第16話「仮面の任務“マクシム”」
第16話
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いよいよマサヴェイとトシードが出会います。
グレた名門貴族の三男は、魔法の廃れた世界で、大魔導士の魔法の力をこっそり使い、世界を救う 第67話「平民マクシム」もあわせてお楽しみください。
ムツート連合国諜報機関・エドザー支部
王都の裏路地に埋もれるように建つ石造りの建物は、外見こそ古びた書庫だが、内部は魔道具による結界と防音が張り巡らされた、連合国の“目”と“耳”の拠点だ。
僕は、眠そうな顔で扉を押し開けた。
中には、すでに二人の諜報員が待っていた。
・支部長 コジン・サッド
赤褐色の髪を後ろで束ね、緑の狩人服に身を包んだ男。
背には黒銀の弓と細身の剣を携え、鋭い目元には年輪のような皺が刻まれている。
エドザー王国の「五剣」の一人に数えられるほどの実力者だ。
性格は冷静沈着、だが王族に対しては遠慮がない。
特に遊び半分で来たぐーたら王子には、露骨な嫌悪を隠そうともしない。
「ようこそ、王子殿下。お忍びの“ごっこ遊び”は楽しいかね?」
コジンは皮肉たっぷりに言い放った。
僕は椅子に腰掛け、肩をすくめた。
「まあまあ。遊びって言われると、ちょっとやる気出るかも」
その瞬間、隣に立つ少女の瞳が冷たく光った。
・諜報員 アユナ・モーガスキー
栗色の髪を肩で切り揃え、深い青の服に身を包んだ女性。
灰色の瞳は霧の中からすべてを見通すような静けさを湛え、動きも言葉も無駄がない。
「風の目」と呼ばれる彼女は、父ヨシアン譲りの観察力と冷徹さを持ち、すでに学園に潜入している。
僕に対しては敬語を使うが、その目には「使えない」「期待していない」という冷たい光が宿っている。
「王子殿下が、任務に“興味”を持ってくださるだけでも、ありがたいことです」
その言葉は丁寧だが、明らかに刺がある。
コジンが資料を机に叩きつけるように置いた。
「任務は三つ。まず、魔道具発明家イネザベス・クスヴァリに接触し、彼女の技術の源を探ること。
次に、センナ王女、ムネルダ嬢、ミツルク閣下と自然な形で交友を深めること。
そして最後に――ぐーたらを封印して、少しは“使える”人間に見せかけることだ」
僕はため息をつきながら、資料を受け取った。
「じゃあ、頑張って、仮面の生活、始めますか」
アユナの瞳がわずかに細められた。
それは、ほんの少しだけ、僕に“興味”を持った証か、あるいは、失敗を見届ける準備かもしれない。
・・・・・・・・・・
王立学園のカフェテリア
僕の前には、二つの奇跡が並んでいる。
・食べるバースクチーズケーキ:外は香ばしく、中はとろけるような濃厚さ。
・飲むバースクチーズケーキ:液体なのに、舌の上でケーキの記憶が蘇る。
そのあまりの美味しさに、僕の中では驚きと感動がグルグルと渦巻いていた。
ミッション? 任務? そんなものは一瞬、脳の片隅に追いやられていた。
「ちょっとっ、しっかりして」とアユナの小声が、僕を現実に引き戻す。
学園では平民同士の同級生だから、敬語ではない。
マサヴェイ:「あ、ああ。あまりに美味しいから気を失いそうになった」
アユナ:「それは否定しないけど。いまはダメよ、マクシム」
マサヴェイ:「あ、ああ、そうだった。学園ではマクシムだな」
アユナ:「そうよ、しっかりして。あそこよ、見て」
彼女が顎で示した先には、予習通りの3人がいた。
センナ・フォン・エドザー:エドザー王家の第3王女。気品と柔らかさを併せ持つ微笑み。
ムネルダ・フォン・キーバッハ:キーバッハ公爵家の次女。華やかで、どこか挑発的な眼差し。
トシード・フォン・エチゼルト:エチゼルト伯爵家の三男。地味。
「行くわよっ!」
アユナの声に、僕は飲みかけの“飲むチーズケーキ”を慌てて置いた。
・・・・・・・・・・
「――あのー、少しいいですか?」
アユナの声は、いつもより少しだけ柔らかかった。
「はい。アユナさん、お久しぶりですね」
センナ王女の声は、心地よい風のように優しい。
アユナ:「覚えていただいており光栄です」
アユナ:「バースクチーズケーキがとても美味しくて。ぜひ、この感動をお伝えしたくと思いまして」
センナ:「それはありがとうございます。喜んでいただいて嬉しいですわ」
アユナが僕の腕をツンツンしてくる。
僕は慌てて一歩前に出る。
マクシム(マサヴェイ):「あ、ど、どうも・・・」
アユナ:「センナ様。こちらはマクシムといいます。バースクチーズケーキに感動して、どうしてもお礼がしたいといいまして」
僕は笑顔で一礼する。
センナ:「マクシムさん。お褒めいただき光栄ですわ」
ムネルダ:「ふふっ、そんなに美味しかったのね。嬉しいわ」
マクシム:「・・・・・はい。なんというか、心がほどけるような味で・・・・・」
そのやり取りの間、僕の視線はふと、紅茶を静かに啜るトシードに向かっていた。
彼は一言も発さず、ただ静かに、しかし丁寧に紅茶を味わっていた。
その姿に、なぜか僕は惹かれた。
言葉ではなく、沈黙の中にある何か。
このあと、彼とは友達になるのだろう――そんな予感が、胸の奥で静かに灯った。
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