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第11話「モードル・アシテミール公爵の意思」

第11話

ご愛読いただきありがとうございます。

今日は有休なので、書いてます。

突如として、空気がサァァァーーーと凍りついた。


ウレーナ・アシテミールの前に、黒煙を纏った巨影が現れたのだ。

魔族軍の中心に潜んでいた“それ”は、まるで戦場の鼓動を見計らったかのように、静かに、しかし確実に姿を現した。


その存在は重力すら歪めるような圧力を放ち、周囲の兵士たちが思わず後ずさる。


だが、ウレーナは一歩も退かない。

黒の戦姫は、剣を構え、視線を逸らさずにその巨影を見据えた。


次の瞬間——

風が鳴った。

否、風ではない。

空間そのものが裂けたのだ。

閃光のような一閃が走り、ウレーナの左足が宙を舞った。

血が噴き出すよりも早く、彼女の身体が傾く。

地面が彼女を受け止める音が、戦場の喧騒の中で異様に静かに響いた。


兵士たちが叫ぶ。

モードル公爵が咆哮する。

だが、ウレーナは声を上げない。

ただ、唇を噛み、剣を地に突き立てて、立ち上がろうとする。

その瞳は、なおも闘志を宿していた。


・・・・・・・・・・


“それ”は、エゾモン72柱のひとり、アンレブン。


その身は、夜空を凝縮したかのような深い藍黒の外套に包まれている。

布地は常に揺らめき、まるで星々の残光がそこに宿っているかのように微かに輝く。

肩から背にかけては、羽根とも煙ともつかぬ漆黒の霧が漂い、見る者の視線を惑わせる。

顔は人のようでありながら、どこか異形。

左右非対称の瞳は、片方が銀色に輝き、もう片方は深紅に燃えている。

頭部には、螺旋を描くような角が一本、右側から斜めに伸びている。

腕は長く、指先は細く鋭い。

爪は金属のように硬質で、振るえば空気を裂く音がする。

脚は人型だが、膝下からは獣のような逆関節を持ち、地面を踏むたびに黒い痕が残る。

その全身から放たれる気配は、知性と狂気が混ざり合っている。


アンレブンの指先が、静かに空を裂き、漆黒の霧が螺旋を描き、空間が歪む。

その一閃がウレーナの左足を奪ったのだ。


・・・・・・・・・・


剣を支えに立ち上がろうとするが、左足の喪失がウレーナの動きを鈍らせる。

アンレブンの瞳が、銀と紅に輝きながらウレーナを見下ろす。

「終わりだ、戦姫」

その声が響いた瞬間、空気が震えた。

アンレブンの腕が振り下ろされる。

空間が裂け、死の爪がウレーナを貫こうとした——その刹那。


「ウレーナァッ!!」

雷鳴のような咆哮とともに、モードル・アシテミール公爵が割って入った。

彼の巨躯が黒霧を突き破り、盾を構えた腕がアンレブンの一撃を真正面から受け止める。

衝撃が走る。

地面が裂け、風が爆ぜる。

モードルの盾が軋み、彼の足元が沈む。

だが、彼は退かない。

その瞳は炎のように燃え、威圧する魔の存在を睨み返す。

「我が娘に触れるな、魔物っ!!」


アンレブンは不敵な笑みを浮かべると、そのまま力を込めて死の爪を押し込む。

それは空間を断ち切るような鋭さで、モードルの盾を貫く。

次の瞬間、死の爪はモードルの左肩から胸元へと深々と斬り込まれる。

血が噴き出し、甲冑が軋む。

だが、モードルは倒れなかった。

「ぐっ・・・・・!」

呻きとともに、彼は右腕を振り上げ、その死の爪を素手で掴んだ。

指先が裂け、掌が焼けるような痛みに包まれる。

だが、その手は離さない。

アンレブンの爪が震え、魔の力が唸りを上げる。


両者は静止した。

戦場の喧騒が遠のく。

風が止まり、兵士たちの動きが凍る。

ただ、モードルとアンレブンだけが、互いの眼を見据え、沈黙の中で火花を散らす。

「・・・・・この程度で、・・・・・我が娘を奪えると思うなよ」

モードルの声は低く、血に濡れながらも、威厳に満ちている。


沈黙の中、アンレブンは爪を掴むモードルを見下ろしていた。

「見事だ、人よ。恐怖を超え、死を掴むその手——称賛に値する」

その声は冷たくも、どこか敬意を含んでいた。

だが、次の言葉は容赦なかった。

「だが、それでは私を止めるには足りぬ」

アンレブンの身体が微かに揺れた。

爪に宿る魔力が再び唸りを上げ、空間が震える。

モードルの右手が焼けるように軋み、血が滴る。

だが彼は離さない。

その瞳は、最後まで娘を守る意志に満ちていた。

そして——

アンレブンの爪が、再び振るわれた。

今度は、迷いも、静止もなかった。

一閃の軌跡が空を裂き、モードルの身体を肩から腰へと、真っ二つに断ち切った。

血が舞い、甲冑が砕け、地面がその重みを受け止める。


ウレーナの瞳が見開かれ、兵士たちの叫びが遠くに響く。

だが、アンレブンはただ静かに、切り裂かれたモードルの前に立ちはだかっている。

「英雄とは、こうして記憶に刻まれる」

その言葉は、哀悼か、嘲笑か——誰にも分からなかった。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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