第18話「イネザベス研究室」
第18話
ご愛読いただきありがとうございます。
僕は左手にペンとノートを握りしめ、右手でイネザベス研究室の扉をノックした。
「はーーーい」という声の後に、扉が開いた。
「何か御用かしら?」
とカコレットが笑顔で問いかけてくる。
マクシム:「は、はい。魔道具の勉強をさせていただきたく・・・・・」
カコレット:「あら、素晴らしいわね」
マクシム:「バースクチーズケーキに感動しまして・・・それで・・・センナ様に・・・この研究室で開発された魔道具だと・・・伺いまして・・・」
カコレット:「バースクチーズケーキ製造魔道具《焦げの祝福》のことね、ふふふ」
マクシム:「は、はい!そ、それです」
カコレット:「それで、お名前は?」
マクシム:「す、すみませーーーん・・・、3年Bクラスのマクシムといいます・・・」
カコレット:「マクシム。とりあえず、入って。自由に見学していいからね」
研究室に足を踏み入れた瞬間、ふわりと金属と薬品が混ざったような独特の匂いが鼻をくすぐった。
棚には大小さまざまな魔道具がぎっしりと並び、どれも淡い光を帯びて脈打つように輝いている。
「あちらがイネザベス先生。うちの研究室の頭脳よ」
カコレットが軽い調子で紹介すると、奥の机から白衣姿の女性が顔を上げた。
銀縁の眼鏡越しにこちらを見つめる瞳は鋭いが、どこか楽しげでもある。
「・・・新入りかしら?まあ、好きに見ていきなさい。壊さなければね」
それだけ言うと、イネザベス先生は再び机に向かい、魔道具の調整に戻った。
どうやら本当に“自由に見ていい”らしい。
カコレットは棚の前に立ち、指先でいくつかの魔道具を示しながら説明を始めた。
「まずこれ。魔力を光に変換する魔道具のコア部分。触るときは絶対に手袋をしてね。素手だと、ちょっとした火傷じゃ済まないから」
僕は慌ててノートを開き、ペンを走らせる。
――魔力→光に変換
――素手厳禁
マクシム:「えっと・・・、光なのに火傷するんですか?」
カコレット:「いい質問ね。この魔道具コアは魔力から光への変換効率が25%なの」
マクシム:「ううーーん・・・・・・・・・・、つまり・・・ロスした75%が熱に変わってしまうということ?・・・ですか?」
カコレット:「ほほほーーーん、素晴らしい、鋭いわ」
僕はノートに
――魔力から光への変換効率が25%
――ロス分の75%は熱に変わる
と追記した。
カコレット先生が拍手をすると、その音につられてイネザベス先生がやってくる。
「ノートを見せてくださいね」
といいながら、イネザベス先生が僕のノートを手にする。
その瞬間、イネザベス先生の顔が変化した
「この手触りは・・・」
そして、ひっくり返し、深い紺色のノートの表紙に小さく銀の紋章が刻まれていることを確認した。
「やはり、そうか・・・。蒼紋堂オリジナルのノートね。私も愛用しているわ。良い趣味しているわね~」
そして、次に僕の右手に握られたペンをじーーーっと見つめた。
イネザベス先生は僕のペンを手に取ると、光に透かすようにゆっくりと回した。
その横顔は、魔道具の構造を読み解くような集中の色を帯びている。
「・・・・・やっぱり、いいわね。パルカー工房の筆記具は“長く使われること”を前提に作られているの。軸の木材は十年以上寝かせた黒檀。湿度にも魔力にも強いわ」
先生はペン先を軽く紙に当て、すっと一文字だけ線を引いた。
その動きは驚くほど滑らかで、紙の上に音がほとんど残らない。
「書き味が軽いでしょう?鋼を極限まで薄く鍛えてあるから、紙の抵抗をほとんど感じないの。“思考がそのまま線になる”って言われる所以よ」
次に、先生はペンを持ち替え、重心を確かめるように指先で軽く揺らした。
「それに、この重量。見た目より重いけれど・・・・・手にしっくりくるでしょう?
重心が軸の中央より少し前に寄せてあって、長く書いても手首が疲れないの。
研究者が好む理由はそこね」
先生は満足げに頷き、ペンを僕に返した。
「パルカー工房のペンはね、書き手を選ぶの。
あなたの手に馴染んだのなら、それは“選ばれた”ってことよ。
大切にしなさい。これは一生ものだからね」
その言葉に、胸の奥がじんわり熱くなる。
アユナと選んだ一本が、こんなふうに評価されるなんて思ってもみなかった。
僕はそっとペンを握り直し、ノートの端に小さく書き込んだ。
――パルカー工房製ペン
――黒檀軸・鋼ペン先
――重心設計が絶妙
――イネザベス先生も愛用
書きながら、自然と口元が緩んでしまった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
気に入っていただけた方は、ぜひ、
・ブックマーク
・下の評価で5つ星
よろしくお願いいたしますm(__)m
つけてくれると、嬉しいです。




