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第6話 「登校、友人?」

9月半ば。涼しくなってきた世界を背に、学校へ向かう。

彼女、マユさんの住んでいた場所はこじんまりとした山の麓だ。

恐らくここから高校までだと、歩いて30分くらい、絶妙に遠い場所だ。

こんな場所にご飯屋があって誰か来るのだろうか。


「こんな場所でご飯屋さんって、誰か来るの?」


「それ、私じゃなくておじさんに言ってよね」


ああいつもの奴ね、みたいな感じで彼女は作業的に質問に答える。

歩きながら背後を見やる。

吸血鬼は日光に弱いと聞いた事があるが、3人は普通に道を歩いていた。しかもご丁寧に全員うちの高校の制服に着替えている。恐るべし偽装力だ。

レイジの目に日差しが刺さり眩しそうにしているのをレイラが背伸びをし、黒い薔薇が描かれた日傘で防ぐ。


「普通に外歩けるんだね・・・」


「ああいう本に書かれてんのは全部ウソ。人が俺達を恐れてそういう設定作って、安心感を得てるだけだ。大体心臓を杭で刺すって、誰だって死ぬだろ。誰だって聖水かけられたらビビるし、にんにく出されてもビビるだろ」


海斗はそう腕を組みながら、人を馬鹿にするように笑う。

まあ、確かに海斗が例に挙げた物はどれも頷ける。


「そういえば三人はどういう関係?男子二人で女を狙う三角関係とか辞めてよね」


冗談めかしたマユさんの言葉。

それに対し、レイラの銀の目が少し揺れる。


「俺とレイラ、ここは兄妹」


日傘をもういいよ、と直すようジェスチャーしつつ紹介を始める。


「いえ、お兄様は私の将来の旦那です」


「・・・」


別の意味で拗れた関係性かもしれない。


「そして海斗は俺の幼馴染。一緒に仲良く皇族育ちだ。彼は分家の家系だがな」


「悪友、だろ。お前はいつも堅いな」


海斗。

顔に仮面を付け、コート、ジーパンと厳つさを感じていたが案外気の良い人間、いや、吸血鬼なのかもしれない。


そうこうしている内に、学校への長い坂道が見えてきた。

他愛の無い雑談だけでも時間はあっという間に経つ。

そう感じられたのは、かなり久しぶりだった。


「なんか、こういうの良いね。えーっと君の名前何だっけ」


「朝霧誠」


「そそ、朝霧君。私友達って久しぶりだからなぁ」


それは、俺もまたそうだ。

自然と誰かと深く関わらない道を選んでいた。

小学生低学年の時に、友達と離れる時に凄く悲しかった。

その時の気持ちが今も尚尾を引いている。

今のクラスでも、同級生達と当たり障りの無い会話しか出来ない。


でも今は少し周りに人がいて悪い気がしない。それは、いい事だと思う。


「俺も、久しぶりかも」


「私達も、お友達を作りに!」


レイラの一声。

彼女の左手には、黒い目のような穴が浮かび始める。

そしてそこから、ぞぶぞぶと音を鳴らし瘴気のような物が学校に向けて流れる。


「俺達を一般生徒と思うよう認識改竄ガスを発射する。聖職者にはバレるだろうが話せばきっと、仲良くなれるさ」


「・・・それは少々、破天荒すぎない?」


僅かに感じる、若いが故の破天荒さへの不安。

だが僕はそれに目を瞑る。きっと、彼らも年頃なりに学校で青春したいのだ。

それが平和に繋がるかもしれないのなら。


「でも俺達手続きとか出来ないし。こっちの方が手っ取り早くね。身分証無いからな」


言い分としては正しい。身分が証明できなければ、この世界ではほぼ何も出来ないに等しい。改竄に頼るのも無理は無い。


「いざゆかん、まだ見ぬ大海原ってな」


海斗の仮面の電飾が、喜んでいるかのようにチカチカと光っていた。




 信牙高校に着く。

校舎に向かうも、僕達一行を誰も気に留めない。

特に海斗。仮面が目立つ筈なのに、絶大な効果だ。


「な?」


海斗が周囲の生徒を指差す。

何の「な?」か。


そして自分の教室、2−D組に着く。


「じゃあ、ウチ別のクラスだから」


マユさんが名残惜しそうに僕らから離れる。


「そんなに無理して学校来なくても良かったんじゃない?」


「いや、他のクラスに友達がいるってだけでも違うんだよ」


そう言って、二つ奥のクラス。2−Bに入っていった。

僕も自分の教室へ入る。


「これが人間の学校か・・・」


レイジが呟く。

そんな事言ってしまったら、学校に馴染む為の改竄の意味も無くなるのでは?

然し彼の言う改竄とは、どのように作用しているのだろう。


「お、レイジか」


一人のクラスメイトが話しかけてくる。


「学校までの道とか慣れたか?ここ、坂道がヤバいからな」


「中々大変だが、運動不足解消にはなるよ。それにレイラのリハビリにもなる」


「レイジの妹さん、可愛いよな・・・あの銀の髪と目が心の奥底を唆るような・・・」


恐らく、転校生設定になっているようだ。

吸血鬼が人智を超えた存在とはいえ、そんな事が容易く行われるとは・・・

全く恐ろしい。


「そういえば近くで死体、また見つかったらしいよ。気付けろよな」


そのクラスメイトはスマホをレイジにかざす。

「真相不明の事件の頻発」という記事名。

青いテープで、電柱の周囲が覆われている画像が現れていた。

しかも、場所は丁度坂道の麓。

もしかすれば、この学校に吸血鬼が近付いてきている?


僕はそれを横目に自分の席へ向かう。

その最中、近くの席で座る九条と目が合う。


「・・・君にも友達みたいな人がいたんだね」


「いた、って、ずっと見てたみたいな口ぶり」


「そうかもね」


彼女はただ淡々とそう答え、視線をレイジへ映していった。

真意は分からないが、友達の存在を疑問視された言葉に、心が少し痛む。

そうしている内にレイジ達はさり気なく、僕の近くの空いている席に座ってくる。


「そこ、全部他の人の席だけど」


軽く突っ込む。


「今日いないなら、いない人って事だ」


海斗がそう、何を言いたいのか絶妙に分からない言葉を宣言する。


「ねえ」


と九条が突然レイジの方を向き、何やら視線を飛ばし始める。

暫しの沈黙。彼女とレイジの間の改竄はどういう設定になっているんだ?


「まあ、仲良くしてくれると嬉しいな」


「・・・取り敢えずは、ね」


???

視線のやり場に困り、教室を見回す。

僕の座る机の列の一番手前、眼鏡をかけた男子。確か名前は霧崎暁。珍しい名前だから覚えている。いや、2年目で同級生の名を覚えていないのがおかしいのだが。

そんな彼が、吸血鬼組をジッと睨んでいるように見えた。


予鈴の鐘が鳴る。


「自分がヒーローだったらこの事件も何とか出来るんだけどなぁ」


そう突拍子も無い事を言いつつ、家の担任の坂本先生が入ってくる。

背と顎が少し長くほぼ新任教師なくらいで、特に特徴のない先生。

重度の厨二病が入っている事以外は。


「巷では吸血鬼騒ぎがニュース出てるけど、みんな吸血鬼の弱点って知ってるか?聖水とか十字架って実は効かないんだ。じゃあ何が効くかって?それは祈りの力が籠もった物。五寸釘とかさ、呪いをこめるのあるじゃん?それと同じだね。祈りがこめられた武器は聖別武装って言って、それなら太刀打ちできる。もしもクラスの中に鬼が混ざっていても、ね」


「先生なに言ってんの?」

と一人の生徒が茶化す。

僕達は茶化せなくて、暫く空気が凍りついた。

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