冒険の始まり
約300年前、意識のない怪物たちが突如として地球に現れた。
彼らは人間を無差別に喰らい、文明は崩壊の危機に瀕した。
人類のごく一部だけが生き延び、世界の隅々に身を隠してかろうじて命を繋いだ。
当時、人類は通常の兵器が有効かどうかさえ判断できなかった。
なぜなら、怪物たちは肉眼ではまったく見えなかったからだ。
戦うことすら不可能に思われたその状況を変えたのは、一人の科学者による画期的な発明だった。
その名も「ペア」。
特殊なレンズを持つ電動ゴーグルで、それをかけることで怪物たちの姿が見えるようになった。
そして初めて、人間の武器が彼らにダメージを与えていたことが確認された。
もっとも、その皮膚は鋼鉄のように硬く、巨体もあいまって脅威は依然として大きかった。
それでも、人類は少しずつ反撃を開始し、かつての領土を取り戻し始めた。
警察や軍隊は姿を消し、新たに専門のハンター組織が台頭した。
この戦いの最前線に立ち、怪物「ジ・エンド」と対峙する者たち。
彼らこそが「ハンカー」と呼ばれる戦士たちだった。
時は流れ、2625年――
科学とテクノロジーによって支配される社会においても、死の影はなお潜んでいる。
人々が平和な日常を過ごせるのは、ハンカーの存在があってこそだった。
そんな中、一人の14歳の少年、ウィリアム・フロストは、
静かに、そしてどこか緊張した面持ちでハンカーセンターへと足を進めていた。
今日が、彼にとって人生初の任務の始まりだった。
彼はこれまで何度もハンカーになるための試験に挑戦していた。
筆記では常に高得点を叩き出していたが、実技になるとまったく結果が出せず、
その評価はいつも最下位レベルだった。
どれだけ戦闘能力に自信があっても、なぜか合格できなかった。
何か隠された試験があるのではないか――そんな疑念すら抱くようになっていた。
センターに到着したウィリアムは、広々とした待機室に案内された。
その巨大な建築に思わず見とれていたが、やがて沈黙の中で考え始めた。
「ここまで来たのに…結局俺は、DRってわけか…」
DR――正式には「ディベロッパー&リペアラー」。
ハンカーの支援を専門とする、科学職のハンターである。
彼らは戦闘には参加せず、主に装備や兵器の設計・開発・整備を担う。
「要するに、ハンカーの下働きか…」
そう呟いたとき、館内放送が流れた。
「ウィリアム様、B4室へお越しください」
自動音声のような無機質な声だった。
「B4室…多分、配属決定の場所だな。よし、行くか」
B4室に入ると、そこには複数のハンカーたちがテーブル越しに座っており、
それぞれが新任のDR候補を観察していた。
ウィリアムも無言で着席した。
「ようこそ、ウィリアムさん。お待ちしていましたわ」
そう声をかけたのは、今回の配属式を仕切るローズ女史だった。
その時、あるハンカーが不機嫌そうに足を机に乗せ、鼻で笑った。
「なんだお前? DRのくせにハンカー様を待たせるつもりかよ?」
ウィリアムは沈黙を保った。
「ほら、黙ってんじゃねぇよ! お前ら新米DRなんてアリみたいなもんだ。俺様の靴で潰せるんだぜ?」
その横で、別のハンカーが大きなあくびをしながら頭をかいた。
「うるせぇ…夢見てたのに起こしやがって。
てめぇが喋るたびに、頭痛くなるわ。てか、お前も新入りだろ? お互いゴミってわけだ」
挑発されたハンカーは椅子から立ち上がり、怒鳴りながら近づいた。
「テメェ…誰に口聞いてんのか分かってんのか!? 俺はランキング2位なんだぞ!」
だが、相手は既に再び寝息を立てていた。
「無視された…これじゃ俺がダサいじゃねぇか。よし…
わざと物を落として拾うフリして座る。俺って天才!」
その時、部屋の扉が勢いよく開いた。
堂々たる風格の男性が現れる。
副センター長にして将軍――ホランドだった。
「遅れてすまん。始めていいか?」
「ちょうど一時間の遅刻です、将軍」
「一時間? 俺にしては上出来だな。じゃ、始めようか」