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第14話 「動く影」

  「吸血鬼のリーダーっぽい奴を見つけた?」


授業中にも関わらず僕らは校庭に呼び出された。こっちもマユさんを探しに行く所だったから問題ないが、教師としてはどうなのだろう。


「ていうかそれよりだ、マユがまだ学校に来てねえんだとよ。ちょっと用事を済まして来るって言って一時間半だぜ?」


「邪推かもしれないが・・・ 彼らは吸血鬼の候補を既に捕らえていると言っていた」


「どちらにせよ、話を聞く限りではこのまま野放しに出来ないな」


腕を組みじっと考えるレイジ。


「ああ、早く何とかしないとまた生徒から・・・!」


少し早口となって焦る先生。

何故か横にいるレイラも、手を何度も組み替えてモジモジしていた。


「先生、焦ってます?」


校庭に生えている眼の前の木の裏から、暁が現れる。


「先生は僕達と同じでこっそり学校に入った身でしか無い。そんなに生徒みんなと仲良く無いですよね?なんでそんなにやろうとするんですか?偽善ですか?ずっと違和感に思ってたんですが」


暁が僅かに先生を見やり、呟く。


「もし、先生をやってる感を守りたいとかなら、そういうのは辞めてください」


「そんなつもりは無い。私はただ自分が教師である証、そんな生徒達を守りたいだけだ」


「良いように言ってますけどそれ、教員試験に落ちたけど偶然今は現地に紛れ込む人間として教師になれてラッキー、そんな今この瞬間を先生が守りたいだけですよね?」


校庭に静寂が訪れる。

先生はその言葉は否定できずに俯いていた。



「お兄様、私、行ってきます。私はマユさんを守りたい」


この話は打ち切りとレイラが手をいじるのを辞めて、一歩踏み出す。


「いや、レイラ。行くのは良いが、お前には戦いで力を使ってほしくない。だから一人では行かせない」


「兄様、私は兄様の事が大好きです。でもこっちに来てから戦いに行くのを兄様に止められてばかりです、それはなんでですか?」


「それは、お前にこれ以上苦しんで欲しくないからだ」


「大丈夫、私は苦しんでいません。兄様にも、迷惑をかけないようにしたいです」


そう言って、レイラは校庭の外へ駆け出していった。


「へえ、変わるもんだね。そろそろ一人立ちかもな」


海斗が少し嬉しそうに去っていくレイラを眺めながら呟く。


「いや、とっくにレイラは成長してるさ。あの子が自分の力を得た時からな」


苦い飲み物を飲んだ後のような後悔の表情がレイジの顔に少し表れていた。


「・・・あの子から感情が消えたのは、この兄のせいでもあるからな」





○○○


 私は走る。マユさんが心配という気持ち。

お兄様以外に久しぶりに興味を示せた人、そんな他人を追いかけようとする私。

私と繋がって埋めてくれる人が必要・・・


「吸血鬼が人間の為に動く物なんだね、驚きだよ」


すると、横に暁だったか___

眼鏡を押し上げながら走ってくる男がいた。


「私をここで殺す気ですか」


「いや、後でだ。先に天内マユの安否についての懸念を払拭しておく必要がある」


「あなたこそ、マユさんと別に仲良くないのになぜそう助けようとするんですか」


私は彼に問う。


「僕は聖職者の教えの元に世界を守るだけだ。君こそ、なぜ助けようとする?」


「私は、私が生きている実感が欲しいんです。それをあの子は与えてくれるような気がする・・・ 誰かと一緒にいたいだけかもしれませんが」


「兄の次は天内マユに依存するという事かい?」


それは、そうかもしれない。

お兄様はこれから私とずっと一緒にいてくれる訳では無くなる。だからあまり迷惑もかけられない、そこから私を埋めてくれるかもしれない人を探して見つけたのがマユさんだ。だがマユさんとはあまり話していない、これは一方的な親愛関係かもしれない物。


「君達吸血鬼が生きる実感を得るのは簡単、人を食って温かい血で体を満たせばいい」


「それは駄目だから、こうして私達は街で暴れる吸血鬼を殺しているんです」


「駄目ねえ、それはどうだか」


疑りの目をもってこちらを睨んでいる。目の下には炭で煤けたような隈ができていた。


「そうね、私は協力できる内に協力しといた方が良いと思うよ」


すると突如私の頭上から、声が低くも明朗な、女の子の声が聞こえてきた。


「九条か」


制服の中から出た黒いフードを頭に被った女の子が真上の電柱から飛び降りてくる。聖職者が私達の血を浴びるのを避ける為に着るトレードマーク、ならあの子も。


「牙崎レイラさん。私は九条彩。今こうして走ってるって事は、何か当てがあるって事でいい?」


あれ、顔を見れば近くに座っていた子だ。でも、それより今はマユさんの方が大事だ。


「はい。私はマユさんとお兄様に糸を這わせています」


「糸?」


「私の能力の一つです。きっと、繋がっていたいという想いから生まれた物」


「君の兄が君に対して感情が無いと言っていたけどそんな事ないじゃないか。依存も立派な感情だ」


「そう、なんですかね・・・」


思案しつつも、体は歩みを止めない。


「これで吸血鬼と何も関係ないただのサボりだったらお笑い草だね」


「まあ、平和ならそれに越した事は無いんじゃない?」


「所でだが九条、お前は吸血鬼に大切な人を殺されているはずだ。なのになんで彼らとすんなり話せる」


「私にとって恨むのは全体じゃなくて個人だよ。殺した奴しか悪くない。勿論これから殺されかける可能性がある以上、危険かもしれなければ容赦はしないけどね。暁君さ、さっきから人に何かの理由をずっと聞いてるよね。もしかして、自分が思って行動している明確な理由が無いのが怖い?」


「・・・その吸血鬼は殺せたのか?」


「そいつが誰なのかは言わないよ」


「そうか、九条は九条の復讐を果たしなよ。僕は僕を育ててくれた聖職者の教えの元に進む」


私達は糸を頼りに進む。

街から路地へ、更に路地の裏路地へ。

周囲が閑散とした建設予定地の空き地になった時、黒く塗られた木造の家屋が現れた。

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