(二章)
テーマ:小説
卒業式も無事に終りその日の午後、
薫に連れられて行った場所はカラオケボックスだった。
俺は連日に亘り、薫の歌を聞かされる羽目になってしまい、
誰でも良いから交代してもらいたいもんだ!
けしてけなす意味ではなく、
『下手くそ』とか『音痴』ではなく、逆に『上手いすぎる』の方だ。
然し嫌がる要素は何処にも無いように聞こえるが、
実は薫の歌声はめちゃめちゃハスキーなのだ!
考えもらいたい、何時間もの間、
密室の中ハスキートーンを聞かされた日には
頭が狂いそうに成るのは目に見えている!
もしハスキー好きの人がいるならいつでも紹介するのだが…。
5時間もの間、唄い続けた揚げ句、薫の顔は疲れはてて、
いかにも長蛇の中に立たされ、
ようやく順番が廻って来た手前で「sould out」になり崩れ落ちた面だった。
その後、薫と別れ黄昏に染まる家路を歩んで
ふと女子生徒から渡されたメモ用紙の存在に気付き、
ポケットからメモを取出すと、暫し凝視した。
「今夜9時、駅前のロータリーで待ってます。 篠原」
まさか、デートのお誘いかな?俺は時間を確認すると8時半を回っていた。
俺は慌てて駅へと向かった。
ギリギリ5分前に着いたのだが、
既に篠原がベンチにちょこんと坐って待っていた。
当たり前と言えばそうなるが
「待たして悪い」
「そうでも無い」
「ところでこんな時間に呼び出すって…急ぎの用か?」
「私と一緒に行ってもらいたい場所が在る」
「何処に?」
「ついて来て」
それ以降の返答は無かった。
俺は少し躊躇しながらも篠原と駅前からタクシーに乗り郊外へと向かった。
目的地に着くとこれまた見覚えのある姿が
こちらに気づき会釈している様に見えたのは俺の気のせいか
そいつは和泉だった。
あいつだったら気軽に電話でもして来るはずだが、
篠原をパシリに使って俺に何の用だろう
「よう、どうした死人でも見たような面して、何か有ったか?」
「あぁ、ちょっとな」
「何だよ呼び出しといて…。」
「実はお前に頼みが有ってな…。」
「何だ」
「ついて来い」
今度は何処に行くのかな!
黙って付いて行くとそこは自動車整備工場だった。
此処で何をする気だ!俺に整備士にでもなれというのか?
「悠一は車に興味在るか?」
「嫌いではないが、何でだ?」
「じゃあこれを転がしてみないか?」
と言いながらシートカバーを剥いだ物は当然だが車に決まってる。
それ以外の何物でもないはずだ!
「これをどうしようと云うんだ?」狼狽えながら俺は問い質すと、
無表情のまま口を開いたのは篠原だ。
「貴方の為にこの車種を選択した。」
そんな事言われても俺は無免愚か免許を取得出来る歳ではないのだ!
確かに車種は俺が好きな奴でそこそこ弄ってる様だったが…。
そんな事を夢想していると、突然轟音が鳴り響き、
咄嗟に振り返ると和泉達は車の鍵を開け乗り込むところだった!
「おいッ、ちょっと何やってるんだ!」
俺は慌てて車に近寄り降りるよう促すが、
聞くはずもなく俺も渋々同乗する羽目になっちまった!
何が有っても俺は知らん…。