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第12話 「平和の形」

僕達はそのままマユさんの家、もといご飯屋に帰ってきた。

気付かなかったが、店の前には木で作られた立て看板があり「飯処」と書いてあった。なるほど、これでは客人は来ないわけだ。

一体いつの時代のセンスなんだ・・・


どうやら敵を倒した後僕は二時間程熱を出して倒れていたようで、みんなで必死に冷やしてくれていたそうだ。頭に氷か何かを乗せられていたのだろうか、今も頭が冷えた時の痛いを伴っている。


「この前までは雑魚だったのに向こうも急に強くなってきたな」


海斗が少し疲労が籠もったような声を漏らす。実際は疲労では無く、伸びをしているだけだった。


「誠、ありがとな」


伸びたまま、突如感謝された。


「? 何が?」


「俺達といてくれて」


「半ば成り行きみたいな感じだけどね」


「それでも良いんだよ」


ああ、僕もそれで良い。

そんな急展開で、僕の世界は完全に変わったんだから。


「まあ、今こうして折角みんないるんだからご飯にしない?」


人が多くて嬉しいのか、声色が明るいマユさんの声。

もしかして、全員生きていた事の嬉しさでは無くたっぷり食事代でお金が稼げるからかと少し邪推してみる。


「マユ、お前学校とこことでテンション全然違うよな。学校にいたお前、別人みたいだったぜ」


「・・・ぐぐぐ、結構傷付く事言うじゃない」


海斗が言った事のような純粋な発言は言われると悪気は無くとも当人は少し傷付く。

友達が少ない人間は、かえって学校以外の方が羽を伸ばして自由に振る舞えるのだ。

僕にもその気持ちは分かる。

マユさんは一人で旅行とかに行って一人で凄くはしゃぐタイプの方だ。

僕も一人で何かをする方が楽しめる事が多かった。

共通項があると少し相手と近付けた気がして安心感がある。


「誠君?なんて顔してんの?」


マユさんが怪訝とした顔で僕を見つめている。

怖い。

自分が今どんな醜態を晒しているのか。


「ニヤケ顔って結構気持ち悪いんですよ、実は」


レイラの言葉で、僕の心は完全にとどめを刺された。


「あ、私が学校で喋れないからって笑ってたんだ!!」


「ごめん、マユさん・・・」


そういう事では無いのだが・・・


「ねえ、誠君ってさ」


誤った途端、何か疑問を口に含んでいるかのように問われる。


「さんずけだったり君ずけってさ、どういう基準で付けてる?」


確かに、なんで付けたり付けなかったりなんだろう。

吸血鬼組はなんか僕らとは違う種族だから付けていないのかもしれない。

あまり友人のいない僕が少し話す九条も九条で名字呼び捨てだ。

でも、もしかしたらその場その場で呼び方は変えるかもしれない。


「なんか、自然と、かな」


「あ、それはあるかも。私はつけるのがしっくり来る時と来ない時かなぁ」


「その基準は?」


会話がループしているような気がする。


「え、うーん、私殆ど学校来てないのに同級生を呼び捨てっておかしくない?だから、距離?」


「距離感?」


「多分」


会話が途切れた瞬間、僕達は互いに目を合わせる。

もしや、この会話は互いに互いを傷付けただけの不毛な会話ではないか?

互いに距離がある事が分かっただけではないか?


「俺はそんなの考えた事無いけどな、下らねえ」


ナイス助け舟、海斗。

元はと言えばお前が始めた物語なのだが・・・


「まあ、ご飯にしよっか」


「うん・・・」


すると、その微妙な空気を壊す入口のベルが鳴る。

そこにいたのは、驚くべき来客。

暁と、坂本先生だった。





○○○


 「公の場での戦闘はご遠慮願いたい。いや、公では無くとも、だが」


そう言い停戦を図ろうとするレイジだが、いつ戦闘になっても良いように構えていた。


「いや、私達もびっくりだよ。腹ごしらえのつもりで入った店でまさか君達と会うとは」


「チッ・・・ 山の個体と情報が混ざったか。てっきり山に巣があると思ったが」


「山の個体?」


僕は尋ねる。


「このレストランか喫茶店か分からない中途半端な店の奥に山があるだろ?今からそこの調査だ。吸血鬼も観測されたからね」


「中途半端・・・!」


「事実だろ?カツカレーを二つお願いします。先生、僕は外の椅子で食べるので」


そう言うと、スタスタと暁は出ていってしまった。

それを眺めつつ、先生が頭をかく。


「あ、そういえばアンタさっき隅で震えてた奴だな?」


先生に向けて指を指す海斗。


「事実ではあるけどあまり大きな声で言わないでくれるかな?君達、強いでしょ?私なんかが挑んだら一瞬で殺されるよ」


「へっ、畏れ多くて手が出せないか!」


すると、会話を遮り再び扉の鈴が鳴らされた。


「あれ、今日は店人いっぱい来てるやん!!」


大阪弁混じりの無精髭を生やした中年の男が今度は入ってきた。

今日も今日とてとことん情報量が多い。


「あ、おじさん!」


・・・おじさん?

マユさんはその男に駆け寄っていった。



○○○


その中年の男は、城崎ケイジと言う名前らしい。

見た目とは裏腹に、わんぱくな少年のような名前だ。

ご丁寧に野球帽まで被っている。見事な大人少年。


「この店は俺の店で、それをマユが手伝ってくれてる訳やな。まあ第二の父、みたいな感じ。ありがとうな、友達になってくれて」


「いえいえそんな・・・」


こっちだって感謝している。


「店はどうや?」


「客が来ないから普通の家になってるよ」


「やっぱそうか、まあこのまま終いにしてもいいかな」


「私がやだよ!やっとちゃんと料理作れるようになったんだから」


「まあ費用諸々は全部こっち払いやし、好きにやりや」


そうして二人、店奥の倉庫のような所に入っていった。

なんとも仲睦まじいというか、師匠と弟子みたいだ。


「あの親あってこの子ありって感じだな」


厳密には親では無いのだが、ずっと一緒にいれば性質が似てくるのだろう。

そういえば、僕は両親の事を殆ど覚えていないから親に似た部分があるかは分からない。


そんな事を考えながら近くの椅子に座ると、すぐ横で坂本先生とレイジが話していた。イメージの湧かない組み合わせの会話に、耳を傾ける。


「聖職者の人間、いや、一応俺は生徒だから坂本先生と呼ばせてもらおう。先生は、吸血鬼にされた人間を殺せるか?俺達が相手にしてきたのは大方元人間だ。本当の吸血鬼が裏にいるのは分かっているが、未だに手が震えるんだよ。だがそれでも彼らを殺さねば、今度は一般人が殺される」


レイジの、戦いにおける話だった。

そう、レイジは愚直なまでに優しい。きっと、それを隠して彼は戦い続けている。


「君は優しいんだね」


先生は僕が考えている事と同じ事を言った。


「俺はあなた達の組織とも和平を結びたい。それは遠い未来かもしれないが・・・」


「そうだね・・・ きっかけがいるよね。特に暁君だ。彼は吸血鬼を目の敵にし続けているから」


「彼は何か俺達にされた事が?」


「いや、それがね。無いんだよ。彼は孤児でね、聖職者に拾われたんだ。それからずっと上の教えに従ってきたんだよ。彼が孤児である理由は、ただ親が捨てただけ。吸血鬼は何の関係も無い」


どちらにせよ、一回話し合う機会があれば何か変わるかもしれない。協力できるかもしれない。教会がどれくらいの人数の組織なのかは分からない。

だけど周囲と少しずつ関係を結んでいけば良い。レイジの言う、ラブ&ピースだ。

その為の、話し合う機会・・・


「じゃあ今度みんなでご飯でも食べませんか?」


僕は聞いてみる。もう耳を傾けるどころかすぐ側で聞いていた。

ご飯はコミュニケーションだとテレビか何かで聞いた事がある。

僕は家でご飯を食べる時、殆ど誰とも話さなかったから会話能力が低いのかもしれない。


先生は少し笑う。


「まあ高校生は一緒にご飯食べたら仲良くなるからね、合宿とか遠足とかはその為にあるから。一回、聞いてみるよ。暁君も九条君も君達とは会った事があるから、多少は分かってくれるかもしれないしね」


「ありがたい・・・!」


レイジは初めて僕に会った時に見せた直角謝罪を再び行う。


「レイジ君はさ、戦いの葛藤で手が震えると言ったね?それは立派な事だ。

私は臆病で怖いから戦いにおいて手が震えてしまう訳だからね」


席を立つ先生。


「山から降りてくる気配を確認した、私は行くよ。すまない、頼んだご飯は君達が食べてくれ」


軽く会釈して、店の外へ出ていっていった。

先生、戦うのが怖いんだ。そういう人も、やっぱりいるんだ。


「朝霧君も食事の価値が分かってきたかな?」


店の奥からこちらに歩いてくるマユさんの声が聞こえる。


「え?」


「だって、さっきご飯会提案してたの、私が言った「食事は心の受け渡し」が心に刺さったからでしょ?そうだよね?」


肯定を求める主張が強い。

まあ、そういう事にしておこう。

実際料理はその人の心が反映される。ご飯屋ならよっぽどだろう。

そしてそれを彼女は信条としているのだ。


「そうと決まれば吸血鬼共!人間の食事を食べられるようにしないとね」


腰に手を据え、高らかに宣言する。


「マユ、何とかしたいのは山々だが俺達は原理的に食えない。それをどう解決する?」


「当然、食べられるようになるまでゴリ押しよ」

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