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第5話 「ご飯は何を?」

 「じゃあ、纏めれば悪い吸血鬼をとっちめて、人に信用されたいと」


「そうだ」


「そして僕に結婚相手を探せと」


「そうだ。人を殺さず吸血鬼にする方法は血の口移し。然しそれは相手が俺達を受け入れないと弾かれる。血とは体液、そして心の温もり。それが体の中で溶け合った時、相手は吸血鬼となる。生まれた子供もまた同様、その因子を受け継ぐ」


案外ロマンチシズムな増やし方だな、とふと思う。

そういう意味では、人間が家族を作っていく過程とあまり変わらない。


「こっちの結婚とかとあんまり変わらないんだね」


そう言うと、トレンチコートの男、断海斗が言葉をこちらに投げる。


「だが大抵の人間は俺達の正体をいつか知る。大体血の口移しなんて明らかに人間から見ればヤバいだろ」


「私は寧ろお兄様とそういう事、したいんですが」


「人間を使って仲間を増やす以上人間に合わせるしかねえだろ。それに親族でそういう事やるのNG」


「ぐぬぬぬ・・・」


狼狽えるレイラ。それを横目に、海斗は僕に指を差す。

彼の手は少しだけ紫色に変色していた。僕のさっきまでの腕のように、彼の腕も鬼化しているのだろうか。


「そこで、普通の人間としての生殖行為が可能なお前は格別にそういうのに丁度いい存在ってわけ」


「でも、僕人と話すのそんなに得意じゃないし」


「誠、期待しているぞ」


そんな物は無視され、とんでもない責務を押し付けられた。

これでは、僕が誰かと愛しあわないと吸血鬼の未来は閉ざされるようなものじゃないか。




「あの〜」


苛立たしげな低い声が部屋の隅から発せられる。


「もう朝だってのにいつまで騒がしくしてるんですか?」


唸るマユさん。時計の針は、既に午前5時半になっていた。


「学校行く時にもう出ていくよ、ありがとう。色々と」


今日も学校だ。そのついでにあの家ではない家へ帰ろう。


すると、


「高校どこ?」


ぶっきらぼうに問われる。


「信牙高校」


「また一緒じゃん」


ぶっきらぼうに言われる。


「折角だし、学校。行ってみようかな」


「折角だし?」


「私、殆ど不登校だから。体があんまり強くないから、だからここの店主のおじさんの代わりに店番して今体力を付けてる。・・・あと、友達もあんまりいないしね。今2年の2学期始まりだし、行きにくいでしょ」


さっきまであんなに強気だったのに、口を開く度にどんどんしおらしくなっていく。

体もどんどん縮んでいっている気がした。それにしてもまさか不登校だったとは。

じゃあ、気が強く振る舞っていたのもそう思わせない為?


「友達・・・」


僕もあまりいない。いや、作らないようにしてきた。別れが必ず来るから。


「そういう事なら丁度いいな。俺達も生徒としてその高校へ乗り込む。人の暮らしに紛れ込んではおきたいからな。後、いつ吸血鬼や聖職者が現れるか分からない。すぐ連携を取れるよう集合できる拠点をここにしよう」


え?


「だがどうやって紛れ込むんだ?俺は顔半分機械仮面だぜ」


「レイラ。お前の力で、俺達が最初からいたように学校の認識を改竄してくれ。聖職者が校内にいた場合感づかれるが、俺達のもう一つの目的は彼らとの友好関係だ。問題は無い」


「分かりました、お兄様」


「あの・・・?」


「制服は既に偽装用に用意してある」


「あの、ウチにみんなずっといるって事?」


「俺達家ないし、丁度いいんじゃないの?」


彼らの間で、この家に居続ける話が立ち始めている。


「誠。お前にも俺達から離れずにいて欲しいんだが、行けるか?」


俺も?


「もう〜〜!じゃあ吸血鬼でも何でもいいから全員私の店手伝って!!それが条件!それで良いね?」


彼女の頭は、最早爆発していた。

然し、目の中に煌めく僅かな笑み。

友達がいないって言っていたから、嬉しいのかもしれない。


「感謝する」


とレイジはマユさんに礼をする。


それに答えるように、


「朝ご飯」


と彼女はキッチンへ駆けていった。



「良い人間に行き逢えたな」


「ああ。まだ俺達を恐れない人間がいたとは」


「ちゃんと話したら多分みんな分かってくれますよ、お兄様」


一同、ボケーっとマユさんの後姿を惚気ながら眺めている。


「でも、今のレイジを恐がる人間っているの?正体さえ隠せばやっていけそうな気がするんだけど」


外見を見る分には全く問題ないのだ。


「いや、長く先を見ればだ。俺達が唯一食えるのは人の血。人間の食事と同じで、血を吸わないと命を保てない。人に血を吸わせて〜!、なんてまず言えない訳だ。それに、聖職者は俺達が近くにいれば感じ取れる。吸血鬼同士は自身の体内に含まれる因子細胞で互いの場所を把握できる。だから、誠を助けられたわけだ。その細胞を、聖職者達は体内に埋めている」


「じゃあ、学校に通うのは危険なのでは?」


「吸血鬼と聖職者の戦いは秘匿された物だ。それこそお伽噺だったり絵本でしか聞いた事無いだろ?昼の、それに公衆の面前で争う事は無いよ」


秘匿された戦い。

確かにこんな事が明るみになれば日本は大騒ぎだ。

通称吸血鬼事件の噂から、本当に吸血鬼を認めてしまう事になるから。


「お食事お持ちしました〜〜。お食事は心と心の受け渡し!召し上がれ〜」


マユさんがパンにハムを挟んだサンドイッチを5つトレイに乗せて持って来る。

食事を運ぶ割烹着姿の彼女。中々様になっていた。

そうしてそれぞれの机に並べていく。

食べ物を見たレイラの目がキラキラと輝いていたが、レイジがそれを手で覆い目を塞ぐ。

海斗がサンドイッチを眺め、少し齧り苦い顔をする。


「すまんな。吸血鬼はこんな安い飯じゃ満足出来ねえんだ、それこそ人の血とかじゃないとな」


そう吐き捨てた。多分、彼なりのジョークだろう。


「そんな事言うから、吸血鬼は人に狩られるんじゃぁありませんか?」


ワナワナとマユの顔が震える。笑顔の中に隠しているつもりであろう怒りが隠しきれていない。

最もだ。今のは中々ノンデリカシーすぎる。


「・・・すまない、人の血しか体が受け付けないんだよ」


海斗が申し訳無さそうに渋々言葉を紡ぐ。

空気の重くなる感覚。それは他の吸血鬼の皆も、その思いがあるのだろう。

各々の心が合わさり、場を静寂に変える。


「じゃあ、私の血でいい?」


一瞬、あり得ない言葉が聞こえた。

そう言いキッチンに置いてある包丁に手を当て、シュッと定期券を通すように刃を通過させる。

全く拒否もせず。

その姿に、僕は少し異常な何かを感じた。然し吸血鬼の面々は特に何も言わない。

人の血って、そんなに簡単に差し出して良いものだったか?


「吸血鬼は人の血しか飲めないんでしょ、さっき聞こえた。まずレイジさんから」

と赤い滴が滴る左手の指先をレイジの前に出す。

レイジは驚いた様子でその血を恐る恐るすすり、地に跪く。


「天内マユさん、俺と血の契を交わしてくれるのですね!女性の方から血を先に差し出して頂けるとは、何と言う・・・!俺は皇子です、俺と結婚すればあなたは王妃になり、吸血鬼の未来は存続される。安心して、俺に身を委ねて欲しい」


「見ろよアイツ、変なスイッチ入ってやんの。あれが吸血鬼世界の求婚の証だからな」


海斗がケラケラと笑い指を差す。

レイジは、真面目過ぎてスイッチが入ってしまったのか。単純にあっちの世界とこちらをまだごっちゃにしてしまっているのか。

成程、だからその行いに対して誰もおかしいと思わなかったのか。


「レイジ」


マユさんの冷めた目つき。


「マユさん・・・!」


レイジの何とも幸せそうな顔。


「少しは世間を学んで来い!」


そうして、彼の頭はサンドイッチを乗せていた銀鉄のトレイで殴られた。

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