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第3・5話 「輝ける十字」

まさかまさかだ、ハーフを見つけられたとは。

やはり人間との和平は成立するのかもしれない。一切関係ないが、景気の良い事だ。

それに、眼の前の女子。一切私達の姿に驚いていなかった。多少は驚いていたが、今はこうして話している。まだこんな少数派閥がいてくれたとは。


「え?救急車は呼べないってどうして?」


「実は、ちょっと訳アリで・・・」


本当は彼が半吸血鬼化しているからだが。採血などもしされると面倒な事になる。


「あ、そういう・・・取り敢えず、えー、この子、私の家に連れて帰る事にします!!」


「物わかりが早くて助かる。俺も付いていこう、彼は知り合いでな」


俺は誠の身体を抱えて、早足で路地裏から出る。

さっきの雑魚吸血鬼の消滅で他の鬼を呼び寄せては厄介だ。

こういった雑魚がいる場所には、近くに縄張りの住処がある可能性が高い。頭脳が無い彼らなりに、この街の捕食範囲を広げようとしているのだろう。

こちらとしては、それでも徒党を組んで襲いかかられるという事が無いから幸運だ。

言葉が話せない吸血鬼は、我々の仲間が無理矢理人や動物に血を与えて鬼にした物。

好き勝手に命を弄んで・・・!同族であっても俺は許せない。


「こっちです」


早歩きの彼女を追いかける。

街中の方ではなく、東の方に見える山の方へ移動していく。


「そういえばお嬢さん、名前は?」


「天内マユです。お嬢さんって言われるほどお嬢さんじゃ無いですよ」


これは礼儀作法的な物のつもりだったが。


「すまない、マユ」


俺は素直に走りながら会釈する。


「良いです。あそこで逃げる方が悪いでしょ」


「然し・・・」


「それにそういうの、失礼な気がして」


「失礼?」


「例えば女の人の幽霊を見たとします。その人が恨めしそうに何かを言うけど、逃げちゃいました。その幽霊は人に会えた事が嬉しかったのに逃げられちゃう。これって幽霊視点に立ったら悲しくありません?」


例え方が良く分からないが、それは確かにそうだ。

それに、俺だってそんな目にあった事はあるから。


それにしても。


「よくそんなの走りながら噛まずに話せるな」


俺は素直に感心している。


「・・・」


然し、そう言うと彼女は黙ってしまった。

どこまで言っていいのか、配分を学ぶ必要があるかもしれない。


そして、気付けば周囲が建造物から草木に変わっていた。都会と田舎とは、こうもシームレスに変わるのか。


すると。

奥の森から、何かがざわめく音が聞こえた。

それは虫の囁きなどでは無く、極めて野性的な足音と、蝙蝠のような羽ばたき。

彼女は気にもとめていない、恐らく俺だけが気付いた物。

ともすれば、もしや吸血鬼が近くに。


「マユ、ここから家までどれくらいだ」


「えっと、15分くらい、だけど」


「すまない。ちょっと用事ができた。彼の事、運んでやってくれないか?」


「え、ええ!?」


後、言っておくべき事は・・・


「後、俺の仲間がもうじき君の所に来るだろう。上手くやっておいてくれ」


「いやいやいや、色々勝手すぎません!?」


それは俺も承知だ。

だが、眼の前にいる何かが人を襲ってしまうかもしれない可能性があったとして、俺はそれを放って置く事が出来ないんだ。愚直な真面目馬鹿だ。

だが、さっきはそんな性格のおかげで一人助けられた。

だから、芽は潰す。


「すまない」


心から謝る。


「まあ、うん?」


そう言って、マユは倒れた誠を肩に垂れ下げる。


「男の子って結構重いな・・・終わったら変わってくださいよ」


文句を言いつつも、彼女は少しずつ歩いていった。

じゃあ、俺も行こう。

少しずつ進む歩みとは対称的に、俺は闇を駆け抜けた。



○○○


 森林という場所の敵にとってのアドバンテージは大きい。

撹乱の他にも、単純に迷う事による衰弱も狙える。それに今は夜だ。普通の人間なら格好の餌食になる。

俺はならないけど。


この日本で人里近くの森林に蝙蝠がいる筈もほぼ無く。可能性は無くは無いが。

恐らく蝙蝠型の吸血鬼がいる。血が与えられすぎた人間は、時折体の限界を超えた能力を得る事がある。それが人狼であったり、今俺の上を舞っている蝙蝠男だったりだ。


俺の上空を回るだけ。

油断した所を狙うつもりだろう。

だが。

対空攻撃くらいこちらは完備している。

俺は歩を止める。触手の展開準備。背中から全てが生えきるまで0・5秒。

そんな時間であちらが俺を完封できる筈もなし。

臨戦態勢に気付いたのか、蝙蝠男はただ真っ直ぐにこちらへ垂直落下してくる。


上空からのバードストライク。

乱戦時にされると非常に厄介だ、ただ相手は一人。

格好の的は立ち止まっている俺では無く、ただ落ちるだけのお前だ。

蠍の尾のような一本が、蝙蝠男の翼に刺さりふらふらと落ちていく。

顔への直撃を狙うつもりだったが、俺も戦わない内に鈍くなったものだ。


こうやって頭の中で明るく振る舞っていると、相手への罪悪感が消えてくれる。

元は人間だと考えると、今も手が震える。だけどそれを誠は肩代わりしてくれた。

これから付き合っていく仲間に迷惑はかけられないから、自己解決しなければならない。心に仮面を付けるんだ。


今度は確実に。

そう蠍の一撃をもう一度かまそうとすると、真横から眩いまでの銀が蝙蝠の頭へ飛んできた。


「A person's prayer drives away malice」


それと同時に聞こえる機械音的なシステム音声。

・・・聖職者、この街にもやはりいたか。


その銀は光を反射しなくなり、赤色を纏った刀の影が見える。

そして刃を蝙蝠の頭から引き抜く、黒いパーカーを羽織った女性。


「この街にもいたか、聖職者」


すると、その女性はバツが悪そうに


「あなた、喋れる吸血鬼なんだ」


と刀の血を振り払った。

そして、切っ先を俺に向ける。


「喋れる奴は強力個体だけど、エンカウントした以上仕方ないか・・・」


そう、俺達吸血鬼と人間達聖職者の争い。

かねてより行われてきた吸血鬼狩り。同朋も奴らに殺されていった。

だが、俺の目指す吸血鬼の未来は彼らへの復讐ではない。


「いや仕方無くは無い!ここは互いに引こうではないか」


人間との平和、即ちラブ&ピースだ。


「正義漢だね」


然し、刀は引かれない。


「その感じだと雑魚吸血鬼の巣を潰してた?意味無いよ、大元の血を提供した奴を潰さないと」


ああ。そうしないと増える一方だ。然し。


「だが人間からすれば全てが恐怖の対象だ。実際、ここ最近の事件の原因でもある。聖職者はその処理に当たりに来たのでは無いのか?」


俺は正義漢なんだ。


「まあ、そうだね」


合図も無しに、彼女の刀は俺の前で炸裂していて、反射神経でそれを触手で防いでいた。

こうなってしまっては・・・取り敢えず刀を弾き落とす。


動きの読めない心臓への突きの攻撃。それに対し都度触手で防ぎ、別の腕で刀を落とそうとする。触手に痛覚は無いから防げば安心だが、かなりヒヤヒヤする。


刀を刺突武器として使う相手はあまり見た事が無い。

彼女の動き、まるで鳥を相手にしているかのようだ。そのくらい俊足で流麗。


「君、名前は何だ?」


時間稼ぎとアイスブレイクのファーストコミュニケーション。


「・・・九条彩」


よし、話し合えるなら何とかなる。


「どうして君は聖職者に?戦う理由が?」


突きからシンプルな斬撃に映る。

触手が切られ、その都度再生させ中に刀をつっかえさせようとするが、その再生より速く彼女は動く。

足元に落ち葉がその移動で舞い上がる度に、それが鳥の羽のように見えた。


「家族がみんな吸血鬼に惨殺されたから。それで保護されて、体を改造されて戦士になったから」


ああ。それは最もな理由だ。


「それは、すまない」


そう言うと彼女は、プッと少し笑った。


「謝罪する吸血鬼なんて初めて見たよ」


刀が粒子となり消えて、小さなロザリオとなる。

聖職者の基本武装だ。


「私は吸血鬼を恨んでいる。でも、私はだからってあなた個人は恨まない」


そう言い、彼女は踵を返していった。


「まあ、お互いいい感じにやりましょ」


「すまない、ありがとう」


・・・なんだか今日はこれからいい感じになりそうな予感がしやすい日だ。

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