
第2話
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『グレた名門貴族の三男は、魔法の廃れた世界で、大魔導士の魔法の力をこっそり使い、世界を救う』と並行して進むムツート連合国での出来事を書いています。
生まれたときから、私の頭の中には繰り返し流れてくる映像があった。
物心がついてきた頃、そのリアルで鮮明な映像は、誰かの記憶なのではないかと思うようになった。
5歳になって歴史を学ぶようになり、龍魔王ヴィオデスの記憶だと気づいた。
でもなぜ、その記憶が自分にあるのかはわからなかった。
7歳の夏。
庭の大きな木の下で横になって、真っ青な空を流れる真っ白な雲を見ていたら、突如と視界が真っ白になった。
奥行きがわからない真っ白な空間。
音もない。
目の前には漆黒のローブを纏い、フードからは口元だけがみえる男が立っている。
直感的にわかるのは、この空間は現実ではなく、自分自身の精神世界であるということだ。
そして、その男の口元には見覚えがある。
龍魔王ヴィオデス。
間違いなく彼だ。
彼の口元がニヤッと変化する。
フードローブの男:「ふふふ、ようやくこの時が来た」
マサヴェイ:「・・・」
フードローブの男:「どうした、わかっているのだろう?余が誰であるか」
僕は警戒を強めつつ、じっと男を見つめる。
マサヴェイ:「龍魔王ヴィオデス」
フードローブの男:「ふふふ、そうだ。余が龍魔王ヴィオデスである」
マサヴェイ:「何しに現れた?」
ヴィオデス:「ふふふ、愚問だな。わかっているのだろう?それも」
僕は唾を呑み込み、ゴクリという音が自分の中に響く。
ヴィオデスの口元はあやしくニッとなる。
マサヴェイ:「そうだな。でも、そうはさせないよ」
ヴィオデス:「お前の意思など関係ない。お前は余のものだ」
マサヴェイ:「いや。僕は僕のものだ」
「ふふふ」とあやしく微笑しながらヴィオデスが一歩一歩と近づいてくる。
僕は静かに目を閉じ、胸の奥に宿る記憶と痛みを呼び起こす。
指先から、淡い光がにじみ出す。
マサヴェイ:「封印のキューブよ、我の言葉に応えよ」
蒼く輝く透明な正方形の板が6枚現れる。
ヴィオデスの表情が一瞬歪む。
ヴィオデス:「チッ。まさか、魔法が使えるとはな。強大な魔力があるのは知っているが」
それは驚愕か、それとも怒りか。
マサヴェイ:「お前の魂は奥底に沈め!我が意思が、未来を選ぶーーーーー!!!!!」
マサヴェイの声が響き渡る。
6枚の板がヴィオデスの周りを高速で回り始める。
風が巻き起こり、光と影が交錯する。
その中心でヴィオデスの姿が、ゆっくりと呑まれていく。
ヴィオデス:「くっ。まあよかろう。いまはまだ、お前にその身体を預けておこう」
一瞬の強い光の後、蒼く輝く透明のキューブの中に、微笑しているヴィオデスがあぐらをかいて座っている。
僕はその場に膝をつき、意識を失った。
・・・・・・・・・・
目覚めるとそこは僕の部屋のベッドだった。
男:「マサヴェイ様。お目覚めですか」
僕は普段聞きなれない声の方に目をやる。
艶のある黒の燕尾服は、肩から背中にかけて美しいラインを描き、白のシャツが首元をきりりと引き締めている。
胸元には控えめな銀製の時計チェーンが垂れている。
手には白手袋をはめ、所作一つひとつに潔癖な美しさを宿している。
黒のウール素材のベストがシャツの純白を際立たせ、完璧な寸法で仕立てられたパンツは、脚の動きに合わせて音もなく揺れた。
靴は深い艶を放つ黒革、光を受けて床に静かな輝きを投げかける。
頭髪はきちんと撫でつけられ、こめかみから耳元にかけて丁寧に整えられている。
鼻筋の通った顔には、感情を乱さない冷静さがにじみでている。
なぜだか、直感的にこの人物に懐かしさを覚える。
男は淹れ立ての紅茶を手に、僕の傍に近づき、ベッドのサイドテーブルにティーカップを静かに置いた。
紅茶の湯気がふわりと立ちのぼり、部屋に柔らかなアールグレイの香りが広がる。
男は背筋を伸ばしたまま、片手を胸元に添えて、軽く一礼する。
顔には穏やかな微笑が浮かび、銀縁の眼鏡越しに、観察するようにこちらを見つめている。
マサヴェイ:「・・・・・」
警戒はしていないが、疑問の視線を男に向ける。
男:「これは失礼しました。マサヴェイ様専属の執事兼教育係となりましたゴシファーと申します。よろしくお願いいたします」
そう言うと、深く一礼をした。
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